鈴木謙介『SQ “かかわり”の知能指数』(ディスカヴァー・トゥエンティワン) 「少子化を食い止める最後のチャンスを逃した日本」、最後のチャンスはSQがキーになる!

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司会の巧さに驚いた。
ラジオ番組に出たときのことだ。
TBSの文化系トークラジオLifeという番組。
「ゲームと社会設計」というテーマを、7人ぐらいのゲストでわーわーと話すという番組だ。
司会進行は鈴木謙介。
いろんな人がいて、いろんな視点から語るのをぐっと束ねて、自分の意見を加えて、次に話題をふる。
脱線しそうになったら、うまく話を受け取って、もどす。
CMに入るまであと15秒とか横でカウントされている。にもかかわらず出演者が、まだまだ話しそうだ、ってときも、すっとうまく拾い上げて、ぴったりのタイムでCMに入る。
わっ、すげーーー。
リスナーとして聞いてたときには気づかなかった司会テクニックが、目の前で披露されて、わー、超すごいマジックを披露されているようなワンダーな気持ち。
まあ、簡単にマネできるものじゃないけど、「これはマネできる!」と思った司会進行のコツがあるので紹介しよう。

それは「名前を先に言う」ということだ。
質問のときに、ありがちなのは
「××××××で×××××ってどうですか? 米光さん」
って最後に名前を言うパターン。
でも、そうすると「あっ、おれか!」ってなっちゃう。そこからドキマギあわてて考えるから、ちゃんと答えられない。
鈴木謙介は、こう質問する。
「米光さん、××××××で×××××ってどうですか?」
最初に名前を言う。
すると、その後の質問をふるまでの間が、自分の考えをまとめる猶予時間となる。質問を聞きながら、当事者意識をもって、返答を考えられるのだ。
もちろん、どの質問も自分にふられると思って聞いておけよってのが正しいのだろうが、しっかりと先に名前を言われることで、その意識は高まる。
さらに!
番組最後に近づいたところで、ぼくは質問される。
「社会をよくするゲームがありうるとして、そのいいゲームってどうすればできるのか?」
実は、この質問を投げかけられる少し前。鈴木謙介は、ぼくにメモを手渡している。
メモにはこう書いてあった。
「最後に、社会をよくするゲームデザインはどうすればできるのかって大きな質問をふります、よろしく」
これ、司会者として、人の話を束ねながら、話しながら、その隙に判断してメモを書いて、手渡しているのだ。
すごいなー。
このメモのおかげで、ぼくは、質問をふられる前にちょっと考える時間を得ることができた(のわりには、あわあわ答えてますが)。

ラジオ番組「Life」の司会者、鈴木謙介は社会学者だ。
その著書『SQ “かかわり”の知能指数』は、「現代の日本で幸せになるにはどうすればいいのか?」をテーマにしている。
全国一万人調査「震災後の社会生活に必要な価値観に関する意識調査」から見えてきた幸せの秘密は、
“他人にかかわって、相手のためになることをしたいと思っている人には、幸せな人が多い”
ということだった。
自分の利益を優先するよりも、誰かの為に何かをしたいと思う人のほうが幸せを感じている。
だが、他者への貢献を拡大していけば幸せが増すわけではない。
“他人にかかわりたい気持ちは、あればあるだけ人を幸せにするのではなくて、そこにも「適切な範囲」というものがある”
本書では、幸せになるかかわりへの意欲を「SQ(Social Quotient)」という指数で示し、「SQの高い行動とはどのようなものか」を調査データから導いていく。
「幸福度を高める社会貢献」が四つの軸でまとめられている。紹介しよう。
献:自分のできる範囲での協力(他者への貢献)
広:自分の生活圏の中で他人を思いやる(広範囲で協力)
心:具体的な他者のための価値(モノより心)
次:子どもや孫の代のことを考える(次世代志向)
こういったデータから読みとれるSQ度をきっかけにして、本書は、社会のあり方をとらえ直す。
「相手のためになることを」がやりやすい場をつくるにはどうすればいいのか?
具体的な提案と共に、SQ社会のコミュニティモデルを考えていく。
このあたりも詳しく紹介したいのだが長くなりすぎる。ぜひ『SQ “かかわり”の知能指数』を読んでほしい。

ラジオ番組「Life」で、鈴木謙介の司会術は、ただ流暢にしゃべったり、取り仕切ったりすることではなかった。その場がおもしろく有益な場として機能するように他者に貢献する司会術だったから、ぼくはワンダーを感じたのだ。

1月10日(火)ジュンク堂書店西宮店でディスカヴァー21『SQ “かかわり”の知能指数』発売記念 鈴木謙介トークイベントがあるよ(米光一成)