『オデュッセイア』4DX版はまったく“苦行”ではない。それでも「まずはIMAX」の理由、予習すべきこととは
「全6種9バージョン」のどれで鑑賞すべき?
この『オデュッセイア』は、2D(字幕/吹替)、IMAX®(字幕)、DolbyCinema®(字幕)、4DX(字幕/吹替)、MX4D®(字幕/吹替)、35mm(字幕) という全6種9バージョンで公開しており、どの形式で鑑賞するか迷っている人もいるでしょう。Xに投稿された体験の様子に、「荒れ狂う海、揺れ動く船…オデュッセウスとともに4DXで航海しませんか?」という文言が添えられたためか、「3時間これはキツいだろ」「もはや苦行では?」などとなかなか辛らつなコメントもされていましたが、実際に体験するとそんなことはまったくありませんでした。
後述する理由で、『オデュッセイア』の4DXは「ちょうどいいアトラクションをプラスする(でも時々本気)」という塩梅でとても楽しめたのです。
ただ……『オデュッセイア』の4DXがいかに優れていたとしても、それでも「IMAX上映を先に見てほしい」理由もあります。さらに「事前に知って欲しいこと」や「4DXの注意点」も併せてまとめましょう。それでもやはり、IMAXをおすすめしておきたい…!
『オデュッセイア』は日本では9月4日よりIMAX上映がスタートしており、大盛況&大絶賛。9月中旬現在、映画.comでは5点満点中4.2点、Filmarksでは4.4点というハイスコアを記録しています。確実に「IMAXで見るからこその体験」が大きく満足度を底上げしており、「初見」でこそ衝撃や感動はより増すでしょう。
何しろ『オデュッセイア』は「長編映画史上初」の「全編IMAXフィルムカメラで撮影された作品」であり、美しい風景や迫力のスペクタクルを映した「高解像度」かつ「情報量が多い」映像は、やはりIMAX上映でこそ真価を発揮するのは間違いありません。また、一部にIMAX撮影がされた映画では「IMAXカメラで撮った場面だけ画面が上下に広がる」、言い換えれば「場面によってコロコロと画面アスペクト比が変わる」ために、筆者個人としてはけっこう気になってしまっていました。
しかし『オデュッセイア』では全編がIMAXフィルムカメラで撮影されているので、画面アスペクト比は一定のままで楽しめるのです。なお、IMAX上映の中でも「1.43:1」の最大のアスペクト比で鑑賞できるのは、日本ではグランドシネマサンシャイン池袋と、109シネマズ大阪エキスポシティの2館のみ。もちろん他の劇場のIMAXでも十分楽しめるでしょうが、少し遠出をしてでも見る価値はあるでしょう。
通常上映でももちろん楽しめる
とはいえ、IMAXではない通常のスクリーンでは『オデュッセイア』を楽しめないかと問われれば、もちろんそんなことはありません(だからこそ、4DXもおすすめできるのです)。通常のスクリーンの上映でも「フィルム撮影ならではの質感や情報量」が完全に失われるわけではないですし、画面が上下に広がらなかったとしても、それはそれで映画を楽しむために設計された画面アスペクト比のはずです。
それよりも、『オデュッセイア』に対して「最低限」の目標として定めておくべきなのは、シンプルに「映画館で鑑賞すること」なのかもしれません。
172分と約3時間にもおよぶ上映時間中ずっと集中して、こだわり尽くされた音と映像を浴びる「体験」は、ほかに邪魔の入らない劇場でこそのもののはずです。
事前知識は、簡単なあらすじと「ゼウスの掟」だけでもOK
クリストファー・ノーラン監督作品は『TENET テネット』のように複雑なSF設定を持ち込んでいたり、はたまた『オッペンハイマー』のように史実を知っていることを前提とした物語運びがあったりと、「予備知識が必要」なイメージもあるでしょう。しかし、今回の『オデュッセイア』はそれほど心配はいらない、もっと言えば予備知識がほとんどなくても大丈夫です。例えば、あらすじは以下の2つのシンプルな軸さえ分かっておけば、大きな混乱はないでしょう。
(1)トロイア戦争を終えた王様のオデュッセウスが、20年ぶりの帰郷を目指す
(2)故郷では息子のテレマコスと、妻のペネロペが窮地に立たされている
また、劇中にたびたび登場する言葉に「ゼウスの掟」があり、その意味は知っておいたほうがいいでしょう。ゼウスの掟とは、古代ギリシャで重視されていた「身分によらず客人は等しくもてなす」というルール。『オデュッセイア』公式Xでは「ホスト:客人が満たされるまで名前を聞いてはならない」「ゲスト:ホストに対して非礼を働いてはならない」「相手によって態度を変えず互いに敬意を払う道徳観が、劇中の展開でも重要な鍵を握ります」とも記されています。
さらに、本作の字幕監修・吹替監修をした古代ギリシャ研究家の藤村シシンのXに記された解説も参照するといいでしょう。ゼウスの掟が「(警察もいない時代で)旅人が生きて帰るための唯一の保障システム」だったという文言も、念頭に置いて見てもいいかもしれません。
何より、王様のオデュッセウスが20年ぶりの帰郷を目指すという過程において、思いもよらぬ事態や危機また危機の連続で、シンプルにエンタメ性が高い内容でもあるのです。
原作はもとよりギリシャ神話に詳しくないという方のほうが、むしろ「えっ?そんなことになるの?」な驚きや意外性を楽しめるかもしれません。
4DXは「羽織れる上着」の持参を推奨?
前置きがすっかり長くなりましたが、ここから本題の4DXについて記します。本編では「航海(嵐に襲われる)シーン」がいくつかあり、その時に確かに4DXでは座席の揺れ以外にも激しい要素はあるのですが……それでも約3時間の上映時間からすればごく一部なので、苦行というほどに疲れることはまずないはずです。
そもそも全体的にはドラマパートも多めで、ずっと座席が揺れ動いているわけではありません。それでいて「ここぞ」という時のスペクタクルシーンでは、各演出がしっかり“仕事”をしています。だからこそ「やりすぎないバランスのアトラクション」になっていたと思うのです。
それでいて、4DXの製作スタッフは実際に船に乗って再現を試みたそうで、座席の揺れはなるほど“リアル”そのもの。乗り物酔いをしやすい人は、ある程度の覚悟をしておいたほうがいいかもしれません。
注意点としては、わずかながらも「水がかかる」という演出があるので、秋口にさしかかり肌寒くなってきた今の時期は特に、「羽織れる上着」を持っていったほうがいいでしょう。なお、「前から吹き付ける水」に関しては、座席横のスイッチでON/OFFの切り替えが可能です。
また、さまざまな演出が楽しめる上映方式には「4DX」と「MX4D」がありますが、座席の動きがメインの演出である今回の『オデュッセイア』では、究極的にはどちらでもいいかもしれません。しかし、「4DX」にだけある「上から雨(水滴)が少し降る」水の演出も効果的ではあったので、ぜひ今回も4DXをおすすめします。
そして、4DXでは多くの場合で吹替版となるのですが、こちらが素晴らしい出来栄えでした。平田広明、榎木淳弥、坂本真綾、江口拓也、水樹奈々、白石涼子、本田貴子、内田雄馬、坂詰貴之、武内駿輔と超一流の声優陣が集結しており、それぞれが熱演した各キャラクターが親しみやすく映りましたし、前述した「ゼウスの掟」にまつわる言動の意味も、より情報量が多くダイレクトに伝わってくる印象がありました。
さて、ここからは具体的な優れた4DXの演出を、3つのポイントに分けて紹介しましょう。サプライズとも言える一部の展開にも触れているので、知りたくない人は先に劇場へ足を運ぶことをおすすめします。
1:嵐と海難事故、さらには「トロイの木馬の中」が本当に恐ろしい…!
前述してきた通り、劇中では「航海(嵐に襲われる)シーン」がいくつかあり、船が荒波に揉まれるために座席が激しく動くというのはもちろん、時折「前から吹き付ける水」や、「上から雨(水滴)が少し降る」演出で、その過酷さをしっかり表現していました。しかも、その過酷さは段階的にアップしており、終盤は「もはや海に放り出されそう」な大盤振る舞い。リアルでは絶対に体験したくない「海難事故」を、あくまで擬似的に味わう意義はあるでしょう。
なお、「暗くて狭い“トロイの木馬”の中に兵士たちが忍び込んで城の中に運んでもらう」という有名な場面があるのですが、その中の息苦しさも、トロイの木馬ごと動かす時の座席の揺れ、さらには「中に溜まっていた水」を示す水滴の演出で表現していたため、より兵士たちのしんどさを味わえました。2:怪物が迫り来る感覚も!
劇中では「キュプクロス」や「巨人兵」が登場します。その足音が座席の「ズンズン」とした振動で伝わる場面もありますし、何より恐ろしいのはそれぞれが海岸まで、船に乗り込む寸前まで襲いかかってくるため、そこでも「前から吹き付ける水」や「上から雨(水滴)が少し降る」演出で、「ギリギリ逃げられる(逃げられない!)」スリルをより味わえるのです。シビれたのは、その巨人兵が「霧」の中から現れることにあわせて、スクリーン前に「スモーク」が発生すること!「どう考えてもヤバいやつが出てきた」恐怖もより味わえるでしょう。
3:剣劇シーンも大迫力、特に「弓矢」がいい!
4DXの演出が発揮されやすいのは、やはりアクションシーン。剣と剣がぶつかり合う剣劇シーンでは、もちろん座席が激しく動いたり、背中への衝撃とともに背中のシートが「ボコッ」となる場面もまた臨場感がありました。
さらに、本作で多いのは弓矢を射るシーンで、それにあわせて頭のそばの「エアー」が「プシュッ」と吹き付けるので、ギリギリで矢を避けたような感覚にもなれるのです。ぜひぜひ、4DXでこそのアトラクションも“盛って”(できればIMAXで見てからの2回目で…!)最後まで楽しんでほしいです。
この記事の執筆者:
ヒナタカ
All About 映画ガイド。雑食系映画ライターとして「ねとらぼ」「マグミクス」「NiEW(ニュー)」など複数のメディアで執筆中。作品の解説や考察、特定のジャンルのまとめ記事を担当。2022年「All About Red Ball Award」のNEWS部門を受賞。
(文:ヒナタカ)

