あまちゃんファンブック2 おら、やっぱり「あまちゃん」が大好きだ!
扶桑社より発売中

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視聴率が「半沢直樹」を超えて、2013年の暮れを大いに盛り上げたと言われる「第64回NHK紅白歌合戦」。
大晦日は外でワイワイやっていて見逃してしまったという人や、何度でも見たい人のためのオンデマンド見逃し番組サービス配信が、いよいよ1月15日までとなりました。
ということで、今更ながら「あまちゃん」@紅白歌合戦のことを振り返っておきたいと思います。

なにしろ、企画されていた「あまちゃん特別編」が「第157回 おら、紅白に出るど」となっていて、脚本は宮藤官九郎、演出は、井上剛と吉田照幸のツートップと、本家本元。これが本当の最終回と、ファンを号泣させたのです。

先日発売されたDVD、ブルーレイの最終巻には「あまちゃん番組集」という本編以外の番組まで収録されていますが、残念ながら紅白の映像は収録されていません(スケジュール的に間に合わないですものね)。
真の最終回がソフト化されないかもしれないと思うと、もったいないことこの上ないではありませんか。
エキレビ!では、昨年、毎週レビューを書いてきたので、157回とカウントされたからには、これについて書かないわけには、やっぱりいかない気がしてきたので、今更書いておきます。それでは出発進行ー!

紅白の去年のテーマは「歌がここにある」でしたが、隠れテーマは「あまちゃん」でしょ?と思えるほどの、あまちゃん尽くしでした。
番組開始早々、司会の嵐と綾瀬はるかが語っているバックミュージックは、大友良英率いるあまちゃんスペシャルビッグバンドによる、紅白アレンジの「地元に帰ろう」「暦の上ではディセンバー」「オープニングテーマ」。
司会のトークからカメラは本会場NHKホールへ。客席にはビッグバンドがジャガジャガフガフガと生演奏しています。
天野アキ(能年玲奈)が参加と事前に情報が流されていて、私はリコーダー担当か?と予想したのですが、その直後にパーカッションと発表されました。
そのパーカションは、なんと銅鑼。ジャーン。銅鑼ですよ、銅鑼。パンチありまくりです。やっぱり一筋縄ではいきませんね、「あまちゃん」ワールドは。
オープニングテーマから曲は「お正月」へ。大友アレンジの「お正月」はかっけくて、耳に馴染んだ「お正月」が新鮮にヒビキました。

それから、多くの歌手が歌を披露して40分ほど経過した後、再び、天野アキ登場。
紅白らしく、地方と中継がつながっているという体で、北三陸駅(久慈駅ロケ)前に吉田正義(荒川良々)がいて、挙動不審過ぎる応対をします。
まめぶ大使の安部ちゃん(片桐はいり)が、まめぶ汁を紹介して、スナック梨明日の中に。ロケとセットのつながりを感じさせないテクニックがさすがです。
中では、忘年会中。ほぼ、北三陸オールスターそろい踏みの中、美寿々さん(美保純)だけいないことが残念でしたが、「年越しゴーストバスターズ」「ベートー勉」など、「あまちゃん」らしいフレーズがたくさん。

ユイ(橋本愛)がしゃべり、なぜか、鈴鹿(薬師丸ひろ子)がやってきて(夫〈太巻〉はNHKか?)、春子(小泉今日子)がサングラスして「紅白よ紅白歌合戦よ」と収拾がつかな過ぎて、「あのう、いったんやめます、中継いったんやめます」と嵐の二宮和也が淡々と事務的にその場を収めます。
それを残念がるのは、「あまちゃん」ファンを以前から公言していた松本潤。
何がすごいって、松本潤です。彼が、来るべきこの日のことを考えて伏線を独自に敷いていたとしたら、さすがコンサートの演出も手がけているだけはある頭脳派であります。

伏線。この言葉を、「あまちゃん」を語る上でどれだけ使ってきたことでしょう。年も変わったことですし、伏線という言葉を使わずに「あまちゃん」を語りたいところではありますが、紅白後半戦の35分頃からはじまった「あまちゃん特別編」で、またまた伏線回収されちゃった気がしてたまげました。

まず、GMTとアメ横女学園の仲間たちと紅白のステージで「暦の上ではディセンバー」を歌うこと。12月に歌われることを考えてのタイトルだったのか! と年越し蕎麦すすりながら、膝をパーカッションのように打ちまくりまくりながら、途中でリタイアした、宮下アユミ(山下リオ)がいることを喜びつつ、小野寺薫子(優希美青)、べロニカ(斎藤アリーナ)が未成年だからかいなくて、全員勢揃いにはならなかったことを惜しみつつ、今いるみんなの元気さを楽しみました。

「来年の恋なんて鬼が笑うわ」のところでアキが「ウニー」と韻を踏んだ合いの手を入れるところも心憎いです。舌出すのもかわいい。
それと、最後の決めポーズが、各々の個性が出ていたところが、「あまちゃん」らしい気がします。振り付けもドラマも担当した木下菜津子でした。

この後がハイライト。アキの呼びかけで、北三陸からユイがついに!ついに!東京へやってきます。
本編では、何度も何度も東京に来ようとして叶わなかったユイが、梨明日を飛び出し、列車に乗ってトンネル抜けて、宮古から、まさに「来てよ、タクシーつかまえて」で、正宗(尾美としのり)のタクシーに乗って空を飛んで、「この先へ」と歩を進めるのです。
余談ですが、ユイが出発する前の、梨明日の混沌の中、「さだまさしがダラダラしゃべって・・・」という菅原(吹越満)のセリフに「いいね!」を押したくなりました。

NHKホールについたユイは会場へと走ります。手持ちカメラで追いかける臨場感は観客の大好物です。そういえば、この中継パターンは、宮藤の舞台「高校中パニック!小激突!!」でも活用されていました。
タクシーの中で正宗が「ユイちゃんがんばれ」とエールを送っているのも台本通りなのでしょうか。

潮騒のメモリーズとしてNHKホールに立ったアキとユイは実に堂々と歌っていて、
ふたりの母になったような気分で、涙しました。
続いて、春子がブルーの照明を浴びながら、
鈴鹿がアンバーの照明を浴びながら、順に登場。
このふたりはどうやって北三陸から来たのでしょうか。鈴鹿が専用ジェット機でも出したのでしょうかね。

「三代前からマーメイド」で宮本信子の顔を抜くのも、さすがです。
が、宮本信子は、あくまで宮本信子。アキやユイ、春子に鈴鹿が、能年玲奈でも橋本愛でも小泉今日子でも薬師丸ひろ子でもなく役を演じ続けていることに対して、宮本は「夏ばっぱと似た人」なのです。

これには、各々のプロフェッショナル仕事の流儀を見た思いでした。
歌の場面では、紅白に選ばれた歌手にちゃんと敬意を表しているかのように、ドラマの人物として登場し、女優としては、終わったドラマを引きずらないという各々の姿勢がかっけーです。ひとりも中途半端に賑やかしをしていないところが潔かった。

とすると、ホントの最終回というふうでいて、これはやっぱり、もうひとつの「あまちゃん」ワールド。ありえたかもしれない世界なのだなあとも思いました。宮下アユミがリタイアしてない世界。夏ばっぱが、アキや春子を応援しに現れない世界。
それはそれで、しんみりします。舞台後方ではドラマの名場面が映っているので、それを見るたび余計にしんみりしていると、アキが「北三陸さ帰りてえ」というセリフを言う場面が出てきます。それに呼応するように「地元に帰ろう」の曲がはじまります。
チーム北三陸の人々も大集合(だから、どうやって来たんだ?)

大晦日、地元を離れて過ごしている人たちの里ごころを、これでもか、とくすぐります。この曲もまた、この日、紅白で歌われる運命にあったようで、海よりも、琥珀が埋まった地層よりも、深く感動です。

が、何よりも感動したのは、オチがヒビキ一郎(村杉蝉之介)だったこと。みんなが地元の名前を叫んでいるのに、春子だけは「ヒビキ!」と人名です。
審査員の宮藤の背後から、カメラを構えるヒビキ一郎。このヒトの存在によって、ものすごくいいコーナーになり過ぎず、涙を引っ込ませてしまうところが、クドカン先生らしかった。
ヒビキ一郎は人名ではありますが、地元と同じ「初心」的な存在なのです。だって、このヒト、ずーっと変わらずに、好きなこと(アイドルを追いかける)をやり続けているんですから。それに、みんなと一緒に舞台に上がることなく、客席でカメラを構えているのです。彼もまたプロフェッショナル仕事の流儀。ある意味、「あまちゃん」の肝なんです(あまちゃんはアマチュアンだけど)。最後に、ヒビキで締めたことには深い意味があるに違いありません!(力説)
その後、関ジャニ∞が「じぇじぇじぇじぇ」 を使ったり、岡田准一を、櫻井翔が「ぶっさん」(宮藤の書いた『木更津キャッツアイ』の役名)と読んだり、なぜかジャニーズが「あまちゃん」にやたらとコミットしていきますが、最も唸らされたのは、泉谷しげるの「春夏秋冬2014」でした。
全くの偶然でしょうし、こんなこと言ったら泉谷さんに叱られてしまいそうですが、「あまちゃん」の春子、夏、秋という名前を、この歌によって、改めて噛み締めさせられてしまったのです。

紅白の勝敗を決めるところでは、正宗が一瞬よろめいた同級生(大久保佳代子)とアキのツーショットなんかもあって、最後の最後までサービスに次ぐサービス。「あまちゃん」を半年楽しんできたファンには本当に嬉しいお祭りのようなことになりました。
こんなふうに、最後の最後で、ドラマをホンモノのステージに乗せて、虚構と現実の間を自由自在に遊ぶという偉業を成し遂げた「あまちゃん」。
実在の人物や楽曲などをドラマに出す手法を、その年の締めの紅白歌合戦という最高の場で昇華させることが、「あまちゃん」を作るとき念頭にあったとしたら、ほんと、最高のエンターテインメントを見せて頂きました。作りながら、その線に進んでいったにしても、みごとです。ブラボーと声がかれるほど叫び、手が腫れるほどスタオベします。

「特別編」の終わりに、アキが「いつかまた皆さんにお会いできる日を楽しみにしています」と噛み気味に挨拶したところに、一筋の希望をまだ見いだしてしまうヒトも多かったのではないでしょうか。
もしかして、もう一度、アキたちに会える日が来るのではないかと。157回が158回になる時があるのではないかと。
まあ、あんまり、引っぱり過ぎるのもよくないですけどね。
(木俣冬)