入札制度の限界と競争環境の整備
/野町 直弘
民間でも近年の需給のひっ迫や今後続くであろう新興国企業との競争によりさらに相対的な買い手としての立場が低下することを考慮し、サプライヤマネジメントの一環として如何に優秀なサプライヤを囲い込むか、が主要なテーマになりつつあります。そのために業界やサプライヤの声を聞き有益な情報を提供し、彼らのメリットにつながるような取組みをすることが求められているのです。


先日会計検査院から発表がありましたが、復興工事入札で不調(入札者がいない)状況が増えているようです。
具体的には予定価格1千万円以上の工事4538件のうち全体の21.1%に当たる959件で入札不調が発生しています。内訳としては国の直轄事業では1123件中177件(16%)、被災3県と21市町の補助事業では3415件中782件(23%)が入札されていないという状況になっています。


新聞によると原因は大きく2つ上げられます。1点目は復興工事に携わる人手不足の問題です。
リーマンショック以降の工事減や公共事業の圧縮によって大勢の作業者が離職したところに震災が発生して復興工事に携わる職人さんが不足しているそうです。(当然のことながら人手不足に伴い賃金も5割程度上昇しているそうです)
もう1点は資材の不足です。先ほどの人手不足とともに資材不足はコストの大幅な高騰につながっています。コストが上昇したため自治体が示す額では採算に合わないとみる事業者が増えているのが入札が成立しない(自ら仕事を取りにいかない)原因になっているようです。


最近は自治体も自らこの状況を脱するために入札資格の見直しや審査の簡素化、工期に猶予期間を設けて作業員を確保しやすくするなどの施策を講じているようです。
民間企業では当たり前に行われているような業界の意見を聞く場を用意するなどの取組みも始めたようです。


民間でも近年の需給のひっ迫や今後続くであろう新興国企業との競争によりさらに相対的な買い手としての立場が低下することを考慮し、サプライヤマネジメントの一環として如何に優秀なサプライヤを囲い込むか、が主要なテーマになりつつあります。
そのために業界やサプライヤの声を聞き有益な情報を提供し、彼らのメリットにつながるような取組みをすることが求められているのです。


今回のような入札不調の中、地場建設業者の声を直接聞いた訳ではありませんが、彼らは多分こう言うに違いありません。「あの時あれだけ仕事が欲しいと言っていたのに結局回ってこなかった。復興工事が重要なのはわかるけど、一時的なモノ。そのために以前のように多くの職人を抱えるのはリスクが高すぎる。またあの時の二の舞はしたくない。国も自治体もゼネコンも勝手すぎる。我々が欲しいのは安定的な受注なんだ。」と。


極めて当たり前な話ですが、このような状況下では入札制度は成り立ちません。入札制度はその案件や仕事をやりたい人や企業がいるから成り立つのです。案件の魅力度が極度に低かったり、そもそも特定の人や企業にしかできないような案件についてはその前提が崩れているわけですから入札は成り立たないのです。にも関わらず一つ覚えの如く形式的に入札制度に頼ることは安かろう悪かろうにもつながりかねません。以前このメルマガでも書きましたが政府系IT調達の失敗のような事態にもつながる可能性があるのです。


それではどうすればよいか。私はある程度民間調達の世界でのサプライヤマネジメントの制度を取り入れるべきだと考えます。例えば復興工事案件については限定的に地場を中心とした建設業者さんを組織化して案件毎ではなく、復興工事案件全体で取引先の意見を吸い上げながら工事計画を作っていくように、一部随意契約的な要素を取り入れることが良いのではないかと考えます。