アシスト生んだ、内田篤人とシャルケとの美しい関係
アウクスブルク戦前日の10月30日、シャルケは内田篤人との契約延長を発表した。2018年6月30日までの長期契約だった。
内田にはここまでにいくつかの選択肢があった。スペイン、イングランド、イタリアの各リーグのトップチームへの移籍を現実のものとして視野に入れたこともあった。だが、それは実現しなかった。シャルケ以上の環境、条件が望めなかったというのがその大きな理由だ。
環境、条件というのは何も待遇面を指すわけではない。シャルケのように国内で何らかのタイトル争いにコンスタントに絡み、チャンピオンズリーグでもベスト16に進出するというチームは極めて限られている。さらにそのチームでレギュラーとしてプレイできること、といったような条件を考えると、シャルケから移る理由は自ずとなくなった。
今回の契約延長は、内田にとっても大きな意味を持つものだったようだ。アウクスブルク戦後のミックスゾーン、内田はスタンドからの声援について話しながら、自ら契約延長に関し触れた。
「今日は本当に一つ球際で勝ったら『ウッシー』と声援をくれた。試合が終わってからもウッシー、ウッシーってファンは言ってくれていた。やっぱり契約更新して歓迎してくれているというか。認めてくれているのは、選手として幸せなことです」
さらに続けた。
「迷うこと? もちろんありました。移籍の話もまあ、なくはないから。でも、移籍するにしてもやっぱりお金(移籍金)は置いていきたいから。どっちにしろ契約更新はしてほしいとシャルケが言ってくれたから、しようとは思っていた。こんだけ良い経験させてもらって、タダで出るのはやっぱり違うなと思って。
タダなら穫る選手と思われるなら、行く必要はないと思う、俺は。ちゃんとお金を出して穫るよ、という選手に成長していないってことだからね。そしたら行く必要ない」
そんな気合いの表れか、このアウクスブルク戦のプレイは際立っていた。37分のアシストのシーン。自陣でボールを奪ってから相手ディフェンダーをかわし、ゴールライン際まで一気にドリブルで突き進んだ。約70メートルという距離を高速で駆け上がると、ゴール前を冷静に見据えてクロス。それもマイナスのクロスでは読まれると思い、GKとディフェンダーの間にきわどいクロスを送り込んだ。走り込んだFWフンテラールのことは見えなかったと言うが、タイミングはぴたりと合い、先制点に結びついた。
「あそこにいるのはさすが。あいつ、今日は点取るからって言ってたんだよね......」と、内田はフンテラールを称えた。だが、好アシストあっての得点だったことは言うまでもない。
その後も内田は前でプレイするMFオバジをサポートしつつ、体を張ったプレイでスタジアムをわかせた。この日はピッチ状態が悪かったといい、「技術云々じゃなくて、戦う試合」になったと表現した。その一方で、「うちはもう少しつなげるはずなんだけど、どうもロングボールになるし、ミスも多い」と、試合内容には不満も漏らした。
だが、そんな中でもしっかりと体を張り、的確な予測からのインターセプトでいくつものピンチを救った。力強いディフェンダーらしいプレイは、シャルケに来てから身につけたものだろう。"体を張って戦う"タイプの試合で、内田は予想以上の存在感を発揮した。
「まあ経験もあるし、試合中にそういう戦う試合だって切り替えられた。自分も悪いしみんなも悪いから、球際が大事で、ファンの声援に後押しされた」と、再びスタンドへの感謝を口にした。
試合後ビルト紙電子版はフンテラールと内田のみを2点(最高点1、最低点6)と採点した。ドイツ人記者も内田の活躍を称えるために、わざわざ我々日本人に話しかけてきた。取材中に通りかかったMFボアテングは内田を指して「ナンバーワンだ!」と我々に説明してくれ、心の底から感謝の意を表するかのような熱い抱擁で内田を困らせていた。
契約延長したからといって、現実には内田がシャルケに2018年まで在籍するとは限らない。それでもチームから愛され、評価を受け、それを理解して懸命に応える内田がいるという望ましい関係が見られた一戦となった。