調理した男子に「きしょ」「まじ終わった」…言葉にできない子供たち「何でも『やばい』」教育現場ルポ

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語彙力をベースにした〈言葉の力〉がない子供であればあるほど、いじめ、不登校、校内暴力などさまざまな問題でつまずきやすくなります。

自分の気持ちを言葉にできなければ、ストレスとなって感情が爆発するか、「みんなわかってくれない」「どうにもできない」と物事を諦めがちになる。その結果、目の前の課題を解決して前に進めなくなるのです。

今の子供たちは、何でもかんでも「やばい」「うざい」「きもい」「えぐい」といった極端な言葉で表現しがちです。しかし、トラブルが起きた時に「やばい、やばい」と連呼しても何も変わりません。解決策を思案することも、人に思いを伝えることも、他者とわかり合うこともできません。

今年7月に発売された拙著『「ことばで伝える」ができない子どもたち』(日本実業出版社)は、発売前に大重版し、その後も版を重ねています。

「やばい」を連発

本書に登場する小学校のベテラン教員は言います。

「子供たちの言葉の乱れは、生活の乱れに直結します。子供同士がわかり合えない、自分の気持ちを表現できない、他者の気持ちを考えられない、みんなで協調することができない。いずれも、言葉の乱れから起きることです。

ただ、最近は保護者だけでなく、保育士や習い事の先生も、あるいはタレントやユーチューバーも『やばい』を連発するなど語彙力がありません。そうなると、いくら学校で細かな言葉を教えて、きちんと言葉で考えようね、きちんと言葉で伝えようねと言っても、まったく心に響かないのです」

考えてみれば、大人の世界で起きているコミュ障、ヘイト、陰謀論、誹謗中傷などの問題は、言葉を的確に使えない人たちが、粗い言葉で物事を思考し、表現していることに起因します。

本書がヒットしているのは、「ことばで伝えるができない」ということが、大人も含めた日本社会全体の問題だからではないでしょうか。

なぜ、子供たちは極端な言葉だけでものごとを表現しようとするのでしょう。

本書では、その要因を細かく分析していますが、幼少期の問題の一つとして挙げられるのが大人と子供が言葉を交わす機会が減っていることです。

子供は日常生活の中で保護者などいろんな大人に胸の内を代弁してもらったり、目の前の出来事を言葉で表現してもらったりすることで、新しい言葉を獲得していきます。さらに、絵本の読み聞かせなどで、日常ではあまり使わない言葉も学びます。

しかし、統計からも明らかなように、親子の会話の時間は着実に減っています。以下は本書に登場する保育士の言葉です。

「親子の会話の減少の原因はスマホでしょうね。今の子は、3歳くらいで1日のスクリーンタイムが4、5時間というのは珍しくありません。親はそれ以上です。そうなると、園への送り迎えの最中だけでなく、食事中もそれ以外の時間もずっとスマホ漬け。

また、園で言葉を教えても、それを家族や友達とのプライベートの時間で使わなければ自分のものになりません。血となり肉とならないのです。今の子は、言葉を勉強として教えられる機会は増えても、遊びの中で使わないので、自分のものとして使いこなせない。だから、2歳くらいで『やばい』『うざい』としか言わない子も珍しくなくなっています」

本書には、スマホやゲームをやりながら言葉の力を育てていく方法が詳しく記載されています。でも、それを知らなければ、スマホやゲームは言葉の力を奪うものになってしまうのです。こうした子供たちが小学校、中学校と進学していっても環境はさほど変わりません。

せっかく勉強をしてたくさんの言葉を覚えても、周りの子たちとスポーツをする、イベントに参加するといった共有体験が年々減っているため、教室の中には粗い言葉だけが飛び交いがちです。

調理実習で「まじ終わった」

本書で紹介している興味深いエピソードがあります。次のようなものです。

家庭科の調理実習で、トマトソースを作ろうとした時、一人の男子がトマトのヘタ(緑の部分)まで煮てしまった。すると周りの子たちが一斉に「きしょ」「こいつ、ヤバ」「マジ終わった」と叫んだ。その結果、その子は傷ついて学校に行けなくなった--。

考えてみてください。

トマトのヘタを煮たところで、気持ち悪いことも、やばいことも、終わったこともありませんよね。彼らは何か想定外のことが起きた時、反射的にそうした乱暴な言葉を発しているだけなのです。

でも、それを言われた人にとってはどうでしょう。単にヘタを煮ただけで、気持ち悪い、ヤバい、終わったと言われれば、落ち込み、友達と一緒にいるのが怖くなるのは必然です。

本書に登場する小学校の教員の話です。

「オンライン上でも言葉の粗さは目立ちます。SNSではほとんど単語だけのやり取りですし、乱暴な言葉が日常的に飛び交っている。それに疲れ果ててしまう子が多いのです。

最近の子は『圧』という言葉をよく用います。『教室の圧がすごい』『グループLINEの圧がやばい』と言う。身の周りに乱暴な言葉が日常的に飛び交っているため、生徒たちは自分の心を守るために常に神経をとがらせて、身構えていなければならない。それに疲弊してしまっているのです」

親も教員もなかなかこの事実に気づきません。なぜならば、彼ら自身が同じように粗い言葉を使っているので、子供たちがそれによってどう傷ついているかまで考えられていないからです。

残念ながら、こうしたことは家庭の経済格差も少なからずかかわっているといわれています。

高所得の大人は、言葉によって物事を打開していく力を持っていて、子供にも豊かな言葉を獲得させる傾向にあります。また、多様な体験をさせることで、覚えた言葉を血肉化させます。それゆえ、高所得世帯の子供のほうが言葉の力を獲得しやすいのです。

ただ、『「ことばで伝える」ができない子どもたち』には、工夫一つでその格差を乗り越えられるヒントが多数記されています。私たちが学ばなければならないのは、〈言葉の力〉を獲得するメソッドなのです。

【後編】では、子供が語彙力をつけるための具体的なノウハウを紹介します。

取材・文:石井光太(ノンフィクション作家)