【増田 剛】「夢の中でも答弁している」野田元総理が明かした過酷な日常…日本の総理はなぜ英国首相の7倍も国会に拘束されるのか

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総理大臣の時間は「最も希少かつ重要な統治資源」

現代日本の最高権力者たる総理大臣には、圧倒的に「時間」が不足している。経済と安全保障が不可分となり、既存の国際秩序が根底から動揺する現代において、国家の命運を決定づけるのは、トップによる確固たる意思を体現する「首脳外交」と、国家のグランドデザインを描くための重要政策の決断である。しかし、現在の日本の総理大臣は、国家にとって希少な「統治資源」であるはずの自らの時間を、形式的な儀礼や過剰な国会対応に費やされ、「総理にしかできない仕事」に注力する機会を決定的に奪われている。

9月24日、一般財団法人ネクストジャパン・イニシアティブ(NXJI)のシンクタンク部門「NXJIリサーチ」が、注目すべき政策提言レポートを公表した。タイトルは「政治四季報:総理の時間の使い方 ~激動する時代の官邸マネジメントのあり方について~」である。総理大臣経験者や官邸関係者への綿密なインタビューに加え、約15年分の面会データ分析、英独米との制度比較、さらには、神経科学・睡眠医学の知見など、多角的な調査を統合したこのリポートは、日本の官邸マネジメントが抱える構造的な欠陥を浮き彫りにしている。

このリポートが指摘するのは、総理大臣の時間が「国家にとって最も希少かつ重要な統治資源」であるという、至極当然でありながら、永田町では軽視されがちな、冷厳な事実だ。パワーポリティクスが猛威を振るい、平時と有事の境界が曖昧な国際情勢のなかで、総理の時間をいかに最適化し、国益を最大化するか。リポートが打ち出した「5つの提言」と、先週、行われた高市政権における自民党役員人事から、日本の統治機構改革の行方を読み解く。

「気合と体力」に依存する官邸の限界と5つの提言

日本の総理大臣のスケジュールは、国際的な常識から大きく乖離した異常な状態にある。記録上で確認できるだけでも年2,000件を超える面会をこなし、先進諸国でも突出して長い年約200日にも及ぶ国会会期に縛られている。事前の準備期間も十分に確保されず「ロケットスタート」を強いられる新政権は、アメリカのホワイトハウスが有するスケジューリング室のような、面会案件を合理的にスクリーニングする専門組織を持たない。結果として、属人的な秘書官の采配や「前例踏襲」という旧態依然とした慣習によって不要不急の面会が積み重なり、総理大臣は慢性的な睡眠不足と疲弊のなかで、膨大な決断を迫られている。

いかなる人間であれ、インプットやひとりの時間が限られ、休息なく働き続ければ、必然的に判断の質は低下する。複雑化する現代にあって、総理の最大の職務は、目前の事象に対する場当たり的な対応ではなく、幾重にも絡み合うリスクを俯瞰し、中長期的な国益を見据えたうえで国家の重要課題を「決め切る」ことである。かつて小泉純一郎首相が大音量のクラシック音楽で精神力を養い、安倍晋三首相が映画鑑賞で頭をリフレッシュさせていたように、トップが「戦略的余白」を確保し、決断に向けた胆力を維持するための時間は不可欠である。しかし現状は、「体力お化け」と称されるような一部のタフな個人の能力に依存する、極めて脆弱なシステムとなっている。

この危機的状況を打破し、総理の職務が生む成果を「質」と「量」の両面から最大化するため、NXJIリサーチは官邸・国会・公邸という3つの現場に対して、以下の「5つの提言」を行っている。

【提言1】官邸|総理が対応すべき案件を厳選し、それに基づくスケジュール管理の基準やロジのノウハウを制度的に継承する

【提言2】官邸|首班指名前に準備期間を設け、首席秘書官を軸とした人事で官邸マネジメント体制を強化し、案件・スケジュール管理の実効性を高める

【提言3】国会|予算委員会を含む各委員会への総理出席は、原則不要とする

【提言4】国会|総理答弁を党首討論に集約し、総理が自由に使える日程の予見可能性を高める

【提言5】公邸|公邸に料理人やハウスキーパー等の栄養管理や生活支援を導入し、総理が公務に専念できる環境を整える

提言1、2が指摘するように、霞が関を掌握しつつ総理のパーソナリティを熟知した「首席秘書官」の存在と、政権移行に向けた準備期間の制度的な確保は急務である。かつての派閥が担っていた政権準備機能が失われた今、官邸チームのノウハウを継承する仕組みを再構築しなければならない。

国会への過剰な拘束が国益を削ぐ--予算委員会出席は原則廃止すべき

さらに特筆すべきは、提言5が示す「公邸の近代化」である。

これまでの官邸システムは、「60代の男性で、専業主婦の妻が家庭を全面サポートする」という昭和の家族モデルを前提に運用されてきた。しかし、共働き世代や育児・介護を担う政治家がトップに立つ現代において、この前提は通用しない。高市総理自身も、家族の介護など多様な背景を背負っている。いかなる属性の人物であっても、総理として最大のパフォーマンスを発揮できるよう、栄養管理や生活支援を公費で導入することは、決して「贅沢」ではなく、国家の危機管理体制の構築そのものである。

これら5つの提言のなかでも、本リポートが最も強く警鐘を鳴らし、大胆な改革を求めているのが、提言3と提言4の「国会改革」である。

日本の総理大臣は、諸外国の首脳と比較して異常なほど議会に拘束されている。イギリスは年約30回(1回30分)の「クエスチョン・タイム」に首相の議会説明が集約されており、ドイツに至っては現在、年3回(60分枠)の政府質疑が行われるのみだ。対して日本の総理大臣は、イギリスの1.4倍の日数、7倍の時間もの間、形式的な答弁のために委員会室に縛り付けられている。直前まで日程が不確定な、この非合理的な国会慣習は、総理大臣が諸外国の首脳と会談をセットし、機動的な外交を展開する上での致命的な足かせとなっている。各国の首脳がスマートフォンでダイレクトに意思疎通を図り、首脳同士の「個人的な信頼関係」が一瞬の駆け引きで国益を左右する現代において、この状況はもはや外交・安全保障上のリスクだといっていい。

これについて岸田元総理大臣は、レポートの中で次のように語っている。

「力による現状変更の試みが横行するなど国際環境が大きく変化する中、単なる国家間の外交にとどまらず、首脳同士の個人的な信頼関係やパーソナリティが、国際社会の動きに極めて大きな影響を与える時代になっています。私は外務大臣も長く務めましたが、総理大臣は外務大臣と異なり、海外にいても国内の国会対策や政策の動きに目配りをしながら外交を行わねばならず、より一層の忙しさを感じました」

野田元総理大臣も、次のように語っている。

「秋の外交シーズン、9月、10月、11月と、毎週のように各国首脳との国際会議が入ります。そうすると、一番、疲労の度合いが出てくる10月、11月に、1日7時間の予算委員会が5日間、続きます。答弁の時間だけではなく準備の時間もあるので、朝5時半から勉強会をやります。そうすると、夢の中でも答弁している感覚になります。『週に35時間の答弁に立った』と言うと、各国首脳は皆、『クレイジーだな』と驚きます」

大臣に聞いても、総理に聞いても、「答えは同じ」

こうした実情をふまえると、総理大臣の予算委員会出席は、原則として廃止すべきである。本来、個別の政策課題については、所管する担当大臣が責任を持って答弁すれば事足りる。「大臣に聞いても、総理に聞いても、答えが同じ」各論に、最高権力者を引っ張り出す必要はない。総理大臣が自らの言葉で語るべきは、一人の大臣では負いきれない大局的な国家運営や、省庁横断的な重要課題に限定されるべきなのだ。

なぜ、これほどまでに総理の時間を浪費する慣行が続くのか。それは、与野党を問わず国会議員にとって、「最高権力者に直接質問すること」が、地元支援者への格好のアピール(PR)になるからである。さらに、国会において「審議時間」の長さこそが議論の充実度を測る唯一の指標(メルクマール)と化している悪しき慣習がある。時間が解決の免罪符となるという暗黙の了解が、国家の希少な統治資源を徒らに浪費させているのである。

これに拍車をかけているのが、テレビを中心としたメディアの報道姿勢だ。「総理と野党の激しい対決」という画(え)を求めるメディアの欲求に応えるべく、野党もこぞって総理大臣の出席を要求する。この「時間と画」を至上とする政治とメディアの共犯関係が、結果として日本のトップ外交の時間を奪い、国益を著しく損なっている。

第二次安倍政権で官房副長官補を務めた兼原信克元国家安全保障局次長は「国会改革は、日本の一番大きな改革であるが、マスコミを伴わなければできない。国会が変わらない理由の一つはマスコミが乗ってこないからだ」と語っている。

提言4が示すように、総理大臣の国会答弁は「党首討論」に原則集約すべきだ。官僚の作成したペーパーを延々と読み上げる不毛な審議よりも、党首同士が双方向で国家観を激しく戦わせる党首討論の時間を拡充したほうが、国民にとって各党の政策的差異が明確になり、政治への真の理解が深まるはずである。

高市政権の「華麗なる賭け」--村井英樹・国対委員長抜擢の真意

これまで幾度となく叫ばれながら、決して進むことのなかった国会改革。しかし、先週、高市政権が行った新たな人事によって、NXJIリサーチが提言する「総理の予算委員会出席の原則廃止」や「党首討論への集約」が、現実味を帯びてきた。

その根拠が、今回の内閣改造・自民党役員人事における最大のサプライズ、村井英樹氏の国会対策委員長への「抜擢」である。

国会対策委員長といえば、与野党の海千山千のベテラン議員が水面下で高度な政治的駆け引きを行う、党の最重職のひとつである。通常は閣僚経験のある重鎮が就くポストに、高市総理はあえて、閣僚経験のない村井元官房副長官を大抜擢した。この人事は単なる若返りではない。これまでの慣習を打ち破る、明確な「国会改革への意志」の表れだと、筆者は考える。

実は、村井氏は、かねてより小泉進次郎氏らとともに国会改革の必要性を訴え続けてきた急先鋒である。そして、注目すべきは、村井氏がネクストジャパン・イニシアティブの活動に最も協力的な国会議員のひとりであり、今回のNXJIリサーチのリポート作成にあたってのヒアリング対象者のひとりであったという事実だ。

NXJIリサーチの所長を務める小倉將信元国務大臣は、次のように語っている。

「私は衆議院議員を4期務めたが、村井さんは私と当選同期で、小泉進次郎さんとともに国会改革を昔から訴えてきた方でもある。村井さんが国対委員長になって、彼を中心に野党に働きかけることによって国会改革が進み、日本の総理の国会の出席時間が各国並みに落ち着いていくことを期待したい」

日本人は「錯覚」から脱却すべき時が来ている

官房副長官として官邸の過酷な実態を身をもって経験し、「総理の時間を国益に資するよう最大限有効化すべき」という問題意識を持つ村井氏。この村井氏が与党の国会運営の司令塔である国対委員長に就任した意味は極めて大きい。長年の慣例に縛られた野党側との折衝は困難を極めるだろう。しかし、本気で政権交代を志向する野党であれば、「自らが政権を担った際、総理が外交に専念できない今の硬直化したシステムのままで良いのか」という、中長期的な視点での合意点を見出せるはずだ。

国会改革に強い熱意を持つ村井国対委員長を軸に、与野党協議を通じて総理大臣の国会出席時間を先進国並みに適正化していくーーその歴史的転換のリアリティが、今まさに生まれつつある。

総理大臣村井英樹氏の国会対策委員長の時間は、複雑化する国際情勢のなかで国民の未来を守るためのものである。大国がむき出しの力を誇示し、自由主義社会が歴史的な分水嶺に立たされる今、目先のパフォーマンスや地元へのアピールのために、一国のリーダーを国会に縛りつける時代は終わりにしなければならない。有権者もメディアも、「長時間国会に拘束すること」が権力への監視機能であるという錯覚から脱却すべき時が来ている。

多様な背景を持つ人材がトップに立ち、持てる知見と能力のすべてを「国家の決断」と「首脳外交」に注ぎ込める真のリーダーシップ国家へ。NXJIリサーチの渾身のレポートと、村井国対委員長の誕生が、日本の統治機構を最適化させるための「号砲」となることを強く期待したい。

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