サッカー日本代表に求められるウイング・坂元達裕 「大事なのは沈んだ時にどうリアクションするか」
ようやくたどり着いたプレミアリーグ。この表現は、過去最多の9名を数える今季の日本人選手のなかでも、コベントリーの坂元達裕にこそふさわしい。
同じ昇格組のハルには、今夏にポルトガルの名門スポルティングから移籍した31歳の守田英正がいる。イプスウィッチにも、スコットランドの優勝常連セルティックから加入した前田大然という10月で29歳になるプレミアの新顔がいる。
しかし、10月に30歳の誕生日を迎える坂元は、2023年の移籍当時、その3年前まではイングランド3部にいたチームとともに、チャンピオンシップ(2部)から上がってきた。

プレミアリーグに昇格したコベントリーのウイング、坂元達裕 photo by AFLO
コベントリーにとっては25年ぶりのプレミア復帰、そして坂元にとってキャリア初のタイトル獲得を意味するチャンピオンシップ優勝が秒読み段階に入った昨季の終盤、本人が言っていた。
「僕は、なかなかうまくいかない時期を、もがいてもがいて乗り越えながら、なんとかここまでステップアップしてきた」
チームの信頼を勝ち取り、ファンの心をつかむまでに時間はかからなかった。坂元は、鋭い切り返しがアクセントとなるドリブルで攻め上がっては、危険度の高いクロスや左足シュートで相手ゴールを脅かす右ウインガーだ。
コベントリーのファンは、「サカモトがウイングでボールを持てば得点の予感!」と歌って盛り上がる。攻守が入れ替われば、即座のプレスバックはもちろん、執拗なチェイシングも怠らない。本拠地CBSアリーナのスタンドからは、坂元のボール奪取にも歓声が起こる。移籍1年目には、縦のコンビを組む右SBミラン・ファン・エヴァイク(元オランダU-21代表)と合わせて「2大新戦力」と評された。
だが、その2023-24シーズン終盤戦で、腰椎の横突起3本を折る大ケガに見舞われてしまう。坂元という「推進力」を失ったチームは、昇格争いで失速して9位に終わる。
坂元は約半年後、2024-25シーズンの開幕戦で公式戦のピッチに復帰するが、3試合後には足首を痛め、再復帰後に初先発した試合も、脚に8針の裂傷を負い、前半10分で終わってしまった。「毎試合、これが最後になるかもしれないという覚悟で、自分のサッカー人生をかけて試合をすると意識している」という心境になるのもうなずける。
【ランパードのもとで「復活」】不運極まりないケガの影響は、肉体的な傷が癒えたあとにも及んだ。3バックの採用だ。
坂元にとっては、移籍1年目の基本型4-2-3-1システムが右ウイング定着への追い風となったのだが、その長期離脱を受けてマーク・ロビンズ前監督(現イングランド2部ストーク監督)は、元来好む3-4-1-2を採用する試合を増やしていった。ウイングバックではないワイドプレーヤーの坂元にとっては、起用位置が限られるシステムだ。続く2024-25シーズンも、滑り出しでつまずいたチームでは、開幕2カ月目からは3バックが主流となった。
そこで訪れた転機が、2024年11月の監督交代だった。24チーム中16位でチームを受け継いだフランク・ランパードは、基本的に4バックを好む。攻撃陣にもハードワークを求めるが、坂元にとっては望むところだ。新体制発足9日後となる同年12月7日、ミルウォールとのリーグ戦で、4-2-3-1システムの右ウイングとして先発フル出場し、1-0の勝利に貢献した試合後、こう言っていた。
「攻撃で仕掛ける部分だったり、クロスの部分だったり、チャンスメイクは得意でもありますし、そのうえでディフェンスもサボらずにハードワークできるというのが僕のよさ。自分のよさをもっともっと知ってもらえるようにプレーしていきたい」
口頭でのアピールもしたのだという。
「前節はなかなか僕の長所を伝えられていなくて。トップ下気味の位置に入って、後半に少しボールに触れなかった部分もあったので、(右SBの)ミランと監督に話しに行って、僕はサイドがやりたい、そこからのクロスやドリブルが自分の長所だと伝えたんです。僕自身が一番輝けるポジションかなと思っているので」
実際、ランパードのもとで坂元は輝く。チームとしては、昇格をかけた2024-25シーズンは、プレーオフ(3?6位)準決勝で敗れた。だが個人的には、90分をこなした準決勝の両レグともチーム随一の出来だった。
【「入れなかったらそれなりの理由がある」】リーグ優勝で自動昇格が実現した昨季は、記録に残ってはいないものの、昨年末からのミニスランプを脱する過程で重要な仕事をしている。首位の座を奪い返した今年2月中旬のミドルズブラ戦。チームを勝利(3-1)へのレールに乗せたのは、坂元がドリブルで3人をかわして"アシストのアシスト"をこなした先制点だった。
記録に残る数字に関しても、昨季はリーグ戦出場35試合で、42試合に出場した前年と同じく10得点に直接絡んでいた。4月上旬の試合で肋骨を痛めた「名誉の負傷」がなければ、最後の5試合で移籍後の自己ベストとなる数字を残せていた可能性は高い。
負傷欠場となる前には、5年ぶりとなる日本代表復帰への思いも語ってくれた。
「そこに対しての目標というか、入りたいという気持ちは少なからずあります。もちろん、入れたらうれしいですけど、入れなかったらそれなりの理由があるのだと思うし、そこは僕も理解します。年齢も年齢ですし。自分がもっともっと絶対的な結果を残せば、そこは自ずと見えてくる。僕は常に、自分にはまだまだ何か足りないと思いながらプレーしているんです。もっと結果を残せるようにやっていかなきゃいけない。
サッカー選手として一番大事なのは、沈んだ時にどうリアクションするか。そこで戻ってこられる選手が、上に行く。(ランパード)監督は常にそれを言っていました。(首位を快走した昨季の)前半戦のような時期がずっと続くわけではないということも」
まさに今、その「リアクション」を見せるべき時が訪れている。チームは、プレミアで得点のないまま開幕4連敗。昇格3チームのなかでは最も残留の可能性が高いと目されていたはずが、リーグ最下位に落ちている(いずれも本稿執筆時点)。坂元自身も、後半にベンチから途中出場した第2節ハル戦(0-1)でプレミアデビューを果たしてはいるが、翌節からは、ほぼ5バック状態の3バックへとシステムが変更され、厳しい状況だ。
リーグ戦で2試合連続出番のなかった第4節ブライトン戦(0-5)後、「プレミアでデビューできたことはよかったですけど、それからしっかりと結果を残してチームに貢献して、それを続けないと意味がない」と、坂元。そして、いつものように静かな語り口ながらも、きっぱりと言った。
「こういう苦しい時間は嫌というほど経験してきたので、乗り越えられる自信はあります。しっかりいいトレーニングをして、常にどこかで来るチャンスを待ちながら続けていきたい。まずは勝つこと、それに僕が貢献することが一番です」
プレミアでの本格始動が待たれる、コベントリーと「主翼」の坂元である。
山中忍●文 text by Shinobu Yamanaka
