習近平国家主席

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 中国も日本の“来た道”を辿るのか──。まずは日本の「バブル崩壊」と、その後の「失われた30年」を振り返ってみよう。1989年12月29日、日経平均株価は3万8915円87銭と当時の終値史上最高値を記録。この日を“バブルの絶頂期”と指摘する識者もいる。だが1990年3月、当時の大蔵省は「土地関連融資の抑制について」との通達を出す。この“総量規制”により不動産価格の高騰を抑え込もうとしたのだが、バブル経済そのものが崩壊してしまう。(前後編の前編)

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 景気は急速に落ち込んだ。1990年10月に日経平均株価は一時1万9871円70銭となり、たった10カ月で下落率は48・93%と株価が半減してしまった。

習近平国家主席

 不景気は大学生や高校生の就職活動に襲いかかった。就職情報誌「就職ジャーナル」は1992年11月号に「就職氷河期」という造語を掲載。後に政府などは該当者を「1993年から2004年に学校を卒業した者」と定義した。

 1993年2月には日産自動車が大規模な合理化計画を発表し、バブル崩壊を象徴するニュースとして捉えられた。従業員8000人削減、新卒採用は半減、座間工場は閉鎖……。この頃から本来であれば「事業再構築」を意味する「リストラクチャリング」が、“リストラ”と省略され、“クビ切り”のイメージで使われるようになった。

 1994年の「新語・流行語大賞」では「価格破壊」がトップテン入り。デフレ経済が本格化し、モノの値段が安くなっていったことが分かる。こうして日本経済はバブル崩壊から2020年代初頭まで不景気に苦しみ、これが“失われた30年”と呼ばれた。

 ところが、何と今の中国も当時の日本と似た経済状況になっているという。消費は冷え込み、物価は下落し、若者の失業率が深刻な状態になっている──。

朝定食が100円!

『ピークアウトする中国 「殺到する経済」と「合理的バブル」の限界』(文春新書:梶谷懐氏との共著)などの著書で知られるジャーナリストの高口康太氏は、中国を取材して「月刊文藝春秋」や「ニューズウィーク日本版」に寄稿するほか、中国を中心とした新興国のニュースサイト「KINBRICKS NOW(キンブリックス・ナウ)」を運営している。

 先日も中国で取材を行っていたという高口氏に、中国という国家を“鳥瞰”してもらうのではなく、ジャーナリストとしての“虫瞰”で現地の最新事情を解説してもらった。

「まず外食産業では値下げ合戦が激しさを増しています。9・9元(約232円)セットのような激安を売りにした店が増えています。大都市でも朝食5元(約100円)という激安店が登場、一体これで利益が出るのかと話題になるほどです。また中国ではスシローや、はま寿司などの回転寿司が人気です。注目すべきは客単価で、日本では1人あたり平均2000円以下ですが、中国は2000円から3000円と日本を上回っています。ただし中国の人々は『寿司というハレのご馳走が3000円で食べられる』と喜んでいるのです。つまり、回転寿司も一種の“価格破壊”と受け止められていると言えます」

「返品保証」「弊社が金利負担」でも買わない中国人

 中国の消費者が財布のヒモを、しっかり閉めていることが分かる。これが金額の大きな乗用車や家電となると、消費意欲の冷え込みは明白だという。

「メンツ重視の中国では大型車が好まれます。ですが、最近は安価な小型車に売れ筋はシフトし、200万円以下の価格帯がトレンドになっています。とはいえ値下げ競争が激化すると、メーカーも販売店も利益を確保できません。そこで無料でフルスペックにしたり、本来はオプション外の車内用冷蔵庫を特別に取り付けたりするなど、何とかして車を買ってもらおうと必死です。家電業界も強い逆風にさらされています。中国にも大手の家電量販店が複数あり、ネットショップも含めて激しい競争が行われています。『7日間なら返品完全保証』、『返品される場合、店のスタッフがご自宅まで無料で回収に参ります』、『ローンの金利、手数料は弊社が負担』と、まさに至れり尽くせりのサービス合戦を繰り広げていますが、消費者の反応は鈍いようです」(同・高口氏)

 中国政府も消費の冷え込みを懸念し、様々な商品の買い換えを促進するため、補助金を交付している。

「日本でも家電エコポイント制度が話題になりましたが、中国はスマホの買い換えにも家のリフォームにも補助金を出しました。反響は大きく、一時期は消費が上向いたのです」(同・高口氏)

デフレスパイラルの発生

 高口氏は「とはいえ、この“補助金特需”は結局、需要の先食いに過ぎませんでした」と指摘する。

「そもそも今の中国人はテレビも洗濯機もエアコンも全て家に揃っています。中国政府は補助金で人為的に買い換え需要を創出しましたが、消費者が買い換えを完了すると、消費意欲は再び冷え込んでしまいました。中国政府も政策の欠陥に気づいたのか、最近は以前ほど補助金に力を入れていません」(同・高口氏)

 なぜ中国人は支出を避けるようになったのか。高口氏は「今の中国は、まさにデフレマインドが広がっているからです」と言う。

「資産価値の上下は、消費者の購買意欲に影響を与えます。例えば株価が上がった場合、利益が全く確定していないのに、思わず嬉しくなって散財する個人株主は少なくありません。今の中国で起きていることは、この逆です。たとえ持ち家の不動産価値が下がったとしても、会社をクビにならず、ローンが払えていれば、何の問題もないはずです。ところが自宅の価値が下落すると、まるで自分の預貯金が目減りしたように錯覚してしまい、慌てて倹約を心がけてしまうのです。最初は、まさにそうした“節約気分”で消費意欲の減退が始まります。メーカー側は需要を喚起しようと値下げで対応しますが、そうすると働く従業員の手取りが減ります。手取りが減ると、財布のヒモはもっと固くなるのは当然でしょう」

中国の「就職氷河期」

 高口氏は「このように需要の減少がさらなる需要の減少を招くことを『デフレスパイラル』と呼びます。今の中国経済はデフレがデフレを呼ぶ状態になっているのです」と言う。

「デフレ経済下で中国人が支出を控えるのは、経済的な合理性もあります。私たち日本人も経験しましたが、デフレでは貯金が資産防衛の有力な手段になります。昨日は100万円で売られていたモノが今日は80万円に値下げされるのがデフレです。モノの価値は下落を続けるため、現金の価値は逆に上昇していくのです」

 日本がデフレ経済に陥ったことで就職氷河期が訪れたことは冒頭で見た通りだ。中国でも同じことが起きているという。

「中国政府は8月の若者の失業率が18・9%だったと発表しました。ただし、この数字は都市部に住む18歳から24歳が調査対象だということは重要です。まず都市部に住む若者でも『職を失ったか就職できなかったため、フードデリバリーなど意に沿わない仕事で食いつないでいる』人は失業者にカウントされません。さらに就職難から農村部の実家に“緊急避難”した若者も同じようにカウントされません。実際の就職難は公式統計のイメージよりも、もっと大きいと考えられます」(同・高口氏)

習近平の“無為無策”

 複数のメディアが若者の就職難により治安の悪化や、中国共産党と習近平氏に批判が集中する可能性について指摘している。

 高口氏は、「中国は『不動産バブルの崩壊』という“時限爆弾”を抱えているが、これに習近平=中国共産党は有効な対策を打てていない」と指摘する。

 後編【デフレがデフレを呼ぶ悪循環で「習近平国家主席」の顔が真っ青になる日…最大の懸念は“地方政府”が抱える巨額の「時限爆弾」】では、中国の不動産バブルが習近平氏の治世を揺るがす可能性についてお伝えする──。

デイリー新潮編集部