■5日目:26日(水)

 ついに半ばを過ぎた東京国際映画祭。グランプリ受賞作のコンペティション部門の作品の評価が気になるところ。この日も『より良き人生』『デタッチメント』『トリシュナ』の3本が上映された。

 『より良き人生』は会見も行われ、セドリック・カーン監督が記者たちの質問に答えた。

――エンドロールにある作品の題名があって、「この作品から自由なインスピレーションを得た」とありました。これは原作があるのでしょうか。それは小説ですか、それともフランスの社会情勢を描くルポルタージュでしょうか。

セドリック・カーン(以下、セドリック): 最後に書かれていたのは、フランス人作家による小説です。その小説からインスピレーションを受けました。ただ、シナリオを書き進める内にそこからどんどん離れてしまい、その小説に沿ったストーリーにはなっていないのですが、そもそもそこからインスピレーションを受けたので、敬意を払うためにも正直にクレジットに名前を入れました。

――日本でも映画の中で描かれている状況、つまり負債地獄に陥って生活が立ち行かなくなる人の数はどんどん増えています。フランスでも増えているのでしょうか。

セドリック: もちろんフランスでもそういった人が増えています。貧しい人が益々貧しくなり、金融機関も貸し渋ると言いますか、弱者が搾取されていて、お金を借りることができても利子に追われて益々大変な状態に陥ってしまう。残念ながらそういう傾向があります。

――執筆の最初の段階から子どもは少年を想定されていて、少女にしようとは思わなかったのでしょうか?

セドリック: 脚本を書き始めた頃からこどもは少年にしようと決めていました。説明するのは難しいのですが、よりシンプルに大人の男性と男の子が一緒になるという設定にしたくて…もし、男性と少女であったらもう少し違うことになっていたかもしれません。実際、家族のいない男性と父親のいない少年の絆は深まります。そういった関係、絆を描きたいと思いました。

――昨日のQ&Aでも「運命を受け入れるな、闘え」とおっしゃっていましたね?

セドリック: この映画では宿命をそのまま受け入れることなく、闘うことがいかに重要かということを表現しました。私も毎日自分の理想とする生活により近づけるよう闘っています。もちろん、私は映画に描いた人物よりも恵まれた人生を送っていると思っていますけどね。

――ギョーム・カネをキャスティングした理由と、彼の俳優として優れている部分について教えてください。

セドリック: 彼はもちろん優秀な役者です。とても柔軟で様々な役どころを演じ分けることができる人です。 この映画については、外見的な要素も私が撮りたい人物像に合っていました。どちらかと言えば外見は普通で、年齢的なことも重要で、青年から大人になる過程を描きたかったのです。若くてウブなところもあって、これから父親になりたいという気持ちとか色々な思いの中で葛藤し成長していく、そういったかたちで描きたかったので、見た目や年齢を含め、すべてにおいてぴったりでした。ギョームは顔も童顔であったり、性格もこどもっぽいところがあったりして、映画の中では大人の男性と少年なのですが、時には少年同士のようなところが映画の中で生かされて良かったと思います。

――これから映画を担っていくであろう若い人たちへのメッセージをいただけますか?

セドリック: フランス映画についてであればお話しできることもあるのですが、日本の映画界については詳しくないのでアドバイスをする立場ではないと思います。ただお伝えするとすれば、あまりアドバイスに耳を傾けないこと。特に年配の人からアドバイスをもらわないことです。年配の人は若い人に対してジェラシーがあってあえて悪いことを言ったりしますからね(笑)

 コンペティション部門の勝負の行方は一体どうなるのか。