『VIVANT』はなぜ熱狂的な“考察”を生むのか? 視聴者を“スパイ気分”にさせる仕掛けの妙
『VIVANT』(TBS系)に関する考察が盛り上がっている。
参考:竜星涼、『VIVANT』新庄“復活”の裏側を語る 「ミスリードになりすぎないように」
2023年7月期に第1シーズン全10話が放送され、地上波ドラマの限界を超える映像と「別班」という存在が鮮烈なインパクトを刻んだ。3年ぶり待望の第2シーズンは、第1シーズンの続編となる。放送休止前の最新話となる第18話は、拉致された黒須(松坂桃李)たち別班員を救出するために乃木(堺雅人)と仲間たちがシャキ城に乗り込む直前で終わった。
第2シーズンでは、別班のライバルとなる諜報組織「シンシー」が新たに登場。また、丸菱商事で乃木の上司だった長野(小日向文世)が別班員としての身分を明かした。新キャラクターがドラマを盛り上げる中で、最大の衝撃は、味方と思われていた公安捜査員の野崎(阿部寛)の裏切りだった。のちに潜入捜査だったと判明するが、野崎が残したメッセージを読み解こうと多くの“考察班”視聴者が謎に挑んだ。
なぜ『VIVANT』考察は盛り上がるのか? そこには「スパイもの」に特有の物語構造が関係しているのではないだろうか。『VIVANT』が純然たるスパイドラマかはここで論じないが、作中で乃木たちが従事しているのは国家機密レベルの諜報や工作活動であり、“スパイ要素を含む”と言っていいだろう。
『007』シリーズや『ミッション:インポッシブル』を挙げるまでもなく、スパイものは映像作品の定番テーマだ。ジェームズ・ボンドら知力と体力を備えた主人公であるエージェントの超人的な活躍には、毎度ながら目を見張らされる。謀略と裏切り、駆け引きとスリルに満ちたスパイものは第一級の娯楽作品となりうる。
スパイものには、ミステリーやサスペンスと異なる独自の構造がある。通常のミステリーでは、謎が提示され、探偵や刑事が登場し、事件を解決へ導く。場合によって読者の視点を代表する語り手が登場する。「神の視点」の作者と犯人に対して、視聴者は名探偵と事件の推移を見守ることになる。
スパイものでは、主人公はミッションを与えられて任務遂行に力を尽くす。その過程で、次々と困難な状況や障壁が立ちはだかる。それは、敵組織の攪乱や攻撃だったり、物心両面のトラップだったりする。機密情報をめぐる駆け引きは情報戦の様相を呈し、主人公を誘惑するハニートラップも仕掛けられる。真の目的が偽装されていたり、味方の裏切りによって窮地に陥ることすらある。
スパイものにおいて、謎は一義的に明らかではなく状況によって推移する。作中で真の黒幕はあらかじめ伏せられていることが多い。観ている私たちは、主人公の目線から課題と対峙しつつ、並行して状況を俯瞰する視点を持つことになる。
スパイものが生む没入感とスリルは、当事者性と時々刻々変わる問題状況によってもたらされる。ミッションを遂行し、目標を達成したときに初めて全てのピースがそろい、人物関係図が完成する仕組みだ。『VIVANT』でも、毎話の情勢に応じて相関図が更新されているのはご存知の通りだ。
スパイもののダイナミズムは、あらかじめどんでん返しを設定しやすくしている。仕掛ける側の作り手からすると、事後的なネタばらしを前提として、視聴者に挑戦状をつきつけることは比較的容易だ。ストーリーの各所にヒントを散りばめることで、被分析性が高まる。考察を呼び込みやすい構造をスパイものは持っているのである。
ミステリーやサスペンスと比較して、作り手との知恵試しが成立しやすいスパイものにおいて、視聴者は、主人公とともに任務を遂行しながら、作者が仕掛けるフェイクやおとりのトラップに翻弄される。そこにあるのは「だまし、だまされる」関係性であり、ゲーム的な楽しみである。いうなれば視聴者も第3のプレイヤーとしてミッションに加わるのである。
スパイ気分を味わいながら心地よく物語に没入するための工夫は、物語の外でもされている。周辺人物に関する情報を付与することで、作中の見えなかった線がつながる。YouTubeとTBSラジオで配信される『VIVANT 悪役会議室』は、悪役を演じる俳優の意外な横顔やキャラクター造形を掘り下げることで作品の背景や詳細を明らかにし、考察のヒントとなる。
考察には二次創作の側面もある。SNSによって拡散しやすい特性を考慮し、ネットミームになりそうな表現を本編に仕込むことは有効な手法だ。堺雅人が一人三役で演じるリュウ・ミンシュエンが「私に嘘はつかないで!」と絶叫しながら放つ“リュウビンタ”など、フックのある描写が意図的に埋め込まれている。
『VIVANT』第2シーズンで、考察によって視聴者のエンゲージメントを高める作り手の狙いは成功している。放送再開後の第19話からは、スパイアクション的な活劇も繰り広げられるだろう。考察を上回るスリルと作り手の意図の先を行く考察。未踏の荒野を進む『VIVANT』の熱量は、作り手と視聴者の交錯によって生み出されている。(文=石河コウヘイ)

