「その物件が値上がりしなくても持ち続けますか?」晴海フラッグの転売熱の先で、不動産業者が語る“タワマンを買っていい人”
抽選倍率が跳ね上がり、転売価格も大きく上昇した晴海フラッグ。一方で、違法民泊や賃貸募集、交通アクセスの負担など、暮らしてから初めて見える課題もある。不動産仲介の現場を知る滝島一統氏が、“投資先”としてではないタワマンの選び方を語る。
【画像】最寄駅の勝どき駅からは徒歩25分以上かかる晴海ふ頭公園
新刊『その家、買ってはいけない 不動産屋が言わない、購入、投資、相続の真実』より一部抜粋・再構成してお届けする。
晴海フラッグの今
タワーマンションを語るとき、やはり晴海フラッグを避けて通ることはできない。
販売当初から注目を集め、抽選に多数の申し込みが殺到した。部屋の価格は方位・面積・階数によって大きく異なり、高層階で海側に向いた部屋ほど高い傾向がある。
では、実態はどうか。
まず、中国人をはじめとした外国人オーナーの比率が非常に高いとされる。購入者全体での比率は公表されていないが、現地を訪れた人々からは「明らかに日本人以外のオーナーが多い」という声が聞こえてくる。そのため、多くの部屋は空室のまま保有されており、投機目的の購入が相当数を占めていると見られる。
次に、ヤミ民泊の問題がある。晴海フラッグで民泊を営むことは管理規約で禁じられているが、それを無視して、外国人旅行者向けの民泊が横行しているという報告がある。正規の住民からすれば、管理が行き届かない状態で見知らぬ人間が出入りすることは、防犯上の不安もある。部屋が性的サービスの待機場所として使われているという噂もある。居住環境として看過できない問題だ。
また、あまり話題にのぼらないことだが、晴海フラッグの敷地内にはゴミ焼却施設がある。最新の設備で、高温処理とフィルタリングにより大気への影響は最小化されているとの説明はある。晴海のタワマン43階にあるパーティー会場から晴海フラッグを見下ろしたとき、街のど真ん中にそびえる焼却施設の煙突が目に入った。湾岸の夜景の中に、それは静かにそこにあった。自分の住む街の中にゴミ焼却施設があるという事実を気にする人もいるだろう。
交通アクセスの問題も残る。立地は都心に近い晴海埠頭だが、最寄りの都営大江戸線・勝どき駅まで徒歩18~20分以上かかる。BRT(東京の臨海エリアと都心を結ぶバス高速輸送システム)も運行されているが、地下鉄ほどの利便性はない。地図上の距離感と、実際の生活における移動の困難さには大きなギャップがある。
誤解のないように言えば、私は晴海フラッグを全否定しているわけではない。マスタープランに沿って整備された街の住環境は、他のエリアにはないものがある。問題は、この物件が「投資物件」のイメージで語られすぎていることだ。そこに投機目的の外国人資本が流入し、ヤミ民泊が広がり、住民の生活環境が脅かされている。
「モデルケースを目指した街」が、日本の住宅市場が抱える矛盾を凝縮したような場所になってしまっている。それが私の見た晴海フラッグの姿だ。
転売の現実と「賃貸付け苦戦」
晴海フラッグをめぐっては、転売益を狙った購入が多数あったことも見逃せない。NHKの調査では、相当数の部屋が法人による投資目的での購入だったことが明らかになっている。当初の売り出し価格は坪350万円前後。その後の市場では坪700万円台の売り出し事例も現れ、差額だけ見れば大きな利益に見える。
ただし、数字を精緻に追うと話は違ってくる。短期間での転売には短期譲渡所得として約40%の税金がかかる。仲介手数料や不動産取得税なども加算すると、坪700万円で売れたとしても手残りは1000万円前後になる計算だ。坪500万円程度にしか売れなければ、リスクと手間に対して「ちょっとしんどい」という水準にとどまる。高値で抽選をくぐり抜けた達成感と、実際の収益の間には大きなギャップがある。
さらに深刻なのは賃貸市場だ。私が現地で物件を確認したとき、礼金なしの物件が並ぶ中に「AD100」の表示があった。ADとは仲介業者への広告料のことで、AD100はつまり、家賃1カ月分を業者への謝礼として払っても入居者が決まらない状況を意味する。晴海フラッグの賃貸付けが、相当程度に苦戦していることを示している。
価格帯は広く、同じ晴海フラッグでも棟や向き・階数によって坪300万円から800万円超まで開きがある。投資目的で購入した人の中には、賃貸収入も得られず、ローン返済だけが続いている人もいるはずだ。そうして「いつか売れる」という期待で保有を続けるうちに、資力を削られていく。
タワーマンションを買っていい人とは?
では、タワーマンションを買うべき人はいないのか。そう問われれば、私はこう答える。
「住みたい人は、買えばいい」。
私はかねてから、住宅とは嗜好品だと考えている。眺望のいい場所に住みたい、広いリビングで暮らしたい、古い町並みが好きだ─住む場所の選択は、突き詰めれば好みの問題だ。タワーマンションも例外ではない。あの高層階の眺望が好きで、そこに住むために頑張ってきたという人に対して、私は否定する立場にない。
ただ、条件が二つある。一つは、「投資にもなる」という目線を完全に捨てること。もう一つは、財務的な体力だ。ローンを目一杯組んでの購入と、余裕を持ったキャッシュ比率での購入では、リスクの質がまったく異なる。値下がりしても、金利が上がっても、生活が揺らがない範囲で買う。その二つを満たしたとき、初めて「住みたいから買う」という選択が本当の意味で成立する。
欲しいものを、欲しいから買う。そういったシンプルな理由で買う人間は、後悔することが少ない。問題は、そこに「儲かるかもしれない」「資産価値が上がるはずだ」といった雑念が混じるときだ。それが判断を歪める。
しかも、投資で失敗した人間は、自分の判断が正しかったことを証明したがる傾向がある。「いつか値上がりする」「金利はそのうち下がる」「外国人がいる限り需要は続く」─論理を歪めてでも、買った事実を肯定しようとする。その歪みに気づかないまま、塩漬けになった物件を抱え続ける。
今、タワーマンションの購入を検討している人に私は問いかけたい。「その物件が値上がりしなかったとしても、保有し続けますか」。迷わず「はい」と答えられる人だけが、タワーマンションを買っていい人だと私は思う。
タワーマンションは「都市生活の象徴」として語られることが多い。エントランスを抜ければコンシェルジュが出迎え、高層階のサロンからは都市の夜景が広がる。それは確かに魅力的な光景だ。
しかし私は不動産の現場にいる人間として、その光景の裏側を見てきた。美しい夜景を望むその足元が、危うい地盤に立っているものだということを理解してほしい。
文/滝島一統
『その家、買ってはいけない 不動産屋が言わない、購入、投資、相続の真実』 (PHP研究所)
滝島一統

2026年6月17日
1210円(税込)
208ページ
ISBN: 978-4569861319
老朽化が進む日本の住宅は、マンションであれ一戸建てであれ、「持っていれば資産になる」という常識が崩れ始めている。築古マンションでは、修繕積立金不足、住民間の合意形成の難航、管理組合の実態不明といった問題が深刻化し、表面的な価格や立地だけでは見えないリスクが潜んでいる。
中古マンションの契約書類を読んでも、壁の内側の劣化や配管の老朽化、将来の大規模修繕の現実までは把握できない。
一方、地方の一戸建ては、相続をきっかけに「売れない」「貸せない」「解体費だけかかる」負動産へ転落するケースが急増している。
さらに、老後資金対策として注目されるリバースモーゲージやリースバックにも落とし穴がある。契約者死亡時の一括返済や、住み続けられなくなるリスクは十分に知られていない。
ワンルームマンション投資もまた、「不労所得」という甘い宣伝とは裏腹に、空室率、修繕費、金利上昇を織り込めば、一定以上の利回りがなければ利益は出にくい。本書は、マンションと戸建て双方の危機を比較しながら、「住まいは本当に資産なのか」という根本問題を問い直す。買う前に何を確認すべきか、そして「持ち続けるべきか、手放すべきか」を冷徹に判断するための実践的な一冊である。
第1章 老朽化マンションの現実─修繕できない、管理できない、建て替えられない
第2章 〝負動産〟化する戸建て─相続・解体・思い出のはざまで
第3章 不動産投資のリアル─欲望の先に待ち受ける現実
第4章 タワーマンション─バブル崩壊前夜
第5章 賃貸か購入か─どこに住み、どう選ぶか
第6章 それでも家が欲しい人のために
第7章 知識があれば8割は防げる―不動産Gメンとは
