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2013年もあと数日。
目下の関心事は、大晦日の風物詩『NHK紅白歌合戦』(19時15分〜)で、『あまちゃん』がどれくらい時間を割いて登場するかであります。
エキレビで半年間連載していた「おさらいレビュー」でもあまちゃん紅白歌合戦」をやってほしい、と熱望していましたが、紅白さん、やってくれました!
番組中で、脚本家の宮藤官九郎が台本を書き下ろす「あまちゃん特別編」があると発表されて、ファンは狂喜乱舞です。

さらには、オープニングテーマも、大友良英率いる「あまちゃんスペシャルビッグバンド」が担当、天野アキもバンドに参加するという趣向になっているそうです。
アキちゃんには、リコーダーを担当してほしいな〜(以前、大友氏にインタビューした時、最初、アキの音のイメージはリコーダーだったと聞いたのです。途中から、いろいろな人にも当てるようになったそうですが)。

紅白PR大使として能年玲奈が飛んだり跳ねたり、面白いことを言ったりして活躍していますし、これだけ『あまちゃん』に頼っていると、現在絶賛放送中の『ごちそうさん』の立場はどうなのか、ちょっぴり不憫な気持ちになってしまいます。実のところ『ごちそうさん』のほうが視聴率は高いようなのでね。
いくら、審査員に杏、ゲストに東出昌大、オープニング担当のゆずが白組出演と言っても、『あまちゃん』関係者の人数にはかないません。
「あまちゃん特別編」で、「暦の上ではディセンバー」(そうか、これも紅白を見越した伏線タイトルだったのか!?)をGMTスペシャルユニット、フィーチャリングアメ横女学園が歌うそうで、そのメンバーは、GMTの入間しおり、遠藤真奈、宮下アユミ、喜屋武エレン、アメ横女学園の有馬めぐ、成田りな、それに、本当に歌っていたベイビーレイズ。そして、忘れてはいけない天野アキ。
これだけでも、もう12人。
宮本信子が審査員で参加している上、『紅白歌合戦』の公式サイトによると「天野春子、鈴鹿ひろ美、足立ユイの皆さんにも、出演をオファー。天野アキを応援すべく出演していただけることになった」と書いてあります。
これで16人です。あまちゃんバンドは30人強いるようですから、足したらかなりの大所帯ですね。

公式サイトの文章の面白いとことは、あくまで、劇中のキャラクターとしての扱いであるということです。
最初に読んだときは、NHKのサイトの中の人が、浮き足立って、
役名だけを書いてしまったのだろうか、とも思ったのですが、意識的な遊び心のようですね。
この発表原稿から、既に「あまちゃん特別編」のドラマははじまっているのです。
ドラマ最終回時は、2012年の7月ですから、あれから1年と5ヶ月経った13年の12月、天野アキやGMTに出演のオファーがあり、アキの応援として、母やユイや鈴鹿ひろ美も声をかけられたという設定というドラマが(あくまで予測ですが)。

スナック梨明日のセットも再現という話もあり、場所は北三陸市で、梨明日常連さんも集結して、スナックで『紅白歌合戦』を見ながら、相変わらずグダグダやっているシチュエーションコントを期待。
2005年に、演劇界の芥川だか直木賞・岸田戯曲賞を受賞したクドカン先生の舞台『鈍獣』ではスナックの場面がありましたし、ステージのほうが、スナックシーンを生き生き書けるのではないか、と妄想致します。
木野花、渡辺えり、吹越満、荒川良々などの舞台人が、NHKホールで生放送によるシチュエーションコントをやったとしたら、かなり感動です。
となると、松尾スズキも古田新太も出てほしいですよね。
総合司会が『八重の桜』の綾瀬はるかですから、山川健次郎役だった勝地涼に、前髪クネ男の2役で出て頂きたい。古田新太が得意とするような切り返しの演技で、全然違う2人をやってくれたら、最高の大晦日だと思います。
勝地と共に、クドカン先生の舞台『高校中パニック!小激突!!』に出演している、いっそん先生こと皆川猿時にも、2005年、紅白で、クドカン先生と共にグループ魂としてゲスト出演した時のように大暴れして頂きたい。と、なると、グループ魂のメンバーはもうひとり。ヒビキ一郎こと村杉蝉之介も外せません。こんなふうに、あの人もこの人も、と際限なくなってしまいます。困った。って私が困ることではないですが。

それから、やっぱり、「潮騒のメモリー」を春子、アキ、ユイ、鈴鹿で歌ってほしいところです。
でも、あんまり、企画コーナーが盛り上がり過ぎて、肝心の出場歌手の視聴率よりも高くなってしまうと、いろいろ問題もありそうですから、盛り上げつつ盛り上がり過ぎない、まめぶ汁的微妙な気遣いが必要なのかもしれないですね。

いずれにしても、2013年は『あまちゃん』にはじまり(はじまってないけど、4月からだったけど)、『あまちゃん』に終わるのだなあとしみじみします。今年の除夜の鐘は胸に響きそうです。

ドラマ『あまちゃん』は、関連書籍もたくさん出版されて、どれだけ掘り下げてもキリがない情報量が盛りだくさんで、朝ドラを変えた、とか、最近テレビ離れと言われる中で再びテレビドラマに視聴者を呼び戻した、とか言われてきましたが、ここに至るまでには、13年という長い歳月があることも忘れてはいけません。
1年間を振り返るついでに、後半戦は、この13年間もちょっとだけ振り返ってみます。

宮藤官九郎が連続ドラマの脚本を初めて手がけたのは、2000年の『池袋ウエストゲートパーク』(以下IWGP)でした。
原作は石田衣良、演出は現在、映画『SPEC〜結〜』が大ヒット上映中の堤幸彦です。
池袋を舞台に、ギャングと呼ばれる若者グループが抗争を繰り広げていく中で、猟奇的な殺人事件が起こります。最終的に、意外な事件の真相が明るみになりますが、その間、友情や恋愛も絡んでいく、青春ミステリーです。
このドラマで、既に『あまちゃん』への実りを感じさせる芽がいくつも現れていました。
そのひとつが、外国人の彼氏。
『あまちゃん』で美寿々(美保純)がバングラデシュ人の彼氏と一時期つきあっていましたが、『IWGP』では、登場人物の彼氏にイラン人男性がいるエピソードが出てきます。
で、『IWGP』の次のクールからはじまった堤演出の『トリック』
では、主人公の住むアパートの大家さんがバングラデシュ人とつきあった末、結婚して子だくさんとなります。このバングラデシュ人が、『あまちゃん』のバングラデシュ人と同一の俳優アベディン・モハメッドなのです。
外国人の彼氏がいるという設定自体は珍しいものではないですが、
欧米人ではなく中東の恋人をドラマに登場させるところに、リアルな日本を感じさせます。
余談ですが、『IWGP』のイラン人彼氏が「イランのことわざでは……」とすぐ言い出すところは、今年の人気ドラマのひとつ『リーガルハイ』で「サウジアラビアのことわざでは……」とすぐ言う、羽生君(岡田将生)みたいでありました。

『IWGP』で印象的だったことはまだあります。
「CDだってさ、レコードだった時はA面とかB面とかあったけど、CD は全部表じゃん。だから早くCDになれよ。何言ってんだ、おれ」という主人公の台詞です。
彼は、多重人格障害だった彼女に、そう言って「がんばれ」と励ますのです。
この時から既に、表とか裏とか、白いとか黒いとか、明確に線引きするのではなく、すべてまとめてその人、という感覚がクドカン作品には漂っていました。
それが、『あまちゃん』で、甘さと辛さが混ざったまめぶ汁に行き着いた気がしますし、琥珀一筋実直な印象だった勉さん(塩見三省)が「琥珀なんかより」と口走ってしまうようなビックリ場面も登場するのでした。
方言や、字幕なども、『IWGP』で既に登場しています。以後、宮藤も堤も、各々の作品で、地方都市の都会とは価値観のやや違う生活をおもしろおかしく描いていきます。非トレンディ、非オシャレドラマが作られはじめていたのです。
『あまちゃん』で注目された、各所に配された「小ネタ」は、『踊る大捜査線』でも盛り上がっていましたが、『IWGP』や『トリック』で、一層ディープなものになっていきました。『トリック』の最初の劇場版では、喫茶店でナポリタンを貪り食う客たちの描写なども出てきます。
別にこれ、パクりチェックではありません。宮藤や堤の世の中に対する視点には近いものがあって、それがこの13年の間に、じわじわと主流となってきた、ということです。

2000年は『IWGP』で宮藤官九郎という才能が連続ドラマの世界で注目され、『トリック』という今なおシリーズが続いている(2014年1月11公開の映画で完結を迎える)ドラマが誕生し、
さらには、あの人気刑事ドラマシリーズ『相棒』も誕生した、ドラマ界的にはエポックメーキング的な年だったのです。
『相棒』と『トリック』のヒットにより、この13年の間、様々な相棒(バディ)ドラマが誕生しました。ついでにミステリードラマもあふれ返りました。ミステリードラマ、バディものというヒットの条件が確立しましたが、そのせいでドラマが迷走してしまった感もあります。同じようなドラマが増えてしまったことが、ドラマ離れの要因でもあるでしょう。
そんな中で、宮藤官九郎は、刑事ものやミステリーも手がけつつ、野球もの(木更津キャッツアイ)、夫婦もの(ぼくの魔法使い)、落語もの(タイガー&ドラゴン)、家族もの(11人もいる!)など独自の道を歩んでいきました。
『ぼくの魔法使い』や『タイガー&ドラゴン』はバディものと言えますが、宮藤がついに描いた傑作バディものは、やっぱり『あまちゃん』です。太陽と月と称される関係となったアキとユイという素敵な同性バディが、2013年、ミステリーとは関係ないドラマで誕生しました。
地方都市で生きる、ふたりの女の子の友情を描いたドラマ『あまちゃん』。
このバトンを、2014年、誰が握って走るでしょうか。
(木俣冬)