テレビ東京・ローカル路線バス乗り継ぎの旅。太川・蛭子コンビが注目を集めた(番組公式HPより)

写真拡大

 出演者の大ケガ事故と制作批判により、一時は打ち切り説までささやかれたテレビ東京の『バス旅シリーズ』。事故からわずか半年あまりで復活し、特番として放送される。テレ東が番組を継続させたかった理由とは何なのか。コラムニストでテレビ解説者の木村隆志さんが解説する。

【写真】8ヶ月ぶりの放送再開、今回のバス旅にゲスト出演する村重杏奈、水野真紀、王林、“大河俳優”・マギーなど。他、過去に出演した女優・山之内すずや人気コスプレイヤー・えなこなども

 * * *
 12日夜、『路線バスで鬼ごっこ!~バス旅マスター太川から逃げ切れ~茨城グルメ争奪戦SP』(テレビ東京系、18時30分~)が放送されます。

 同番組はテレビ東京が誇る『バス旅シリーズ』の"鬼ごっこ版"。「バス旅シリーズのシンボルである太川陽介さんが鬼になり、ゲストたちを捕まえる」という構成で、今回は水野真紀さん、マギーさん、クロちゃん、大江裕さん、王林さんが逃げ役、草薙航基さんと村重杏奈さんが太川さんのサポート役を務めます。

 茨城県の水戸エリアを舞台に、逃げ役たちは15のチェックポイントをクリアしながら鬼から逃げ切れるのか。頭と足を使い、時刻表を見極めながらの鬼ごっこだけでなく、「極上霜降り常陸牛」「冷やしご当地ラーメン」「市場直送!新鮮海鮮丼」などの名物グルメも見どころの1つです。

 この鬼ごっこ版は今回が第4弾の放送で、2025年7月の第1弾からわずか1年あまりで人気シリーズの仲間入りした様子がうかがえます。

 しかし、『バス旅シリーズ』そのものは存続の危機に立たされていました。2月に行われた『バスVS鉄道乗り継ぎ対決旅』のロケで出演者の前園真聖さんの負傷が発覚。しかも番組内のゲームによる負傷であり、右膝外側半月板損傷で全治6か月という診断を受けてシリーズは即休止に追い込まれました。

 さらに撮影前に前園さん側がゲームの危険性を指摘していたことが報じられたため、制作サイドに批判が殺到。制作サイドのミスで大けがをさせたことになるため、「打ち切りやむなし」という声もあがっていました。

 テレビ東京の『バス旅シリーズ』は2007年から続く歴史ある番組とはいえ、なぜ事故から半年あまりで復活できたのでしょうか。その背景を読み解いていきます。

各地で減便や廃止路線が増えていた

 近年、『バス旅シリーズ』はコンスタントに特番を放送していた一方で、不採算や運転手不足などを理由に全国各地でバス路線の減便や廃止路線が増えるなど、危機が叫ばれはじめていました。

 視聴者からも「バスに乗るより歩いている時間のほうが長い"散歩旅"」という声もあがる中、それを補うように強化されたのがゲームコーナーなどのミッション。さまざまな企画が考えられたものの、体を張るようなものもあり、結果的にこのような流れが2月の事故につながってしまった感があります。

 この事故を受けて『バス旅シリーズ』のファンから「県境のみ高速バス利用OKにしては?」「タクシーの利用可能額を上げたほうがいい」などのルール変更や、「太川陽介&蛭子能収のコンビがよかったから、またこういう組み合わせを考えてほしい」という原点回帰を求める声があがりました。事故を発生させたにもかかわらずこのような声があがるのは、それだけファンの多い番組ということでしょう。

 しかし、今のところ大きなルール変更はなし。テレビ東京は外部弁護士による調査を経て、「ロケの下見の時間を十分に確保する」「天候の変化や不測の事態を想定し、あらかじめ複数の代替プランを用意する」「身体的負担が予想されるロケにおいては、専門的な知見に基づく看護師やトレーナーの帯同など救護体制を整える」「出演者から安全性に関して疑義が呈された場合は、撮影を一時中断し、番組出演者と制作スタッフ双方が十分に協議する」など8つの再発防止策を掲げました。

 確かにこれらがすべて実行されたら事故は起こりにくいのかもしれません。ただ、批判を受けてからまだ半年であり、前園さんも復帰して間もないことを踏まえると、「少しでも早く復活させたかった」という意向がうかがえます。

局をあげた大型特番『旅の日』のメイン

 テレビ東京にとって"旅"は"グルメ"と並び立つ2大コンテンツ。

『バス旅シリーズ』には女性版のほか、バスVS鉄道版、陣取り版、ぐるり一周対決版、鬼ごっこ版などがあり、さらなる発展性も見込めます。それ以外でもテレビ東京には、レギュラーの『出川哲朗の充電させてもらえませんか?』、特番の『大久保・川村の温泉タオル集め旅』『あさこ・梨乃の5万円旅』『千原ジュニアのタクシー乗り継ぎ旅』などの旅番組が目白押し。最近でも『埼玉・栃木・群馬横断!リアル桃鉄バトル』という企画がラインナップされました。

 そしてもう1つ特筆すべきは『テレ東系旅の日』の存在。テレビ東京の旅番組がリレー放送する企画で、他局にはない長時間の大型特番として定着しつつあります。

 2024年は3月20日に4番組で計7時間、12月28日・29日に『ローカル路線バス乗り継ぎの旅』のみで計8時間。2025年は6月21日・22日に3番組で計7時間、12月28日・29日に『ローカル路線バス乗り継ぎの旅』のみで計9時間にわたって放送されました。

 いずれの放送でも「『テレ東系旅の日』の中心は『バス旅シリーズ』だけに、今回の事故によって打ち切りになることだけは避けたい」というのがテレ東の本音でしょう。

 また、あまり知られていませんが、事故が起きる直前の2月、太川陽介さんが自身のXを通じて小学生を対象にしたバス旅企画『THEバス旅Jr.』の始動を予告していました。さらに小学生の出演者を募集し、選考に入っていただけに返す返すも事故が悔やまれるところ。今回の復活が順調に進めばいずれこの企画も制作・放送されるのではないでしょうか。

コスパも視聴率もいい優良特番

 もともと『バス旅シリーズ』はスタジオが不要なオールロケの番組であり、出演者の数も限定的で、バスが主役のためビッグネームを呼ぶ必要性もないなど、コスパのよさは明白。

さらに、「ゲーム性やストーリー性があるため長時間特番を作りやすい上に、勝敗が決まる最後まで継続視聴の確率が高く、安定した視聴率を計算できる」などと言われていました。

 また、テレビ東京としては旅番組のシンボルとして復活させるだけでなく、かつて映画の制作・公開や旅行会社とタイアップしたツアーも発売したこともあるなど、今後はIPとしての収益性を期待したいところではないでしょうか。

 電車関連の番組は多い一方でバスの番組は少なく貴重な存在であり、今回の復活が予告された際もおおむね好意的な声が目立っていました。バス好きだけでなく、子どものファンも多いなど家族視聴が期待できる番組だけに、今回の復活特番をいいきっかけにしたいところでしょう。

【木村隆志】
コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者。雑誌やウェブに月30本前後のコラムを提供するほか、『週刊フジテレビ批評』『どーも、NHK』などの批評番組に出演し、番組への情報提供も行っている。タレント専門インタビュアーや人間関係コンサルタントとしても活動。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』『話しかけなくていい!会話術』など。