コンピュータに負けて分かった、将棋棋士の凄い頭脳/川口 雅裕
「電王戦」で、コンピュータがプロ棋士に3勝1敗1分で勝利した結果を、どう見るべきか。
プロ棋士5名がコンピュータと戦った将棋棋戦「電王戦」で、コンピュータが3勝1敗1分で勝利した。『ついに将棋でも、人間がコンピュータに勝てない時代が来た』といった報道が多く、棋士の方々の反応の中にもショックを隠せない様子があったが、この結果をそう単純に理解すべきではない。職場にあった計算業務がコンピュータに取って代わられたのとは、根本的に事情が異なるからだ。
例えば、給与計算では税や保険料の仕組み、自社の給与制度などをプログラムしておけば、変更内容を入力したあと、数クリックで正しい計算結果が出力される。これと同じように、将棋のルールに基づいてコンピュータに計算させたら、プロ棋士に勝てたというわけではない。ルールははっきりしているが、そもそも何が正しい手なのか、どうしたら将棋に勝てるかはまだ分かっていない。だから、どのようにプログラムを作れば強くなるのかは長い間、暗中模索であったし、実際に将棋ソフトはプロの敵ではなかった。
将棋ソフトが強くなったのは、一つには、プロ棋士の視点や思考方法を組み込んだからだ。形勢判断の仕方、駒や一手の価値、損得の見方などをプロから学び、これをプログラム化していった。もう一つは、過去にプロが残した膨大な棋譜をデータベースにし、それを基に思考・判断するように改良したことである。詰め将棋のような最終盤の正解がある局面とは違って、非常に選択の幅が広い序盤戦では、理詰めの計算よりも構想力が問われるため、棋士が過去に指した形、手順、セオリーを真似るようにした。これによって、ソフトが劇的に強くなったと言われている。つまり将棋ソフトの強さの源は、計算力というよりも、プログラムの底流にあるプロ棋士の視点や思考方法と、プロ棋士たちが残してきた棋譜なのである。
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プロ棋士5名がコンピュータと戦った将棋棋戦「電王戦」で、コンピュータが3勝1敗1分で勝利した。『ついに将棋でも、人間がコンピュータに勝てない時代が来た』といった報道が多く、棋士の方々の反応の中にもショックを隠せない様子があったが、この結果をそう単純に理解すべきではない。職場にあった計算業務がコンピュータに取って代わられたのとは、根本的に事情が異なるからだ。
将棋ソフトが強くなったのは、一つには、プロ棋士の視点や思考方法を組み込んだからだ。形勢判断の仕方、駒や一手の価値、損得の見方などをプロから学び、これをプログラム化していった。もう一つは、過去にプロが残した膨大な棋譜をデータベースにし、それを基に思考・判断するように改良したことである。詰め将棋のような最終盤の正解がある局面とは違って、非常に選択の幅が広い序盤戦では、理詰めの計算よりも構想力が問われるため、棋士が過去に指した形、手順、セオリーを真似るようにした。これによって、ソフトが劇的に強くなったと言われている。つまり将棋ソフトの強さの源は、計算力というよりも、プログラムの底流にあるプロ棋士の視点や思考方法と、プロ棋士たちが残してきた棋譜なのである。
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