『ホワイトハウス企業 女性が本当に安心して働ける会社』(経済産業省監修/文藝春秋) 一人一人の社員を大切にしてくれる会社、ホワイト企業を紹介し応援する本。

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“商談の席で、相手側は半分は女性なのに、日本側はズラッと黒いスーツの中高年男性ばかりだった、というような海外経験のある方が日本に戻ってきて本社のトップになって、一気にダイバーシティを進めた、という話はよく聞きます。”
「ダイバーシティ」というのは、「多様な働き方」を指す言葉だ。
経済産業省は、2012年度から「ダイバーシティ経営企業100選」という事業を始めた。
それに関連して出版されたのが『ホワイト企業 女性が本当に安心して働ける会社』(経済産業省 監修)だ。
お役所仕事っぽいダサい装丁で読む気をなくしちゃうのだが、読むと中身は良かった。

いきなり飛び出してくるのは「男性不況」という言葉だ。
“今まで男性の雇用者が多かった業種、建設業、製造業等において、労働者が減ってきています。こうした業種は、雇用の受け皿としての成長が、もうあまり見込めないからです。その一方、少子高齢化の中で、女性の雇用者の多い医療・福祉といったサービス産業が伸びています。産業構造の変化を見ても、女性労働力に対するニーズが伸びているということが言えます”
さらには、“専業主婦を養える男性は、3.5%”しかいないというデータが示される。
ここまで読むと、男としては意気消沈という感じだが、そうではない。
男が排除されて女が歓迎されるといった単純な話ではないのだ。
産業構造、会社、家庭の変化によって、いままでの男性中心企業では通用しない。
ビジネス上の戦略としても、多様な働き方を切り開いていく必要がある。

ぼくがショックだったのは、第五章「ホワイト企業に就職する方法」に書いてあったホワイト企業を選ぶときにチェックすべきポイントだ。
こうある。
“平均勤続年数(男女格差)
実労働時間、または残業時間
有給取得率(日本全体では50%ぐらいが平均です)
女性の管理職比率(日本全体では約10%、大企業の課長以上、となると6〜7%です)
女性の役員比率(日本全体では1〜2%です)”
ううむ。
女性の管理職比率約10%、女性の役員比率1〜2%。
なんて少ないのか。
日本の会社が、いかに男性偏重型組織であるか。

もうひとつ驚いたのは、「総合職」と「一般職」があったが「総合職」に一本化する企業が増えてきたという記述だ。
まだ、そんなことやってんのか。
「増えてきた」ということは、まだ「総合職」「一般職」とかやってる会社があるっていうことだろう。
えええー、いま、2014年っすよ。
平成っすよ。
ごめんなさい。会社っていうものが、そんなにも古臭いところだってことに無知すぎました。

本書は、その古びた体質が変わってきているという実例、ダイバーシティ企業として工夫をこらしている会社の実例がたくさん登場していて、勇気づけられる。
「育休や時短の制度を整えて、育児中の女性が働きやすいように特別に配慮すること」では、ない。働き方の柔軟性を高めることで生産性を向上するベクトルを持つ。
サントリーホールディングスは、“2010年から全社員を対象にテレワークを導入。時間や場所を選ばずに、社内システムにアクセスして仕事をすることができるようになりました。子どもが風邪のときや、営業先が事務所から遠いときにも、上司の許可を得て在宅勤務を活用できるとのことです。”
そして、こういった取り組みは、「女性にやさしい」だけではなく、誰にとってもやさしい。ビジネス上の戦略にもなる。
日本マイクロソフトは、モバイルワーク環境が整っていたおかげで、震災の直後、社長が全社員向けに在宅勤務を呼びかけたところ、“業務上ほとんど支障は生じなかったそうです”。
育児中の女性を特別に時短するのではなく、働き方全体を見直す例も登場する。
資生堂は、“本社オフィスでは午後8時には電源を落として、男性社員、女性社員に関係なく事前に申請していない残業ができないように”なっている。

本書の後半は、「ダイバーシティ経営企業100選」から代表的なところとして、以下の25社の実例が載っている。
資生堂
サントリーホールディングス
日産自動車
りそな銀行
NTTデータ
東芝
第一生命保険
グリーンライフ産業
重松建設
六花亭
マイスター
金子製作所
三州製菓
花王
キリンホールディングス
サトーホールディングス
日立製作所
富士電機
リコー
TOTO
NECソフト
モーハウス
天彦産業
きものブレイン
サポート行政書士法人

『ホワイト企業 女性が本当に安心して働ける会社』(経済産業省 監修)を読んで、しみじみと実感するのは、「女性のため」の何かではなく、「個性豊かである自分たちそれぞれのため」の取り組みだということだ。
帯に「就活生、働く女性、必読!」とあるが間違いだ。男性も必読である。
(米光一成)