(※写真はイメージです/PIXTA)

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親が高齢になっても、実家を「いつでも戻れる場所」と考えている子どもはいるでしょう。しかし親自身にも生活があり、年金や貯蓄には限りがあります。子どもの生活が苦しくなったとき、どこまで支えるのか。同居や金銭援助をめぐる考え方の違いが、親子の関係を大きく変えることもあります。

「次が決まるまで実家に」44歳息子が突然持ち出した話

「仕事、辞めたんだ」

夏の終わり、久しぶりに実家へ帰ってきた長男の健太さん(仮名・44歳)は、夕食の途中でそう切り出しました。

母親の春子さん(仮名・80歳)は、10年前に夫を亡くしてから一人暮らし。月約14万円の年金で生活しています。

健太さんは県外で会社員として働いていましたが、職場を辞め、住んでいた賃貸住宅も近く退去する予定だといいます。

「次が決まるまで、こっちに戻ろうと思ってる」

春子さんは箸を止めました。

「戻るって、この家に?」

「うん。どうせ一人なんだから、部屋も余ってるだろ」

実家は築40年を超える3LDKの戸建てです。健太さんが使っていた2階の部屋も、そのまま残っていました。しかし春子さんは、すぐには返事をしませんでした。

実は健太さんが生活に困って実家を頼るのは、初めてではありません。

30代後半で転職した際には、家賃が払えないと言われて20万円を渡しました。その数年後には「カードの支払いが厳しい」と頼まれ、30万円を貸しています。返済すると言われましたが、ほとんど戻ってきませんでした。

「そのたびに、今度こそ立て直すと思っていました」

夫が亡くなった時点で、春子さんには1,000万円ほどの預貯金がありました。しかし、自宅の屋根や給湯器の修繕、家電の買い替え、医療費などで少しずつ減少。現在残っているのは約600万円です。

総務省『家計調査報告(家計収支編)2025年平均結果』によると、65歳以上の単身無職世帯では、実収入は月13万1,456円、可処分所得は11万8,465円。一方、消費支出は14万8,445円となっています。平均的には、日々の収入だけで支出をすべて賄えているわけではありません。

年金月14万円の春子さんも、固定資産税や住宅の修繕など大きな支出がある年には、貯蓄を取り崩しています。

「あなたがここで暮らしたら、生活費はどうするの?」

春子さんが尋ねると、健太さんは少し不機嫌そうに答えました。

「仕事が決まったら入れるよ。それまでくらいいいじゃん」

その言葉を聞いて、春子さんは以前から考えていたことを口にしました。

「あなたが育った家だけれど」母が同居を拒んだ理由

「ここには住ませません」

健太さんは冗談だと思ったようでした。

「何言ってるの。自分の実家だよ?」

「あなたが育った家ではあるけれど、今ここで生活しているのは私です」

春子さんは数年前から、家そのものを手放すことも考えていました。

階段の上り下りが負担になり、庭の手入れも難しくなっています。今後さらに一人暮らしが難しくなれば、高齢者向け住宅へ移る可能性もあります。そのためにも、残った貯蓄をできるだけ守りたいと考えていました。

健太さんは納得しませんでした。

「たった数ヵ月だよ。それすら助けてくれないの?」

「前にも助けました。でも、私はもう80歳です。今度は自分の生活を守らないといけません」

しばらく言い合いが続いたあと、健太さんは「そんな親だと思わなかった」と言いました。そこで春子さんも感情的になりました。

「お金を出して、住むところも用意し続けないと親じゃないと言うなら、親子の縁は今日で終わりです」

その夜、健太さんは実家を出ました。その後しばらく連絡はありませんでしたが、数ヵ月後、「仕事が決まった」と短いメッセージが届いたといいます。

春子さんは返信しました。

「よかったね。体に気をつけて」

今も、あの日の言葉が強すぎたとは思っているそうです。それでも、同居を断ったことについては後悔していません。

「息子が嫌いだから断ったわけではありません。この年齢になって、あと何年暮らすのか分からない。そのためのお金まで使ってしまうことのほうが怖かったんです」

子どもが困っていれば助けたいと思う親は少なくないでしょう。しかし、援助する側にも生活があります。特に高齢期には収入を増やすことが難しいケースもあり、一度減った老後資金を取り戻せるとは限りません。

家族だから無条件に受け入れるのではなく、自分の生活を維持できる範囲を決めること。春子さんにとってそれは、息子との関係を断つためではなく、自分自身の老後を守るために必要な線引きでした。