マツダ新型「CX-5」は5月の発売以来売れ行き好調で、割安感を理由に他社からの乗り換えも多いという。自動車業界に詳しいマーケティング/ブランディングコンサルタントの山崎明さんは「独自の戦略でコアなファンを掴んできたマツダにとって、新型CX-5はその売れ行きとは裏腹に、ブランド戦略の観点からは難しい問題を抱え込んだ」という--。
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マツダ新型「CX-5」の国内受注台数は6月21日時点で1万台を超え、その後も順調に推移している。 - 筆者撮影

■新型CX-5は販売好調だが…

5月21日、新型マツダCX-5が日本でも発売になった。

室内空間と荷室が広くなり、Googleの音声認識システムやGoogleマップが採用されて使い勝手が向上し、マイルドハイブリッド化で燃費も向上、と先代よりも大幅に商品力がアップした、というのが一般的な見立てであろう。

実際、発売直後の販売は好調のようだ。しかしこの新型CX-5は、現在マツダのおかれている苦しい状況を象徴しているモデルでもあるのだ。

■ディーゼルエンジン見送りは正しいか

CX-5(旧型)は2017年の発売後8年が経過しているにもかかわらず2025年に世界市場で最も売れたマツダ車で、国内市場でも最も売れたマツダ車である。逆に言うと、その間にマツダが発売したモデルはCX-5を超えることができなかったとも言える。つまりCX-5はマツダにとって最重要車種なのである。

国内市場でCX-5に次ぐ販売台数となっているのはマツダ2で、こちらは2015年発売とさらに古い。しかしマツダ2はさすがに古く、2026年8月をもって国内生産が終了し、販売も在庫がなくなり次第終えることが明らかになっている。コンパクトモデルとしては新型CX-3が準備されているが、発売は2027年後半といわれている。

それゆえCX-5の重要性はさらに高まるわけだが、新型CX-5は日本市場において重大なネガティブポイントが存在している。それは先代までCX-5の販売を支えていたディーゼルエンジンがラインアップから落とされたことだ。

■マツダの技術を象徴する存在

2012年に発売された初代CX-5の最大のセールスポイントは新開発されたディーゼルエンジンで、なんと初期需要の8割以上をディーゼルが占めた。その後他モデルにもディーゼルエンジンが搭載され、ディーゼルエンジンはマツダを代表する技術となっていった。

高価にもかかわらずディーゼルがマツダの販売の中心になったことでマツダ車の平均販売単価は大幅に上昇し、ブランド価値向上にもおおいに貢献したのである。旧型CX-5はモデル末期の2025年でもディーゼルエンジン比率は50%もあったのだ。

ディーゼルエンジンはガソリンエンジンより高価だが、燃焼効率に優れ燃費が良く、低速トルクも大きいため街中での出足も良く、高速道路走行時の加速も良い。また日本では軽油の税額がガソリンより安いため、燃料費がハイブリッド車並みに安いというベネフィットもある。

マツダのディーゼルエンジンは欧州車のディーゼルエンジンに比べ低圧縮というユニークな特徴があり、複雑な後処理デバイスを付けなくても規制をクリアできていた。ロータリーエンジンが事実上消滅した後、マツダのユニークなエンジン技術を象徴する存在となっていったのだ。

■「マツダらしさ」とは何か

マツダファンは、マツダのユニークな技術や操縦性に優れた足回りに惚れた、クルマ好きが多い。

かつて世界で唯一ロータリーエンジンを実用化し、世界で唯一の量産ライトウェイトスポーツカーであるロードスターを35年以上にわたって作り続けていることなどが熱烈なマツダファンが多い理由である。

つまり他社とは異なるユニークな、クルマ好きをワクワクさせる車作りこそがマツダの存在意義であり、このディーゼルエンジンも「マツダらしさ」の1つとして捉えられたのだ。

■あと1年は「ガソリンエンジンのみ」

今回、CX-5にディーゼルエンジンが継続されなかった理由は何か。

まず、最大の市場であるアメリカではディーゼルエンジン搭載車は以前から売れないという事情がある。アメリカではガソリンより軽油のほうが高価であり、車両価格も高くなってしまうディーゼル乗用車の市場がほとんどないのである。

ヨーロッパは10年ほど前まではディーゼル中心の市場だったが、2015年のフォルクスワーゲンのディーゼルゲート事件をきっかけに逆風となり、規制も強化されてメカニズムが複雑化したことで高価になった。

また日本と異なり軽油は税制上優遇されていないので、現在ヨーロッパのほとんどの国ではガソリンより軽油が高くなってしまっており、ディーゼル車の需要は大きく減少しているのだ。

CX-5は国際商品であり、国内販売は生産量全体の約8%(2025年)に過ぎない。ディーゼルはその半分だから約4%、その4%だけの需要のためだけにディーゼルは継続できない、という判断だったと思われる。

ガソリンエンジンとディーゼルエンジンの長所を併せ持つユニークな新型エンジン、SKYACTIV-Zとマツダ独自のフルハイブリッドシステムを搭載したモデルも準備されているが、それは2027年中の発売予定なので、少なくとも1年は現行のマイルドハイブリッド仕様のガソリンエンジンのみで売っていかなければならない。

写真提供=マツダ
新型「CX-5」には搭載されなかった2.2L「SKYACTIV-D」エンジン - 写真提供=マツダ

■日本市場を「切り捨てた」選択

海外市場(主にアメリカ市場)を重視して日本市場をある程度切り捨てたと思われる要素がもう1つある。ボディサイズだ。

旧型CX-5の全幅は1845ミリだったが、新型は1860ミリに拡大されている。日本のマンションなどの機械式駐車場の多くは全幅を1850ミリに制限している(私が住むマンションも1850ミリである)。新型はそれを10ミリ超えているだけだから物理的には入ると思われるが、規定を超えている以上車庫証明を取ることはできない。

つまり、このような機械式駐車場を利用しているCX-5オーナーは新型に買い替えることができないのである。海外市場での競合車の全幅は1900ミリ近くまで拡大しており、「より広い室内を」という声を無視できなかったということだ。

こうして新型CX-5は、日本で支持されてきた理由と思われる特徴を2つ失ってしまったことになる。しかしほかに新型車がなく、マツダ2も販売停止となる以上、CX-5は絶対に売らなければいけないモデルなのである。

■なりふり構っていられない現実

今までマツダは「2%戦略」という言葉を使ってブランド戦略を構築してきた。98%の人には買ってもらわなくても良いから、2%の熱烈なファンに支えられれば良いという考え方だ。

これはBMWとも共通する考え方で、車の個性・特性をすべてのモデルで統一・明確化して、価格が多少高くても、モデル末期であってもマツダを積極的に買ってくれるファン層を形成しようとするものだ。

スカイアクティブテクノロジーや魂動デザイン、乗り心地より操縦性を重視したサスペンションなどはそれを意図したもので、その戦略はある程度成功を収めていた。

しかし今回はなりふり構っていられないのである。現状の新型CX-5ではコアなマツダファンには少々物足りない内容である以上、販売ターゲットを従来のマツダファン以外にも拡大せざるを得ないのだ。

だから大きく拡大された後席空間やトランクルームを重要なセールスポイントに据えざるを得ない。サスペンションも乗り心地を重視したチューニングとせざるを得なかった。

■「価格」「広告」に起きた大変化

そして、非常に大きな変化が値付けである。

マツダは装備が充実しているにもかかわらず、新型CX-5を競合車に対してとても「お買い得感」のある価格としてきたのだ。競合他車はハイブリッドが主力のものが多いが、通常のガソリン車を選ぶ層は価格を重視して選ぶ層なので、割安な価格とせざるを得なかったのだ。これは今までのプレミアム化路線に逆行するものである。

さらにもう1つ、大きな変化がコミュニケーションである。

スカイアクティブ技術や魂動デザインを採用した初代CX-5以降、マツダは車自体のコンセプトやデザインの素晴らしさにフォーカスしたコミュニケーションを展開してきた。つまり広告にタレントなど車と直接関係のない要素はあえて排除してきたのである。

しかし今回の新型CX-5キャンペーンでは女優の綾瀬はるかを起用したのだ。綾瀬はるかはユニクロやP&Gなどでも起用されており、老若男女に支持されるもっとも好感度の高い女優の一人だ。これは従来のマツダユーザー以外から幅広く顧客を取りたいという意図からのものだろう。

この狙いはとりあえず成功しており、マツダディーラーに話を聞いたところ販売は好調でマツダ車以外からの買い替え、特にトヨタとホンダからの買い替えが目立つという。購入の決め手はトヨタやホンダの競合車と比べ割安な価格ということだ。

■新規顧客の代わりに失ったもの

しかし、この戦略で新規顧客が得られとしても、将来的にコアなマツダファンとなってくれる可能性の低い客と言わざるを得ない。一方で旧型CX-5、特にディーゼルモデルからの買い替えはほとんどないということだ。

FRレイアウト、直列6気筒エンジンを採用したプレミアム化路線の象徴的モデルであるCX-60/80が日本市場では初期トラブルの影響もありパッとせず、目指すべきブランド戦略が機能不全に陥ってしまっているのも現在の苦しさの一因だ。

CX-60/80も海外市場をメインに開発されており、日本の道路・駐車環境には大きすぎるという問題点を抱えている。プレミアム化、高価格化するということは大型化につながりやすく、それが日本市場のニーズとのミスマッチにつながってしまっているともいえるだろう。

トヨタ、ホンダ、日産などは日本のニーズに合わせた日本市場専用車を販売しており、それらは日本での販売の主力となっている(シエンタ、アクア、ノア、ルーミー、ノート、セレナ、フリード、ステップワゴンなど)。

マツダは国内販売台数が少ない(2025年でホンダの3分の1、日産の2分の1の販売台数)ため日本市場専用車を用意する余裕はなく、北米市場が売上の半分以上を占めるため、アメリカ市場優先の開発とせざるを得ないのだ。

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「CX-5」の室内の広さを説明するマツダの山口浩一郎主査 - 筆者撮影

■ブランド戦略として生じた「あるリスク」

今回CX-5でディーゼルエンジンを廃止したのは、コスト的には合理的な判断とはいえるが、マツダのブランド戦略として正しい判断ではなかったのではないかと私は考える。

スカイアクティブ・ディーゼルは他社にないマツダの技術的独自性の象徴であるうえに、日本ではディーゼル車を選ぶ明確なベネフィットがある。

日本は欧州市場とは異なり、メルセデス・ベンツやBMWは現在でも販売の30~40%はディーゼルと言われており、ディーゼル車の需要はそれなりに存在するのだ。

CX-5にディーゼルがあればディーゼルに販売は集中し販売単価は大きく向上したはずだし、マツダファンも納得して購入できたはずだ。プレミアム性を目指すブランドイメージも維持・強化できただろうし、契約料の高い著名人を起用する必要もなかっただろう。

ディーゼルをやめたがゆえに、長期的なブランド戦略全体も曖昧になってしまうリスクを伴う結果となってしまった。

世界販売100万台、国内販売10万台(スズキOEMの軽自動車などを除いた台数)という規模のマツダが生き残るためには、高くても、モデル末期であっても買ってくれる熱狂的なファン層の維持・拡大(維持のほうがより重要)がきわめて重要であると私は信じている。

そのためには他社にはない独自の車作りの思想、独自技術がなければならない。これを失ってしまうとマツダの存在意義自体を失ってしまうことになる。

■「独自技術の空白」を埋めろ

SKYACTIV-Zが成功すれば良いが、その前身たるSKYACTIV-Xは技術的評価こそ高かったものの販売面では成果を上げることができなかった。

それを考えるとSKYACTIV-Zにすべてを賭けるのはあまりにリスクが大きい。販売・ブランド両面から考えてディーゼルモデルは残しておくべきだったと考える。

逆にどうしても新型CX-5にディーゼルを残せないのであれば、2027年予定のSKYACTIV-Z導入まで新型CX-5の発売を延ばすべきだったと考える。

そうすれば旧型CX-5のディーゼルモデルをそれまで販売できるわけで、「マツダ独自の技術」の空白期間をなくすことができ、ブランド視点からの問題を解消することができる。

■中長期的なブランドコントロールが重要

マツダのような規模の自動車会社が生き残るためには、目先の販売よりも中長期的なブランド戦略とブランドコントロールのほうが重要だと思う。

グローバルに強いトヨタ、インドやアフリカといった成長市場に強いスズキを除けば、他の日系メーカーも今までのやり方では規模的に厳しくなっていくだろう。

日系ブランドは商品力があったために今まで明確なブランド戦略無しに存続することができたが、今後生き残るためにはターゲット層を絞り込んだ明快なブランド戦略と、それに基づいた製品戦略・イメージ戦略が重要になってくるはずだ。

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山崎 明(やまざき・あきら)
マーケティング/ブランディングコンサルタント
1960年、東京・新橋生まれ。1984年慶應義塾大学経済学部卒業、同年電通入社。戦略プランナーとして30年以上にわたってトヨタ、レクサス、ソニー、BMW、MINIのマーケティング戦略やコミュニケーション戦略などに深く関わる。1988~89年、スイスのIMI(現IMD)のMBAコースに留学。フロンテッジ(ソニーと電通の合弁会社)出向を経て2017年独立。プライベートでは生粋の自動車マニアであり、保有した車は30台以上で、ドイツ車とフランス車が大半を占める。40代から子供の頃から憧れだったポルシェオーナーになり、911カレラ3.2からボクスターGTSまで保有した。しかしながら最近は、マツダのパワーに頼らずに運転の楽しさを追求する車作りに共感し、マツダオーナーに転じる。現在は最新のマツダ・ロードスターとホンダ・フィットe:HEVを愛用中。著書には『マツダがBMWを超える日』(講談社+α新書)がある。日本自動車ジャーナリスト協会会員。
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(マーケティング/ブランディングコンサルタント 山崎 明)