八方塞がりでした…「固定資産税も払ってきたのに、うちの土地じゃないなんて!」30年以上使い続けた隣地を、70代男性がどうしても〈自分名義〉にしたかったワケ【相続実務士が解説】
「固定資産税もずっと払ってきたし、事実上うちの土地みたいなものだと思っていました」──。そう話すのは、70代のSさんです。自宅の隣地は、家族が30年以上にわたって管理・使用してきましたが、登記名義は明治・大正期の地主のまま。しかも、地主側には交渉できる相続人もいませんでした。長年使い続けてきた土地の権利を確定し、将来、子どもたちへ安心して引き継ぐにはどうすればいいのでしょうか。相続実務士・曽根惠子氏が、弁護士・司法書士と連携して解決した実例をもとに解説します。
何十年も使い続けてきた隣地、登記名義は明治・大正期の地主のまま
今回の相談者であるSさんは、70代の男性です。昔からの自宅に長く暮らしており、ご家族を代表して相談に来られました。
Sさんの自宅のすぐ隣には、昔から旧地主名義のままになっている土地がありました。登記簿上の名義人は明治・大正期の地主で、代々の相続登記がされないまま、長期間にわたって放置されていました。
昭和中期ごろからは地主側による耕作や管理も行われなくなりました。そのため、隣接地に住むSさんの家族が、自宅敷地の一部のような形で庭や作業スペースとして利用し、長年にわたり維持管理を続けてきました。
やがて固定資産税についても、地主側ではなく、実質的に土地を管理しているSさんが代わりに納めるようになりました。その状態のまま、30年以上が経過していたのです。
Sさんは、「自分たちの土地としてきちんと権利を確立し、将来、子どもたちに引き継ぎたい」と強く希望していました。しかし、地主側には交渉できる相続人がおらず、どのように手続きを進めればいいのかわからない状態でした。そこで、相談に来られたのです。
対象となったのは、Sさんの自宅に隣接する旧地主名義の土地です。長年、Sさんが土地を占有・使用し、固定資産税も代納していました。一方、登記上は古い地主名義のままでした。また、時効取得によって権利を取得する側は、Sさんを含むきょうだい6人でした。
相手方の相続人がいない…解決までにあった3つの課題
今回のケースは、「相手方がいない」「手続きが特殊」「取得後に名義を集約する必要がある」という3つの問題が重なった複雑な事案でした。
課題1 地主側に相続人がいない
戸籍を調査した結果、地主家には相続人がいないことがわかりました。時効取得を主張して裁判を起こすには相手方が必要です。そのため、まず家庭裁判所に相続財産清算人の選任を申し立てる必要がありました。
課題2 時効取得登記の前提となる相続登記が必要
今回、時効取得の起算点は昭和62年1月1日としました。しかし、時効取得による所有権移転登記をするには、その前提として、登記簿上の旧地主から相続人側への相続登記を行う必要がありました。当然ながら相手方の協力を得ることはできません。
そこで、原告側から債権者代位による相続登記を行う必要がありました。
課題3 判決だけではSさん1人の名義にならない
もう1つの問題が、時効取得後の名義です。裁判によって取得時効が認められても、権利を取得するのはSさん1人ではなく、きょうだい6人です。そのままでは6人の共有名義となります。
共有状態のまま次の相続が発生すれば、さらに相続人が増え、権利関係が複雑になる可能性があります。
そこで今回は、「判決に基づき、まずきょうだい6人の共有名義にする」「その後、他の5人からSさんへ持分を贈与する」という2段階の手続きを取ることにしました。
弁護士・司法書士と連携し、4段階で手続きを進める
今回の案件では、弁護士・司法書士と連携しながら、次の4つの段階で手続きを進めました。
ステップ1 戸籍を調査し、相続関係を確定する
まずは、明治から平成までの戸籍をたどり、旧地主側の相続関係を調査しました。長期間にわたって相続登記が行われていない不動産では、誰が権利を引き継いでいるのかを確認するだけでも、多くの調査が必要になります。
ステップ2 裁判所への申し立てと時効取得の判決
次に、相続財産を相手方として時効取得訴訟を提起しました。昭和62年1月1日を起算点として取得時効が成立していることを主張し、裁判所から確定判決を得ました。
ステップ3 代位による相続登記と所有権移転登記
判決を得ただけでは、そのままSさんたちの名義に変更できるわけではありません。まず、原告側から代位による相続登記を行い、時効取得による所有権移転登記ができる状態にしました。
そのうえで、確定判決に基づき、Sさんを含むきょうだい6人の名義へ所有権移転登記を行いました。
ステップ4 きょうだい5人からSさんへ持分を贈与
最後に、事前にきょうだいの間で話し合っていたとおり、他の5人が所有する持分をSさんへ贈与しました。これにより、土地の名義をSさん1人に集約することができました。
30年以上管理してきた土地が、ようやくSさんの単独名義に
弁護士による裁判手続きと、司法書士による登記手続きを連携して進めたことで、何十年もの間、権利関係を整理できずにいた土地について、ようやく解決することができました。
時効取得訴訟では、昭和62年1月1日を起算点とする20年間の時効成立が認められ、確定判決を得ました。
その後、原告側から代位による相続登記を行ったうえで、確定判決に基づき、まずSさんを含むきょうだい6人への所有権移転登記を行いました。
さらに、その直後、事前の計画どおり、他のきょうだい5人からSさんへ、それぞれの持分を贈与する所有権移転登記を申請しました。
こうして、長年にわたり固定資産税を代納し、実際に土地を管理し続けてきたSさんが、名実ともにこの土地の単独所有者となりました。
これで、将来はSさんの子どもたちへ、権利関係を整理した状態で土地を引き継ぐことができます。
「税金を払っているから自分の土地」にはならない
今回の事例のように、明治・大正・昭和から登記が放置され、さらに相手方の相続人もいない土地について、一般の方が自力で権利関係を整理することは容易ではありません。長年にわたって土地を使い、固定資産税を負担していたとしても、それだけで自然に登記名義が変わるわけではありません。
一方で、裁判によって時効取得が認められれば、それで終わりというわけでもありません。
今回、そのまま手続きを終えていれば、土地はきょうだい6人の共有名義となっていました。共有名義のまま年月が経ち、それぞれのきょうだいに相続が発生すれば、所有者がさらに増え、将来の売却や活用が難しくなってしまう可能性があります。
そこで重要なのは、目の前の問題を解決することだけでなく、「最終的に誰の名義にするのか」まで考えて手続きを組み立てることです。
今回も、裁判によって所有権を取得するところだけで終わらせず、最終的にはSさん1人の名義に集約することをゴールとして、きょうだい間の事前合意や判決後の贈与登記まで含めて手続きを設計しました。
複雑に絡み合った権利関係であっても、一つひとつ整理し、必要な専門家と連携しながら進めることで、次の世代へ安心して引き継げる状態にすることができます。
曽根 惠子
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士
相続実務士®
株式会社夢相続 代表取締役
「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。

