AIを支える半導体の多くを供給するのは、アメリカの半導体企業であるNVIDIAです。AIの普及に伴いNVIDIAの時価総額は上昇し続けており、2025年10月には世界で初めて5兆ドル(約780兆円)に到達しています。そんなNVIDIAが「AIの中央銀行と化している」と経済メディアのThe Economistが報じました。

Nvidia is the central bank of AI | The Economist

https://www.economist.com/interactive/briefing/2026/09/03/nvidia-is-the-central-bank-of-ai

NVIDIAは過去3年間でスタートアップに700億ドル超(約10兆9000億円)を投資しており、顧客にも3000億ドル(約46兆6000億円)の金融支援を行っています。NVIDIAは業界への資金供給で極めて重要な役割を担っているため、同社を「AIの中央銀行」と呼ぶ人もいるとThe Economistは報じています。このような莫大な投資について、「NVIDIAのジェンスン・フアンCEOが主張するように、これは確かに業界の成長を助けますが、リスクも伴います」とThe Economistは指摘。

NVIDIAがこうした財務戦略を取る背景には、最大の顧客が競合企業へと変わりつつあるということがあります。Amazon、Google、Meta、Microsoftなどの巨大テクノロジー企業は、NVIDIAの売上の約半分を占めています。しかし、これらの企業はそれぞれAIインフラに多額の投資を行っているというだけでなく、独自の半導体設計を始めているため、今後もNVIDIAから大量に半導体を購入し続けるかどうかは不明です。

Amazon、Google、Meta、Microsoftなどの巨大テクノロジー企業にとって、自社開発の半導体はNVIDIA製品の5分の1から3分の1程度の価格で済むため、非常に安価です。また、自社ソフトウェアに合わせて半導体を設計できるため、一部の処理では性能面で非常に優れたパフォーマンスを発揮可能。

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NVIDIAにとってさらに厄介なのは、一部の巨大テクノロジー企業が自社利用のためだけでなく、外部への販売も含め、半導体の製造を計画しているという点です。例えば、Googleは独立系の大手AI研究企業であるAnthropicにAI特化型のプロセッサである「TPU」を大規模導入するための契約を締結しています。

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Amazonも独自のカスタムAIチップである「Trainium」を外販するべく、顧客と協議を始めたことが報じられています。

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Bloomberg Intelligenceは、AI向けプロセッサ市場におけるカスタム半導体のシェアは徐々に拡大しており、2026年時点では約40%のシェアが、2030年末までに約50%にまで拡大する可能性があると予測しています。

Amazon、Google、Meta、Microsoftなどの巨大テクノロジー企業は高い信用格付けを持つため、低い金利で資金を借り受けることができます。一方、クラウド企業にも同じような投資需要がありますが、巨大テクノロジー企業ほどの売上を持っていないため、金利は当然高くなります。実際、Googleの親会社であるAlphabetの年利は、新興のAI企業であるCoreWeaveと比べるとわずかに2分の1程度です。

NVIDIAは、このような巨大テクノロジー企業と新興AI企業との間にある借入コストの差を埋める役割を果たしています。その方法のひとつが、将来顧客になるスタートアップや、間接的にNVIDIA製半導体への需要を生み出すであろう企業への出資です。NVIDIAは2025年にこの種の投資を約90件実施しており、これは2024年のほぼ2倍です。2026年も9月時点ですでに60件もの投資に合意しています。

NVIDIAの投資の一部は、オープンウェイトのAIモデルを普及させることを目的としています。オープンウェイトモデルは無料でダウンロードして改変できますが、Anthropic、OpenAI、Googleといった企業が提供するAIモデルはサブスクリプションを通じて提供されており、内部の仕組みは公開されていません。

NVIDIAの投資の一例として挙げられるのは、同社によるHugging Faceの買収です。買収額は129億3030万ドル(約2兆円)。こうした投資の狙いは、巨大テクノロジー企業から独立したAI製品や企業を増やし、NVIDIA製半導体への需要を喚起することです。

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NVIDIAは大量の計算能力を必要としながら現金を燃焼し続ける大手AI研究企業に対しても、独創的な取り組みを進めています。NVIDIAがアメリカのオハイオ州で支援する巨大データセンターは、日本の複合企業であるSoftBank傘下のSB Energyが所有し、OpenAIがテナントとなるデータセンターです。

NVIDIAはこのデータセンターの土地と建物の賃貸契約に加え、施設の運営に必要となる電力購入契約も保証しています。その見返りとして、このプロジェクトでは150万個のNVIDIA製プロセッサが使用されており、施設の運用期間中に複数回のアップグレードサイクルが実施される見込みです。

AmazonやGoogleから半導体を購入しているAnthropicでさえ、このネットワークからは逃れられません。報道によると、Anthropicは複雑に組み合わされた一連の契約を通じ、NVIDIAが出資するLambdaからクラウドコンピューティング能力を借りるため、350億ドル(約5兆4000億円)規模の契約を結んでいます。そして、Lambdaは別の新興企業であるHut 8が開発している施設を利用しています。なお、Hut 8の計算能力はすべてNVIDIAが借り上げているため、コンピューティング能力の大部分はNVIDIAがLambdaに転貸している可能性があるとThe Economistは指摘しました。

さらに、NVIDIAはこの種のプロジェクトへ外部資金を呼び込むための独創的な方法も模索しているとThe Economistは指摘。投資家は独立した投資ビークルに資金を提供し、そのビークルがNVIDIA製ハードウェアを購入してインフラを建設し、計算能力を販売します。NVIDIAはこうした案件に前もって現金を拠出することも、債務を負うこともありません。ただし、一部の案件では一定期間後にハードウェアの価値が想定を下回った場合、その不足分を補うため、取引総額の最大4分の1に相当する「残存価値保証」を提供します。

なお、顧客需要を円滑にするため、ますます複雑な金融商品を利用しているのはNVIDIAだけではありません。NVIDIAの競合企業であるAMDは、OpenAIおよびMetaから自社製半導体を大量購入する契約を獲得する見返りとして、両社にAMDの大規模な株式持ち分を売却する案を提示しています。

ただし、このような状況においては「本来であれば資金調達が難しいはずの投機的なプロジェクトまで建設される危険があります」とThe Economistは指摘。

AI市場において関連企業の資金提供にNVIDIAほど深く関与している企業は他にありません。NVIDIAの投資はこれまでのところ非常に順調に進んでいますが、この好況が続くほど、AIバブル崩壊時に負担しなければならなくなる損失も大きくなることを認識しておくべきであると、The Economistは指摘しました。