「106万円の壁」撤廃で厚生年金に加入…25年働いて増えるのは月1万7000円の人も、元が取れる「年齢」

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2026年10月、「106万円の壁」が撤廃されます。壁を気にせず働けば、将来受け取れる厚生年金が増える--そう言われて納得してきた人もいるかもしれません。

しかし、社会保険に加入すれば、いま手元に残るお金は確実に減ります。では、その代わりに増える年金は、月にしていくらなのでしょうか。10年、20年、25年と働き続けたケースで試算しました。

前編から読む→「106万円の壁」撤廃でも"働き控え"は終わらない…週1時間多く働いただけで、手取りが年12.7万円も減る人も

それでも「将来の年金が増えるから得」なのか

「106万円の壁」撤廃をめぐっては、これまでも「壁を意識せず働いたほうが得」といった説明がされてきました。そこでよく挙げられるのが、厚生年金に加入することで将来の年金が増えるというメリットです。

確かに、厚生年金に加入すれば、老齢基礎年金に老齢厚生年金が上乗せされます。では、年収149万円(標準報酬月額12.6万円)で社会保険に加入し続けた場合、将来受け取れる老齢厚生年金は具体的にいくら増えるのでしょうか。

老齢厚生年金(報酬比例部分)の年額は、以下の計算式で算出されます。

平均標準報酬額 × 5.481 ÷ 1,000 × 加入月数

※平均標準報酬額とは、平成15年4月以降の加入期間について、標準報酬月額と標準賞与額の総額を、平成15年4月以降の加入期間で除した額です。ここでは、平均標準報酬額を標準報酬月額と同額と考えます。

標準報酬月額12.6万円の場合、1ヵ月加入するごとに将来の年金額は年額約691円(月額約58円)増える計算になります。これを一般的な就労期間である10年、20年、25年と加入し続けたケースで試算した結果が以下のとおりです。

25年、つまり四半世紀にわたって働き続けて、増えるのは月17,000円ほどです。一方で、厚生年金保険料の本人負担は25年で約346万円を支払うことになります。年20.7万円の給付でこれを回収するには、およそ16.7年かかる計算です。65歳から受け取り始めるなら、82歳前後でようやく元が取れることになります。

もちろん、この金額を大きいと感じるか小さいと感じるかは人によって異なります。

ただ、働き控えをしている人に「将来の年金が増えるのだから、もっと働いたほうが得」と説明すれば、本当に勤務時間を増やす動機になるのかという疑問は残ります。

第3号被保険者であれば、社会保険に加入しない期間も老齢基礎年金の受給につながる期間として扱われます。社会保険への加入によって年金がゼロから受け取れるようになるわけではなく、現在の手取りを減らす代わりに、将来の厚生年金という上乗せを得るわけです。

将来の年金額を増やしたい人には魅力があるでしょう。しかし、「今使えるお金を減らしたくない」「これ以上働く時間を増やせない」と考えている人にとって、この年金増額は社会保険加入の決め手になるでしょうか。

「会社が半分払ってくれるからお得」はどこまで正しい?

厚生年金については、「保険料は会社が半分負担してくれるからお得」と説明されることもあります。これは制度の説明としては正しいのですが、評価の基準としては注意が必要です。

事業主負担分も企業が実際に負担する人件費です。個人の家計から見れば本人負担9.15%を基準に考えることには意味がありますが、制度全体に投入される保険料との対応を見るなら、労使合計18.3%という別の基準で考える必要もあります。労使合計で考えるなら、回収に必要な期間は約33年で、65歳受給開始なら元が取れるのは98歳となります。

もちろん、目の前の家計の意思決定においては、判断基準は本人負担分です。家計として損得を判断するときは本人負担だけで見ればよいでしょう。しかし、厚生年金という制度全体のパフォーマンスを評価することは分けて考える必要があります。

少なくとも、「会社が半分払ってくれる」「将来の年金が増える」ということだけを理由に、社会保険に加入する働き方のほうが誰にとっても合理的だと結論づけるのは難しいでしょう。

働き控えは「制度を理解していないから」ではない

「106万円の壁を意識して働く時間をセーブするのは、生涯賃金を減らすから損だ」

「厚生年金が増えるのだから、壁など気にせずもっと働けばいい」

といった言説は、制度設計側が「短時間労働者は社会保険加入のメリットを理解していない」という前提で語られているように感じられます。しかし、それは短時間労働者の本音から目を背けていることにならないでしょうか。

あえて短時間労働を選んでいる人が求めているのは、今の生活に必要な手取りを確保し、子育てや介護と両立できる時間を残し、日々の生活を無理なく回すことです。それらを含めて働き方を決めている人もいるのです。

2026年10月に「106万円の壁」が撤廃されても、社会保険料によって手取りが減る余地は残ります。そして、その手取りを取り戻すには、さらに勤務時間を増やす必要があります。

そこに「将来の年金が増える」というメリットを示したところで、現在の手取りや時間を重視する人の判断が変わるとは限りません。

働き控えをしている人は制度を知らないために非合理な選択をしているのではなく、自分にとって価値の高い「今のお金」と「時間」を守ろうとしているのでしょう。

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松田聡子

ファイナンシャルプランナー / 群馬FP事務所代表

群馬県前橋市出身。明治大学法学部卒業。大学卒業後、IT企業でエンジニアとして15年間勤務し、金融システムや物流システムの開発に従事。その後、国内生命保険会社へ法人コンサルティング営業職に転身し、2009年に独立系ファイナンシャルプランナーとして開業。以後、個人向けマネー相談や企業向けコンサルティングの他、企業型確定拠出年金導入企業向け従業員研修の講師などに携わる。2020年より金融経済ライターとしても経済メディア、メガバンクオウンドメディアなどに実務経験を活かした記事を寄稿。著書『60分でわかる!住宅ローン超入門』(技術評論社)。日本FP協会認定CFP。

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