海外移住で得られる税効果…フリーランス・スモールビジネスの経営者にお勧め! タイの「DTVビザ」活用術【国際弁護士が解説】
インターネットに接続できれば、仕事をする場所は選ばない…。そのような業態のフリーランス、経営者であれば、海外に目を向けてみるのもお勧めです。ここでは、タイ版のノマドビザである「DTV」と、タイの税制について平易に解説します。※本記事は、OWL Investmentsのマネージング・ディレクターの小峰孝史弁護士が監修、OWL Investmentsが執筆・編集したものです。2026年9月22日現在の情報に基づいています。
タイに移住する富裕層の定番「タイランド・プリビレッジ」
日本人はビザなしで観光旅行に行くことができる国が多いので、ビザの必要性を忘れがちですが、外国に「住む」には、長期間の滞在が可能なビザが必要になります。
日本人に人気の移住先のひとつ、タイには、お金を払えばビザを取れるビザもあります。「タイランド・プリビレッジ」(旧タイランド・エリート)です。
タイランド・プリビレッジには、いくつかの種類がありますが、最も割安なものだと、5年間有効のビザを65万バーツ(約325万円)で購入することができます。
タイは日本人が非常に多く、とくに首都バンコクには5万人を超える日本人が暮らしています。そして、駐在以外で移住して来ている富裕層には、このタイランド・プリビレッジを購入して住んでいる人が多くいます。
タイランド・プリビレッジは「富裕層をタイに呼び込みたい」という意図が明確なビザだと言えるでしょう。
デジタルノマドビザにあたる「DTV」が登場
そんななか、2024年7月、タイでDTV(Destination Thailand Visa)が登場しました。このDTVは、DTVでタイに居住しながら外国企業向けに仕事ができることを明言しているビザです。背景には、各国で「デジタルノマドビザ」(インターネットにつながっていればどこでも仕事ができる人が住むためのビザ)が登場しているという事情もあります。
こうしたデジタルノマドビザには、明確な意図があります。
①若い技術者が多いとされている「デジタルノマド」に暮らしてもらうことで、自国での消費・投資を期待
②居住するデジタルノマドによって自国の産業に好影響が生じることを期待
③普通の労働者と異なり、デジタルノマドの人々は自国の労働者の仕事を奪わない
ちなみに、タイ国内でムエタイやタイ料理を学ぶ人もDTVを取得できるというのが、タイらしくユニークです。
タイの所得税は「タイ国内源泉所得」か「タイ国外源泉所得」かで大きく異なる
では、タイ在住のフリーランスとして得た報酬には、税金がかかるでしょうか?
現行のタイの税法(タイ税法典41条)によると、タイ国内で得られた所得(タイ国内源泉所得)についてはタイの所得税が課されますが、タイの国外で得た所得(タイ国外源泉所得)のうち、タイに持ち込まれていないものには所得税は課されません。
「デジタルノマド」が「タイ国外から受領する報酬」は、「タイ国内源泉所得」か「タイ国外源泉所得」か?
では、DTVを使ってタイに居住している人が、タイ国外企業から委託されて仕事を行い、タイ国外企業から得た報酬は、タイ国内源泉所得・タイ国外源泉所得のどちらに当たるのでしょうか?
受託業務を作業している人はタイ居住者で、業務委託者はタイ国外の企業ですから、判断しづらいところです。この点、タイの法令には明確な記載がないようです。
そして、会計事務所・コンサルティング会社などの英語ウェブサイトには、微妙な問題としつつ、タイ国外源泉所得に近いと考えられるとするものと、タイ国内源泉所得に近いとするものが混在しており、明確ではありません。
ただ、「所得の源泉地は、業務・活動・財産の所在地によって決まり、支払いが送金される場所ではない」という趣旨の記述をする会計事務所があり、これが正解に近いのではないかと考えます。
この記述に従うと「DTVを使ってタイに居住している人が、タイ国外企業から委託されて仕事を行い、タイ国外企業から得た報酬」は「タイ国内源泉所得に当たる」ことになります。
「タイ国外法人」で業務を受注すれば、タイの国内源泉所得には当たらない
この見解に従いつつ、税負担を抑える方法としては「タイ居住者が、自身が株主・取締役である法人をタイ国外に設立し、その法人で業務を受託する方法」が有効です。この場合、タイ国外法人は、その国の税制に沿って納税することになります。
では、タイ居住の株主・取締役は、タイ国外法人に入ったお金を、どうやって自分が得るかというと、下記の2つの方法が考えられます。
①取締役報酬として受け取る
②配当として受け取る
このうち、「①取締役報酬として受け取る」方法であれば、タイ居住者がリモートでタイ国外企業のために仕事をして報酬を得ているので、タイ国内源泉所得と見る余地があることは、前述のとおりです。
一方、「②配当として受け取る」方法であれば、タイで納税義務が発生しないことになります。
たとえば、低税率(法人所得200万香港ドル=約4,000万円まで税率8.25%)で使い勝手のよい香港に法人を設立し、その香港法人で報酬を受領する、という方法が考えられるでしょう。
こうしたストラクチャーを作ることにより、税額を抑えることができます(わかりやすくするために複雑な箇所を省略して説明しています)。
では、いくら以上の収入がある場合に、こうしたストラクチャーを作るメリットがあるかというと、一概に言いにくいのですが、約1,000万円以上の収入があるなら、考えてもよいでしょう。
すぐに取れるうえに激安…「DTVビザ」
残る問題は、取得に向けたハードルの高さ(取得までの期間、費用)です。
たとえば、マレーシアのデジタルノマドビザの場合、公式ウェブサイトには申請から許可まで1ヵ月と書かれていますが、実際には4ヵ月以上かかることが少なくありません。そのため、一刻も早く海外移住して節税したいと思っても、簡単には移住できません。しかしDTVは、申請から許可まで半月以内という超高速で取得できます。
次に費用ですが、このDTVは5年有効ビザ取得の政府費用が52,000円という激安価格です。筆者の経営する会社のような申請サポート業者に依頼しても、合計20万円程度で取れてしまうのです。
こうしたハードルの低さも、海外移住の新しい王道ビザとされるポイントでしょう。
「DTV取得のハードルは上がった」とのウワサは本当か?
2026年8月31日から、DTV申請時に下記2点の書類提出が求められるようになりました。
①ビザ申請を行う国・地域における永住資格を証明する書類
②申請者の国籍または永住資格を有する国・地域が発行した犯罪経歴証明書(Certificate of criminal record clearance)
これは、従来DTVの発行が極めて簡単すぎて、タイ政府が来てほしい人材以外まで入ってくるようになってしまった反動だと思います。とはいえ、日本人であれば、①日本国内の大使館・領事館で申請、②犯罪経歴証明書を用意すればすむ話です。
DTV取得のハードルが上がったと言うほどではないでしょう。
依然として、海外移住で節税したい暗号資産投資家やインターネットにつながっていれば仕事のできるフリーランス、ソロプレナーの方には、最適なビザと言えそうです。
小峰 孝史
OWL Investments
マネージング・ディレクター・弁護士

