景気悪化による勤め先の倒産や工場閉鎖、収入がなくなったり、減ったりしたことで、住宅ローンの返済負担に苦しむ人が増えている。そうした中で衆院を可決した返済猶予法は、住宅ローンの借り手にこの上ない「助け舟」になるはずだったが、どうもそうはならないらしい。

   返済猶予法は2011年3月までの時限措置で、中小・零細企業や住宅ローンの利用者が借金の返済猶予を求めた場合、銀行などが貸付条件の変更にできる限り応じる「努力義務」を課している。つまり、借り手の求めに応じるも応じないも交渉次第というわけ。しかし、ある地方銀行の幹部は「返済猶予に応じた結果、かえって返済負担が増してしまう可能性が少なくない」という。だからといって、断わってばかりでは銀行批判につながるし、金融庁からもお咎めを受けると困惑する。

借り手がラクになるとは限らない

   リーマン・ショック後の不景気で収入が減って、住宅ローンの返済に苦しむ人は急増している。実際に、ある保証会社では2009年夏に条件変更を実施した件数が前年に比べて3倍に上った。それもあって、住宅ローンも返済猶予法の対象に加えたのだが、法律には「実施する」ことだけが明記され、具体的な対応は銀行に丸投げされている。

   前出の地銀幹部は「正直、困っている。中小企業向けよりもこっちのほうが厄介だ」と漏らす。当初は、中小企業向けに付けられた政府保証などの支援策が住宅ローンにも適用される方向で検討されていたのに、結局なくなったため、現行実施している住宅ローンの見直し策と何ら変わらない対応しかできないからだ。

   現在、銀行が応じている住宅ローンの返済負担の軽減策は、返済期間の延長と月々の返済額の見直しくらいしかない。しかも、必ずしも見直しに応じられないし、借り手がラクになるとは限らない。

   たとえば、返済期間を延長する場合では、住宅ローンに付いている団体信用保険(団信)が弊害になることがある。団信は借り手のいざという時に、代わりに残債を返済してくれる保険だが、適用が70歳までなのでそれを超えるような期間延長には応じられない。

金利減免は「絶対にない」

   また返済金額の見直しでは、元利均等返済の場合、当初は金利分の返済のウエートが高い仕組みが弊害になる。たとえば毎月10万円を返済している人は、月8万円の金利分、2万円の元金分を返している。これを月々5万円に変更するとなると、返済額が金利分にも満たないうえ、不足した金利分が元金に上乗せされるので、借金が雪だるま式に膨らんでいくことになる。

   ボーナス払いをやめて月々の返済だけにする場合も、ボーナス払いのウエートの高い人ほど月々の返済額が高くなるので、かえって支払い負担が増す。金利の低い変動金利型に条件変更する場合は、足元の金利は低いが今後金利が上昇していくと返済負担が増える可能性があるといったデメリットがある。

   さらに、銀行が「金利減免」に応じることは「絶対にない」(メガバンクの関係者)。銀行が金利をおまけするということは、その分損するということだし、「そもそも金利を減免したら、まじめに返済している人が怒ります。それこそみんな減免してくれって言い出しますよ」と話す。

   銀行は、「見直しは事態の先送りであって、将来のトラブルを招くだけ」(地銀幹部)と尻込みする。

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