営業改革を考える (3) SFAはなぜ失敗するのか?/日沖 博道
〜営業改革を考える (2) 改革は一貫した思想に基づいて実施せよ〜 の続き
ちょっと刺激的なタイトルなので、特にITベンダーからの異論が多々あろう。いわく「ウチのSFAは高く評価されている」「顧客の多くは成果を上げている」と。
確かに世の中のSFA(ITによる営業効率化)関連のセミナーやIT関連の記事には成功例が目白押しである。それらの例にケチをつけるつもりはない。しかしそうした成功事例には、随分前からSFAの実践に取り組んでいる企業・業界が多いことは留意すべきだ。
既にベースとなる考え方や仕組みが社内でちゃんと出来上がっており(そのレベルに至る過程においては彼らも散々試行錯誤しただろうが)、プロセス運営上の様々なノウハウが蓄えられている。そこに新しい技術に基づく端末やソフトウェアが導入されて進化するのだから、成功するのはある意味当然である。
問題は、そうしたSFA実践経験の殆んどない企業が、ベンダーに提案されるままにSFAソフトとタブレットなどの最新端末を導入しようとすると何が起きるか、ということだ。
表面的な演出効果に囚われ、狙った「営業の底上げ、効率化」といった成果を全く生まないばかりか、営業マンの思考停止とアリバイ作りにしか役立っていなかった例すら幾つか耳にする。
確かに営業資料をわんさとバッグに抱えずとも関連資料・データを取り出せ、しかもすぐに見せることができるのは素晴らしい進歩である。
しかし肝心なのは、綺麗なカラー画面で説明がスムーズにできることではない。顧客の意向や嗜好をいかに聞き出すか、そしてそれを正しく理解し社内の関係者に正しく伝えるか、である。
そのためのプロセスが組み立てられているのか、そのための手段が準備されているか、である。多くのSFA導入プロジェクトではそこが取り残されているのである。
あるITベンダー企業自身が自社の営業プロセス改革の中で図らずも気づいたのは、数年前に導入したSFAシステムが単なる「受注計上システム」化していた事実である。
本来の「営業プロセスの途中で上司に相談・報告するための仕組み」として使っている者はごく少数で、大半の人間が受注処理の際にだけ(仕方なしに)使っていたのである。
そのために億を超える投資と毎年数千万円の保守費というのが割高過ぎることはもちろんだが、社内で使いこなして顧客向けに提案するためのノウハウを貯めようといった「当初の狙い」はどこかに吹き飛んでしまったようだ。
要は、「戦略的狙い」を忘れてしまって「手段」としてのIT導入に夢中になってしまうと、投資対効果が低いプロジェクトに多くの関係者が没頭することになり、しかも現場に手間と混乱を引き起こしかねないということである。
これは営業改革に限ることではないが、是非とも避けたい事態である。
(本稿は2013年3月のコラム記事に加筆修正したものです)