川島に突きつけられたレッドカード(Photo By Tsutomu KISHIMOTO)

写真拡大

平均視聴率10.8%、番組視聴独占率でいうと55.5%という驚愕の数字を叩き出した対シリア戦。ザッケローニ監督はヨルダン戦の反省をふまえて、遠藤に早い配給をさせるなど、内容に改善をみせた。1点目を生んだ内田のフィード、本田のパワー、香川の敏捷性、長谷部の正確なプレーなど、個々の特長が現れたゴールは今後に期待できるものといえる。

しかし、視聴者の目を引き付けたのは選手たちではなかったようだ。解説の松木安太郎氏が日本国民の気持ちを代弁し、不満をぶつけたイラン人主審のモフセン・トーキー氏が、終わってみれば主役となっていた。

それを物語るように、選手、そしてメディアも含め、試合後にはモフセン主審の名前が多く登場し、『主審はPKをとることでバランスをとった』という“中東の笛”を揶揄するコメント一色となった。というのも、82分の岡崎の粘りが生んだPKはギリギリの判定だからだ。ファウルともとれるし、ノーファウルともとれる。

元国際審判員の岡田正義氏は「主審が判定のバランスをとるということはないです」と言う一方で、「確かに82分のPKは非常に難しい判定です。ただ、このような状況では吹かざるを得なかったことは理解できます」とモフセン主審の判定を分析する。

このプレーの前の72分、モフセン主審は大きな判定を下している。GK川島のクリアボールに今野とF・アル・カティブが反応し、そのボールがPA内にこぼれ、焦った川島がS・マルキを倒したためPKをとり、“決定的な得点の機会阻止”で川島を一発退場とした。

「PKをとったことで、皆さんはPA内でのファウルはとるという基準を感じますよね。そして、82分にファウルかどうかギリギリのシーンがあった。モフセン主審は、自分が置いた基準を考え、岡崎選手が受けたのは(川島のファウルと違って)ギリギリのファウルではありましたけど、PKという判定を下したのだと思います。」

岡田氏は、ふたつのPKに理解を示す一方で、“疑惑のオンサイド”に対しては厳しい意見をみせる。

「オフサイドかどうかの判定については、映像を見るかぎり、シリアFWがパスを出しているのでオフサイドだと思います。副審はオフサイドポジションにシリアFWがいたのは確認できたが、キックしたのがシリアFWか日本DFかは定かではなかった。こういった場合は、旗を上げ、主審にオフサイドかどうかの判断を任せます。主審は日本DFがキックしたと判断して、副審の旗をキャンセルしてプレーを続けさせたと思われます」

モフセン主審のポジショニングを見ると、今野側におり、F・アル・カティブの足以上に、今野の足がフォーカスされてしまったのだろう。おそらく、モフセン主審のポジショニングにカメラを置けば今野のバックパスに見えるはずで、それくらい主審にとって角度は重要になる。

ただ、岡田氏は「この判定だけが問題なのではない」と指摘する。

モフセン主審のレフェリングは、Jリーグと比べると一目瞭然で、とにかく“強さ”が足りなかった。9分に松井に警告を出すなど、JFAが定めるラフプレーに対するカード基準は良かった。一方で、判定を受け入れる選手に対して甘かった。16分に、入れ替わろうとした香川の足を蹴ったダッカのファウルも、松井同様にカードが出てもおかしくないファウルだ。しかし、ダッカはすぐに審判に謝罪した。シリア選手たちからは、コミュニケーションで審判をコントロールしようとする姿勢がみえ、実際にコントロールされていたと思う。

シリア選手が、日本ボールの笛が鳴ると、持っていたボールをタッチラインの外に軽く放ったシーンがあったが、主審の威厳を感じていない象徴といえるだろう。川島の退場シーンの混乱も、モフセン主審の姿勢が招いた部分もある。副審とのコミュニケーションもそうだし、カードマネジメントもそう。こういった“弱さ”や緩い判定が、試合終盤のカードラッシュに繋がり、「全体的にはよくないレフェリング」(岡田氏)になってしまった。

判定ひとつひとつに○×をつければ、そこまで問題はなかったと思う。しかし、トップレベルのレフェリーはそれだけでは務まらない。西村雄一氏の活躍もあり、審判が注目されており、審判のコミュニケーションの重要性が問われている。しかし、それ以上に重要なのは“強さ”から来る毅然さになる。『毅然さが鼻につく』などとJリーグの審判員は評されてしまうが、それこそが重要なのをこんな形で思い知らされるとは、なんとも皮肉なものである。(了)