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これまで貧打にあえいでいたWBC日本代表が、勝てば準決勝進出がかかっていた10日のオランダ代表戦に6本塁打を含む17安打を放って16対4と豪快にコールド勝ちした。大会三連覇まであと三試合。明日のオランダ戦は第2ラウンドの順位と準決勝での対戦相手を決める戦いだが、準決勝、決勝ともちろん負けられない戦いが続く。

17安打6本塁打16点は出来過ぎにしても、これまでの貧打は解消されるのか?


(写真:10日のオランダ戦で大会規定によるコールド勝ちを決定づけた、七回表の坂本勇人の満塁本塁打)


10日のオランダ戦に勝利した後のヒーローインタビューには先発して5イニングを被安打1で無失点、9奪三振の前田健太が呼ばれた。
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大爆発した打線の中からではなく、しっかりとオランダ打線を抑えた前田健だった。それでは野手のヒーローは誰なのか?敗戦処理。は先頭打者本塁打を放った鳥谷敬を挙げたい。

先攻だった日本代表は一回表に一番打者の鳥谷が二球目を打って放った本塁打で先制した。第1ラウンドから通算5試合目の日本代表にとって初の本塁打で、初回の先制も初めてだ。8日の台湾戦や、第1ラウンド初戦のブラジル戦のように結果的には勝ったものの相手に先制を許してイヤなムードで試合が推移したものだが、プレーボール直後に待望の一発で先制できたのがこの試合の大きなポイントに違いない。

鳥谷は二日前の台湾戦でも1点ビハインドの九回表に二死から一塁走者として二盗を成功させて、井端弘和の同点タイムリーを導いた。よくぞあの場面で走ったと思うが、台湾戦では苦況のチームを救い、オランダ戦では口火を切る打線のヒーローとなっている。

もちろん二回表に出た2本の本塁打も勝負をほぼ決したという点で重要だったことに変わりはない。だがそれらの呼び水として、重苦しいムードを一蹴した鳥谷の本塁打の重要性はそれより上回ろう。

敗戦処理。は2006年の第1回WBCのアジアラウンドの対韓国戦を見て以来の生観戦となった。台湾戦みたいなロングゲームになったらどうしようという不安がよぎりながらの観戦となったが、あの試合とていわば辛勝。試合開始が近づけば近づくほど、スタンドまでピリピリしていた。なにしろ点が取れない。侍じゃなくて寒いジャパン打線…。そんななか鳥谷がいきなり一発を咬ましたのだからムードが良くなるのは当然。
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ネットなどでは否定的な意見が多い内野席を含めた稲葉ジャンプはこの日も稲葉の打席で起きた。
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三塁側にも日本を応援するファンが多いから、360°稲葉ジャンプ状態だ。自分は自重したが、ファイターズ以外の球団のレプリカユニフォームを着た人が「いやぁ〜、これ一度やってみたかったんだよねぇ」というのを聞くと、たしかにオールスターゲームか国際試合くらいしかチャンスがない人の方が圧倒的に多いことを考えると、ま、仕方ないのかなと…<苦笑>。そしてその稲葉を上回る、もはや神扱いなのが井端。井端の打席でのスタンドの異様なテンションは筆舌に尽くしがたい。

いずれにせよ台湾戦のような息詰まる攻防をイメージして東京ドームに足を踏み入れた身としては予想外のお祭り試合となった。周囲のどこを見渡しても日本代表を応援するファン。着ているレプリカユニはまちまちでも、皆目指すものは一緒。初対面の見知らぬ同士であちこちで繰り返されるハイタッチの嵐。今年四十年目を迎えた敗戦処理。の生観戦の中でも希有な完勝ゲームだったと言えよう。

あらためて今後のことを考えよう。

ブラジル戦と台湾戦に共通する逆転勝ちという結果から類推できるのは、継投策が鍵を握る球数制限の中で、両国とも一試合を通して日本打線を抑えきるほどの投手の質量が無かった事を意味するのではないか。オランダは第2ラウンド初戦でキューバと対戦し、三人の投手の継投で6対2で勝利した。だが二日後に大敗した日本戦ではキューバ戦に登板した三投手は登板していない。(キューバとの再戦となる今日の敗者復活戦では第2ラウンド初登板となる投手を先発、二番手に起用し、三番手のレオン・ボイド、四番手のルーク・ファンミルは第一戦以来の登板。)推測だが、キューバ戦に比べて力の劣る投手を日本戦に投入せざるを得ない事情、状況だったのではないか?
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そうでなければ、寒いジャパン、もとい侍ジャパンの突然の爆発を説明しがたい。

日本シリーズなどで、相手から厳しいマークを受けた主力打者が調子を狂わせ、ドツボにはまって絶不調のままシリーズを終えてしまうケースが多々ある。しかしその一歩手前できっかけをつかみ脱出する選手もいる。日本シリーズの例では一、二戦ではまっても、移動日を挟むことで修正し、第三戦から本来の調子を戻す選手もいる。今回の日本代表メンバーがオランダ戦の爆発で吹っ切れて自分を取り戻してくれることを期待したい。

ただし、明日のオランダとの順位決定戦は別として、準決勝、決勝はどこの国だろうとベストの投手をぶつけてくるはずだ。1点を取る難易度はさらに高くなるかもしれない。もちろん日本の代表選手達も昨日の再現などとは考えていないだろうが、昨日の爆発で、各自袋小路に入るような悩みから解放されるだけでもプラスになると見ている。

投手に関しては、明日オランダとの順位決定戦の先発は大隣憲司とのこと。第1ラウンドのキューバ戦に続き、次のステージへの進出を決めた上での一戦での先発登板となる。これは失礼な言い方になるが、通常の公式戦で言うローテーションの谷間的起用だ。最悪負けても取り返しがきく試合だ。抑えを牧田和久として、その前に出せる投手として杉内俊哉、山口鉄也、攝津正は計算できよう。イメージとしては先発投手と第二先発で6イニングをまかなうとして、勝利の方程式を担う三枚抑えを攝津、山口、牧田と考える。この三人は準決勝と決勝は連投を覚悟してもらう。先発と第二先発は連投が利かないだろうから、準決勝は前田健の後に例えば杉内をつぎ込んだら、決勝は別の二人を用意しなければならない。準決勝を突破しなければ決勝に行けないのだから準決勝に前田健をぶつけるのだろうが、決勝ももちろん勝たねばならない。田中将大に賭けるのか、田中や内海哲也は外した方がいいのか?
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能見篤史、涌井秀章に状況に応じて森福允彦と澤村拓一を挟むということだろう。

総動員というと聞こえがいいが、一人でも調子の悪い投手がいると、試合を台無しにしてしまうリスクがある。投手コーチは使える投手と使わないで済ませたい投手の見極めが重要になる。明日のオランダとの順位決定戦は大隣を別として、まだ“使える”と太鼓判を押していない投手の最終テストをしながら勝ちに行くのか、それとも決勝で再戦する可能性がある相手なので、ひたすら勝ちに行くのか…。

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オランダ側も日本に二連敗するのは避けたいだろう。10日の二の舞を避け、もちろん勝ちを狙ってくるだろう。
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11日のキューバ戦で走塁中に股関節付近を痛めて途中交代した主砲ウラディミール・バレンティンの状態も気になるところだ。


今さら言っても仕方ないが、今回の日本代表の首脳陣で、指導者として日本シリーズを制覇したのは山本浩二監督を含めた監督経験者にはいない(コーチ陣では橋上秀樹、高代延博、緒方耕一が日本一を経験)。
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山本監督はカープの監督として臨んだ1991年の日本シリーズで、当時黄金時代だったライオンズ相手に3勝2敗と有利な形で迎えた第六戦に同点の中盤のピンチにこのシリーズのキーマンである川口和久をリリーフにつぎ込んで決勝打を浴び、続く第七戦も敗れて日本一を逃した印象が敗戦処理。には強い。
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東尾修と梨田昌孝はそれぞれ監督として二度の日本シリーズを体験しているがいずれも相手チームの軍門に下っている。それがいささか不安だ。

明日のオランダ戦に勝てば、もう一組の2組で2位のチームと準決勝で対戦するが、敗れたら2組の1位通過チームと準決勝で対戦しなければならない。どちらが準決勝を突破しやすいか?一般論では2位通過チーム相手だろう。そう考えると明日のオランダとの再戦も、上述したように負けても取り返しはきくが、なるべく勝ちたい試合である。選手に元気が戻った今、首脳陣の手綱さばきに比重がかかるだろう。がんばれ、日本!