「税務調査が入るんじゃ…?」70歳男性が父の遺産相続で感じた恐怖。預金300万円のはずが、“隠し口座”から見つかった〈まさかの預金額〉【司法書士が解説】
親が亡くなった際、遺産の全容を正確に把握している子は多くありません。預金保険機構によれば、10年以上取引のない「休眠預金」は毎年約1,300億円も発生しており、その背景には“相続人すら気づいていない隠し口座”の存在があると考えられます。本記事では、20年間放置した父の遺産から多額の隠し口座が発覚し、税務調査の恐怖に怯えた70歳男性の事例をもとに、司法書士の新井健二氏が「大金を眠らせないための相続対策」について解説します。
「実家と預金だけ」のはずが…20年越しの相続手続きで発覚した事実
「親父の遺産は、地方の実家と預金だけだと思っていたんです。まさか、20年越しにこんな大金が出てくるなんて……」
東京都に住んでいる二男のAさん(70歳・男性)の父親・Bさんは、20年前に他界しました。Bさんが遺した資産は、地方にある時価1,000万円相当の自宅(土地建物)と、Aさんが把握していた銀行の普通預金約300万円のみ。
「父の遺産は実家と数百万円の預金だけ」と信じて疑わなかったAさん。
しかし、20年越しに手続きを進めたところ、思いもよらない多額の預貯金が発見されることになります。Bさんの死後、実家には長男のCさんが一人で住んでいましたが、昨年72歳で他界しました。
この20年間、登記や預金の解約が放置されていたのには理由がありました。当時は相続登記が義務化されておらず、自宅に住み続けるCさんに売却の予定もなかったこと、さらに納税もCさんが行っていたため、特に困ることがなかったのです。
また、Bさんの以前に母も他界しており、残された300万円の預金を解約してわける必要性も感じていなかったことから、兄弟間で遺産分割協議を行うこともなく、トラブルのないまま歳月が過ぎていきました。
次々と見つかる隠し口座…最終的に発覚した〈まさかの預金額〉
ところが、Cさんの他界を機に、実家の整理が必要となったAさんは、2つの手続きを進めることになりました。
一つは、20年間未完了のまま放置されていたBさん名義の実家の相続登記(名義変更)です。そしてもう一つが、Aさんが唯一把握していたBさん名義の銀行の普通預金の解約でした。
Bさん名義の自宅の相続登記と並行して、銀行の預金解約手続きを進めたところ、驚くべき事実が判明します。Aさんが把握していた普通預金のほかに、同銀行に1,500万円もの定期預金が残されていたのです。
定期預金の残高証明書によって多額の資産を確認したAさんは、「他にも未把握の資産があるのではないか」と推測し、近隣の金融機関に対してもBさん名義の口座有無を照会しました。
その結果、複数の銀行から合計1,200万円の預金が存在していることが明らかになりました。当初、300万円程度と考えていた預貯金は、最終的に合計で3,000万円にものぼることが判明したのです。
「税務調査が入るんじゃないか…?」総額3,000万円の発覚でよぎった恐怖
長男・Cさんの一人娘であるDさんは相続を放棄していました。そのため、この3,000万円は二男のAさんがすべて相続することとなりました。
しかし、Aさんは財産が手に入る喜びよりも、「多額の相続税がかかるのではないか」という恐怖が勝りました。
「20年も放置していたんだから、延滞税もとんでもない額になる。税務調査も入るんじゃないか……?」
焦燥感に駆られながらも、税制などを調べるAさん。すると、思いもよらない事実が判明します。
実は、Bさんの相続発生は平成27年の相続税法改正前であったため、当時の基礎控除額の範囲内に収まり、見つかった遺産に相続税がかかることはありませんでした。さらに、相続税の課税には最長7年の時効(除斥期間)があり、20年が経過した今、税務署から調査が入ることもなかったのです。
Aさんは安堵しつつも、「見知らぬ口座に大金を放置するのではなく、生前にしっかりと財産を整理して教えてほしかった」と、亡き父に対して少しだけ愚痴をこぼしました。
【司法書士が解説】親がすべき「財産目録」の作成、子がすべき「徹底した照会・調査」
相続税がかからないからといって、相続手続きを「放置してよい」わけではありません。大金を20年も眠らせる機会損失、相続人が増えることによるトラブル、現在の税法改正に伴う罰則リスクなどを防ぐためにも、確実な相続対策が求められます。
遺産整理手続きを進めるなかで、今回の事例のように相続人が把握していない預金などの金融資産が判明するケースは珍しくありません。
預金保険機構の統計によれば、休眠預貯金の額は日本全体で一年間に約1,300億円発生するといわれています。その要因は、「相続人が把握できていない被相続人名義の預貯金が相当数あるから」と考えられます。
こうした事態を防ぐためには、予防策と事後の対応策が必要です。
生前の予防策:親族が把握できる「財産目録」の作成
予防策として重要なのが「財産目録の作成」です。自身が元気なうちに、自身の相続準備のためにエンディングノートなどを活用し、万が一のときに親族が把握できるように財産目録を作成しておくべきです。
金融資産については、相続人のために資産を蓄えておくだけでは不十分であり、金融商品の種類や金融機関名などを相続人が把握できるように記録しておく必要があります。
事後の対応策:徹底した「金融機関の調査・照会」
相続人側における対応策としては、「徹底した調査」が求められます。相続手続きの際には、被相続人の預貯金などの金融資産の有無を詳しく調査することが望ましいです。
手間はかかりますが、念のために可能性のある金融機関には預金照会をしておくことが必要です。場合によっては、銀行だけでなく生命保険会社や証券会社などにも、保険や有価証券の有無の照会をする方法も検討すべきでしょう。
新井 健二
新井司法書士事務所
司法書士/ファイナンシャル・プランナー(CFP®)

