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大相撲で波乱の取組などがあったとき、客席から一斉に座布団が舞う──。

秋場所が開かれている両国国技館でも、横綱が敗れるなどすると、興奮した観客から座布団が土俵に向かって投げ込まれることがある。

テレビ中継では「大相撲らしい風物詩」にも見える光景だが、実は日本相撲協会は土俵などへの物の投げ入れを禁止している。場内でも「座布団を投げないでください」と繰り返しアナウンスされる。

好角家として知られるミュージシャンのパラダイス山元さんもXで「投げた奴を特定して傷害罪で逮捕して欲しい」「他人を傷つける行為が相撲文化だとは私は思いません」などと投稿し、問題提起をしている。

では、座布団を投げる行為は、本当に犯罪になるのだろうか。

●ケガをしなくても「暴行罪」の可能性

まず考えられるのが、刑法上の暴行罪だ。

暴行罪は、人に対して暴行を加えたものの、ケガをさせるまでには至らなかった場合に成立する。法定刑は2年以下の拘禁刑もしくは30万円以下の罰金、または拘留もしくは科料が定められている(刑法208条)。

「座布団くらいで暴行?」と思うかも知れない。

しかし、ここでいう「暴行」は、殴ったり蹴ったりする行為だけではない。人の身体に向けて物を投げるなど、「人の身体に対する有形力の行使」も含まれる。

そのため、大勢の人がいる中で誰かに向かって座布団を投げれば、実際には誰もケガをしなかったとしても、投げ方や状況によっては暴行罪が成立する可能性がある。

●座布団が当たってケガをしたら?

では、投げた座布団が誰かに当たり、ケガをさせたらどうなるのか。

この場合には、傷害罪(刑法204条)が成立する可能性がある。

ポイントは、投げた人が「ケガをさせてやろう」とまで考えている必要はないことだ。

たとえば、誰かにぶつけるつもりで座布団を投げ、その結果、相手が転倒してケガをした場合、「ケガをするとは思わなかった」としても、傷害罪が成立する可能性がある。

一方、土俵に向かって投げただけで、人にぶつけるつもりはなかったなど、暴行の故意が認められない場合はどうか。

それでも、周囲に大勢の観客がいて、ぶつけてしまうかもしれないがかまわないと認識している場合には、暴行罪や傷害罪が成立する可能性がある。

また、そのような認識がない場合でも、誰かにケガをさせた場合には、状況によって過失傷害罪(刑法209条)が成立する可能性がある。

つまり、座布団を投げた場合に何罪が成立するかは、「どこに向かって、どのように投げたのか」「人に当てる認識があったのか」「実際にケガをさせたのか」など、具体的な状況によって変わってくる。

●座布団が飛ぶと知っていたら「自己責任」?

なお、「大相撲では座布団が飛ぶことがあると知って観戦しているのだから、観客もある程度の危険は承知しているのではないか」という考え方は成立するのだろうか。

刑法では、被害者が危険を認識したうえで自らその危険に身をさらした場合に、加害者の刑事責任をどう考えるかという「危険の引受」の議論がある。スポーツ中の事故などで問題になることがある。

しかし、相撲協会は座布団などの投げ入れを明確に禁止している。

単に「座布団が飛ぶこともある」と知って国技館を訪れたからといって、禁止されている行為によってケガをする危険まで引き受けたと評価することは難しいだろう。

「危険があると知っていた」ことと、「その危険を引き受けた」ことは同じではない。

●「昔からの風物詩」でもルール違反

座布団投げは、かつて感動した取組の力士に祝儀を投げ渡す「投げ纏頭(はな)」という習慣の名残ともいわれる。

しかし、昔から見られる光景だからといって、現在も認められているわけではない。

大番狂わせに興奮して、思わず座布団を投げたくなる人もいるかもしれない。しかし、大勢の観客がいる中で頭上から飛んでくる座布団は、思わぬ事故につながる危険もあり、投げ方やその結果によっては刑事責任を問われる可能性もある。