昔は「少量のお酒は体にいい」といわれたが、今では一滴も飲まないほうがいいとわかっている。それでも、お酒がやめられない人は多い。自らもお酒を嗜む内科医の名取宏さんは「健康への害をなるべく小さくしながら、楽しく飲める方法を探すといい」という--。
写真=iStock.com/naturalbox
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/naturalbox

■酒好きの心の拠り所「Jカーブ」

お酒と聞くと、ある患者さんとの診察室での会話を微笑ましく思い出します。

医師(私)「ちょっとお酒の量を減らしたほうがいいですね」
患者さん「お酒の量は減っています。たくさん買い置きしていても、毎日どんどん減っていくんですよ」

医師というのは、とかく患者さんの楽しみに水を差す存在です。「お酒を減らせ」「タバコをやめろ」「体重を落とせ」。正しいことを言っているかもしれませんが、これでは嫌われても無理はありません。

その点、酒好きにとって心強かったのが「少量の飲酒は健康にいい」という説です。

以前、「お酒をまったく飲まない人より、少量飲む人のほうが死亡率が低い」という研究があり、これをグラフにするとアルファベットのJの形になるために「Jカーブ」と呼ばれて支持されていました。「酒は百薬の長」に、医学的なお墨付きが与えられたようなものです。ところが、現在では残念ながら、お酒は少量でも健康に害があることがわかっています。

■飲酒の害を小さくするための工夫

Jカーブを導き出した研究では、お酒を飲まない人の中に病気になって飲酒をやめた人が含まれていたこと、お酒を少量で済ませられる人は経済状態や食生活などにも恵まれている傾向があったのです。こうした偏りをできるだけ取り除いたところ、少量飲酒による健康上の利益は認められませんでした。むしろ、がんなど一部の病気については、少量の飲酒でもリスクが上がると考えられています(※1)。

こう書くと、「ちょっとのお酒もダメだというのか」と反発したくなる人もいるでしょう。しかし、「少量でもリスクがゼロではない」と「一滴も飲んではいけない」は同じ意味ではありません。多くの場合、お酒を少量飲んだからといって、個人のリスクは、それほど増加しません。医学が示せるのは、飲まない場合と比べてリスクがどうなるか、だけです。そのリスクを承知したうえで、お酒の味や人と飲む時間を楽しむかどうかは、個人の価値観によるでしょう。

ですから、私はみなさんに禁酒を迫ろうとは思いません。そもそも、私自身、お酒を飲んでいます。健康にいいと思って飲んでいるのではなく、健康への悪影響という対価を払って、飲酒の楽しみを買っているつもりです。

ただし、同じ楽しみを得られるなら、払う対価は少ないほうがいい。どうすれば酒の害をなるべく小さくしながら、楽しく飲み続けられるのか。今回は、酒好き医師である私自身の飲み方と工夫を紹介します。

※1 Light alcohol drinking and cancer: a meta-analysis - PubMed

■「休肝日」をつくるのは効果的か

現在の私は週7日のうち5日はお酒を飲み、2日は「休肝日」にしています。

では、休肝日には本当に意味があるのでしょうか。同じ量を1週間に飲むとしても、毎日続けて飲むより、飲まない日を設けたほうがよいという可能性があります。

日本の大規模コホート研究では、週に300g以上の純アルコールを摂取する男性のうち、週5~7日飲む人では死亡リスクの上昇がみられた一方で、週4日以下では明らかな上昇はみられませんでした(※2)。肝硬変についても、総飲酒量が同じなら、毎日飲む人のほうが、飲まない日を設けている人よりリスクが高いとするメタ解析があります(※3)。ただし、これらは主に観察研究です。「2日休めば、その分を残りの5日に飲んでも大丈夫」と証明されたわけではありません。

私は、休肝日を「飲酒習慣をいったん断ち切る日」と考えています。毎晩、決まった時刻になると、特に飲みたいわけでもないのに反射的に缶を開ける。飲酒には、こうした「惰性」があります。週に何日か飲まない日をつくることは、その惰性から距離を置くきっかけになります。ただし、健康への影響を最も大きく左右するのは、休肝日の有無よりも、1週間に飲むアルコールの総量です。2日休んだ安心感から、残りの5日にたくさん飲んでは本末転倒だということは覚えておきましょう。

※2 Patterns of alcohol drinking and all-cause mortality: results from a large-scale population-based cohort study in Japan - PubMed
※3 Liver holidays? A meta-analysis of drinking the same amount of alcohol daily or non-daily and the risk for cirrhosis - PubMed

写真=iStock.com/kuppa_rock
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kuppa_rock

■医師でも守れていない飲酒の指針

さて、次は飲酒量です。私は、外で飲むときは原則として2杯までと決めています。健康への悪影響もありますが、酔って転んだり、財布やスマートフォンをなくしたりする事故を避けるためでもあります。泥酔は、身体的にも社会的にも割に合いません。2杯までなので、誰かに誘われない限り「飲み放題」にはしません。いいお酒をゆっくりと味わいながら飲むのがいいのです。

一方、家では、晩酌のビール1杯に、その後さらに1~2杯飲むことが多いです。純アルコール量に換算すると、飲酒日にはおそらく40~60gを摂取しています。

国民の健康寿命を伸ばすための指針である「健康日本21(第三次)」では、生活習慣病のリスクを高める飲酒量を、1日平均で男性40g以上、女性20g以上としています(※4)。5%のビール500mlで約20g、15%の日本酒1合で約22gですから、40gには意外と簡単に到達してしまいます。

私の場合、飲む日の量は明らかに男性40gの線にかかっています。率直にいえば、私自身も「アウト」です。医師だからといって模範的な飲み方ができているわけではありません。患者さんに「お酒の量を減らしたほうがいいですね」と話しながら、いったいどの口が言っているのか、と自分でも思っています。

※4 厚生労働省「健康日本21(第三次)」

■もっと飲みたい気持ちを抑える方法

そうはいっても、飲みたい気持ちを毎回、意志の力だけで我慢するのは楽しくありませんし、長続きもしません。そこで、酒をただ減らすのではなく、その一部をノンアルコール飲料に置き換える方法があります。これには一定のエビデンスもあります。日本で行われたランダム化比較試験では、ビール風またはカクテル風のノンアルコール飲料を参加者に12週間無料で提供したところ、提供しなかったグループより、純アルコール摂取量が1日あたり約9g少なくなりました(※5)。飲酒量を記録するだけでも多少は減りましたが、自宅に好みのノンアル飲料が用意されていると、一部が置き換わりやすいようです。

iStock/Thomas Faull
※写真はイメージです - iStock/Thomas Faull

私はノンアルコールビールが好きです。各社がそれぞれ工夫を凝らしていて、けっこう美味しいです。外食でどうしても3杯目を飲みたくなったらノンアルビールにしています。家でも休肝日にノンアルビールをよく飲んでいます。ただし、ノンアルコール飲料なら、いくら飲んでもよいわけではありません。

カクテル風ノンアル飲料などには糖類を多く含むものもあり、何本も飲めば糖質やカロリーを余分に摂取することになります。栄養成分表示を見て、糖質の少ない商品を選ぶに越したことはありません。もっとも、アルコール飲料をノンアルコール飲料に置き換えるのであれば、多少の糖類が含まれていても、多くの場合はアルコールをそのまま飲むより害は小さいでしょう。まずアルコールを減らし、そのうえで糖質にも気を配る。この順番で考えるのが現実的です。

※5 Effect of provision of non-alcoholic beverages on alcohol consumption: a randomized controlled study - PubMed

■合間に水を飲むことに意味はあるか

それから飲酒の合間に、水を飲むのもよいでしょう。私自身も実行しています。ただ、水をたくさん飲めば酔わない、アルコールの分解が早くなる、二日酔いにならない、というわけではありません。飲酒量が同じであれば、途中で水を飲んでも、血中のアルコールやアセトアルデヒドの動きは変わらず、二日酔いも軽くならなかったという研究があります。

写真=iStock.com/Premyuda Yospim
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Premyuda Yospim

しかし、その研究は飲酒量を同じにして比較しています。実際の飲酒では、水を飲んでいる間は酒を飲まずに済みます。結果として、飲む速度や量を抑える助けになるでしょう。水を飲むのは、二日酔いを防ぐためではなく、お酒を飲むペースを落とすための工夫です。

一方、ヘパリーゼやウコンなどのサプリメントもありますが、私は使っていません。二日酔い対策の薬やサプリを調べたランダム化比較試験の系統的レビューでは、一部の成分に効果の可能性が示されたものの、いずれの研究も小規模で質も高くありませんでした(※6)。二日酔いを防ぐといえるほどの証拠はありません。気休めとして利用することを否定するつもりはありませんが、前回の記事に書いたようにリスクもあります。サプリを追加するよりも酒量を減らしたほうが、効果は確実でしょう。

※6 The efficacy and tolerability of pharmacologically active interventions for alcohol-induced hangover symptomatology: a systematic review of the evidence from randomised placebo-controlled trials - PubMed

■お酒の種類と健康に与える影響

最後に、お酒の種類について。たまに「ビール、日本酒、ハイボール、ワインのどれがマシですか」などと聞かれることがあります。基本的には何を飲むかよりも、どれだけアルコールを摂取するかのほうが大事です。好きなものを飲めばいいでしょう。

ただし、血糖値が高い場合、甘い梅酒や加糖されたチューハイは避け、糖質の少ない蒸留酒を無糖で飲むほうがいいでしょう。ただ、糖質ゼロでもアルコールがゼロになるわけではなく、アルコール由来のエネルギーも発がん性も残ります。また、肝臓病や高尿酸血症の有無、服用している薬などによっても注意点は変わるので、心配な場合は主治医に相談してください。

ビールのあとに日本酒、そのあとにワインと、お酒の種類を変える「ちゃんぽん」も、それ自体によって特別な毒が生じるわけではありません。問題は、味が変わると酒が進みやすくなり、自分がどれだけ飲んだのか分からなくなることです。健康への影響を考えるなら、糖質や「ちゃんぽん」を気にする前に、純アルコールの総量を確認するべきです。

計算式は「飲んだ量(ml)×アルコール度数(%)÷100×0.8」です。お酒の種類や銘柄よりも、まずこの数字を見ましょう。

結局、いちばん重要なのは飲酒量のコントロールです。だから私は、週に2日は休肝日をつくり、ノンアルコール飲料を適宜利用し、お酒の合間に水を飲むなどの工夫で、飲酒の総量を減らしています。よかったら、やってみてください。

1ドリンクは、純アルコール20g。純アルコール換算は1g未満、ドリンク換算は0.1未満、ビール館さんは10ml未満は四捨五入。(厚生労働省「健康日本21アクション支援システム」より)

----------
名取 宏(なとり・ひろむ)
内科医
医学部を卒業後、大学病院勤務、大学院などを経て、現在は福岡県の市中病院に勤務。診療のかたわら、インターネット上で医療・健康情報の見極め方を発信している。ハンドルネームは、NATROM(なとろむ)。著書に『新装版「ニセ医学」に騙されないために』『最善の健康法』(ともに内外出版社)、共著書に『今日から使える薬局栄養指導Q&A』(金芳堂)がある。
----------

(内科医 名取 宏)