――それこそ親と一緒に見て、気まずくなるような……。

【井口】ボクは、世の中は「カエルの解剖」みたいなものだと思うんです。見るとイヤな思いをするんだけど、見なきゃ命の尊さを学べない、みたいな。そういう視覚の修業を担う役割が映画にはあると思うんです。ボクはエロでもホラーでも、エンターテインメントであることを意識しつつ、観客が見たくないものを見てもらう作品を撮っていきたいんですね。そういう体験が人間には必要だと思うし。

■「いつも心に童貞を」と思って撮っています

――ところで『電人ザボーガー』の主人公の大門豊は、ヒーローのイメージと違い悩んでばかりですよね。特に印象的なのが、敵ヒロインとのラブシーン。しかもマグロ状態です! 失礼ですが、監督は“童貞感”をお持ちなのでは?

【井口】バレましたか(笑)。ボク自身も初体験は27歳と遅かったですし、ずっと自分を「童貞のプロ」だと思っていました(笑)。数年前にハヤった「童貞ブーム」は、みんな軽いな〜って思っていましたしね。今でも「いつも心に童貞を!」って思って撮っていますよ。童貞って飢餓感がすごくて、本当に飢えていると無性に叫びたくなるんです。それが作品を作る上でエネルギーになる。今は結婚もしてるけど、常に童貞の味方でありたい。「童貞で悩んでいる人は相談にのるぜ」って気持ちです!

――監督のファンに男性が多いのは、それでですかね(笑)。

【井口】あと、常に弱者の気持ちを持っていたいと思います。映画監督って、撮っていないときはフリーターに近い。綱渡りで生きている感覚があるんです。映画で賞が欲しいとは思わないけど、その代わり、自主映画でもなんでもたくさん撮りたいと思っています。

――『ゾンビアス』のクライマックスで、ヒロインが敵と戦いながら「汚れてもけがれても、それでも生きていけ!」ってセリフを語ってますけど、監督の姿勢を指しているようですね。

【井口】結局、どう生きるかっていうのが自分の最大のテーマなんです。どんな破天荒な作品であれ、自殺とかそういう話にはしたくない。特に『ゾンビアス』は撮影直前に震災が起こり、自分が映画を撮ることを考えさせられました。でも、女のコがオナラで空を飛んだり、ウンコまみれのゾンビが出てくるバカバカしい映画を本気で撮ることに、実は大きな意義があるんじゃないかって思ったんです。

――そういうのが人間のエネルギーとして大事だったりしますね。

【井口】その上で、映画のヒロインに「生きるべきだ」って言わせるのがボクの役目だと。今も震災は終わっていないし、ほかにもたくさんの問題を日本は抱えているけど、シリアスに嘆いても仕方ない。突き抜けた映画を撮り続け、元気を与えることが自分の役割なんだって、今は思っています。

●井口昇(いぐち・のぼる)
1969年生まれ。AVを経て一般映画を多数監督。主な作品に『片腕マシンガール』など。昨年、『電人ザボーガー』がアメリカ「ファンタスティック・フェスト」で監督賞を受賞。次回作は寿司が人間を襲う『デッド寿司』。★3月22日(木)に東京・シネマート新宿にて『ゾンビアス』ありがとうイベントを開催予定。詳細は公式サイト【http://zombieass.jp/】まで!

(取材・文/大野智己 撮影/佐賀章広)

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