フランスのサッカー関連のブログなどでしばしば登場する言葉に、“フティックス”(Footix)というのがある。

 もともとは、98年W杯フランス大会のマスコットキャラクターの名前だが、いまはもっぱら、ふだんは国内リーグに関心を示さないのに、大きな大会や代表戦になると、とたんにしたり顔でサッカーについて語り出す“にわかファン”を揶揄する言葉として使われる。

 9日に行なわれたフランス対ブラジルの親善試合で、この“フティックス”の言動が目に余った、と苦言を呈すのが、元レキップ紙のサッカー記者で、フランスでもっとも有名な辛口コメンテーター、ピエール・メネス氏だ。

 この試合では、スタッド・ド・フランスの観客から、フランス代表MFヨアン・グルキュフに容赦ないブーイングが浴びせられた。ジダンの後継者として期待されるほどの才能に加えて、端正なマスクと礼儀正しい受け答えでたちまちフランスきっての人気選手となったグルキュフだが、W杯では振るわず、今季に入ってもまだ本調子には戻らない。

 その背景には、W杯中にチームの先輩たちから“のけ者”扱いされるなどして負った“精神的苦痛”がある、と見る向きもある。W杯後も、ACミラン時代のチームメイトだったパオロ・マルディーニ氏から当時の行動ぶりを辛辣に批判されるという出来事があった。内気な性格が災いして、周囲の批判に弱いのか、最近のプレーには自信が感じられない。

 こうした状況に乗じて“悪ノリ”したのが、ブラジル戦でのフランス・サポーターだったとメネス氏は嘆く。たしかにグルキュフのプレーが一時の精彩を欠いているようにも見えるが、それでもメネス氏は自身のブログで、この試合のグルキュフに、ベンゼマやメクセスに次ぐ7点という高い評価を与えた。するとネット上では、これに賛成しないユーザーのコメントが多く寄せられた。

 これに対してメネス氏は、「司令塔というよりはもっと守備的な位置でプレーに貢献していた。このチームの戦術から見て、必要とされるものを満たしていた」と見る。ジダンばりのルーレットのような派手なプレーを“フティックス”は見たがるが、そればかりがサッカーではないという指摘だ。

 またネット上には、10人のブラジルに1―0で勝ったくらいで喜ぶのはどうか、あるいは親善試合でレッドカードなどやりすぎ、といった自嘲気味の声も多かった。しかしメネス氏は、一発退場となったブラジルMFエルナネスのプレーは、W杯決勝でデ・ヨンク(オランダ)がシャビ・アロンソ(スペイン)に見舞ったキックと同じで、レッドを出さないほうが不可解、10人で戦う場面もチームの経験としては必要、と反論した。

 さらにメネス氏は、スタッド・ド・フランスの観客の態度全般についても批判する。観客は3つのことしか知らないという。10分もたてば試合に飽きて“ウェーブ”に興じる、そうでなければむっつりと黙る、そして標的を見つけてブーイングを浴びせる、というパターンだ。

 スタッド・ド・フランスで行なわれる代表戦には、ふだん国内リーグの試合に足を運ばないファンも多く訪れる。その中には、純然とサッカーを楽しむというより、大きなイベント会場で日頃のウサを晴らそうという人々がいるのもたしかだ。しかし、そうした人々の心ない行為が、フランス代表と国民の間に壁をつくってしまった感があるのは否めない。こうしてW杯南ア大会でのフランス代表は、国民からの目に見えないプレッシャーを過剰に受け取り、自滅してしまったところがある。

 W杯後に代表再建を託されたブラン監督の下、チームには真の連帯感が生まれつつあることが感じられる。これを機会に、サポーターも成長すべきときだろう。