【歴代最強の“影の総理”】政治のプロが選ぶ「自民党幹事長ランキング」1位は佐藤内閣で2回4年務めた田中角栄氏、2位は歴代最長5年務めた二階俊博氏 野中広務氏や小沢一郎氏もランクイン
自民党における総裁に次ぐナンバー2にあたる「幹事長」は、時に"影の総理"と呼ばれる。高市政権は9月に内閣改造・党役員人事に踏み切るとされるが、幹事長ポストの人選は最も注目されるポイントのひとつとなっている。党務を仕切り、政策調整や党内人事、資金配分から国会運営、選挙の指揮まで大きな権限を握る幹事長には、どのような能力が求められるのか。そして結党70年を超える自民党の歴史のなかでそれを最も体現した政治家は誰だったのか。本誌・週刊ポストは政治記者や政界OB、学者、官僚OBら29人に、幹事長に求められる能力と「歴代最強の自民党幹事長」は誰かについてのアンケート調査を実施し、「歴代最強の幹事長ランキング」を作成した。そこから見えてきたものとは--。【前後編の後編】
【表】政治記者が選ぶ「歴代最強の幹事長ランキング」TOP10
【※別掲表の右欄は投票した識者の寸評の一部。アンケートは5位まで選ぶ形式で、1位5点、2位4点、3位3点、4位2点、5位1点として集計した(敬称略)
識者は青山和弘氏、安積明子氏、天木直人氏、有馬晴海氏、伊藤惇夫氏、岩井奉信氏、岩田明子氏、岩田温氏、潮匡人氏、大谷昭宏氏、木下厚氏、倉山満氏、小林吉弥氏、今野忍氏、佐藤千矢子氏、塩田潮氏、篠原常一郎氏、鈴木哲夫氏、田原総一朗氏、田村重信氏、寺脇研氏、野上忠興氏、長谷川幸洋氏、藤本順一氏、古谷経衡氏、的場順三氏、宮崎謙介氏、宮崎信行氏、山口敏夫氏の29人(五十音順)。同点の政治家は五十音順で記載した。】
泥をかぶりながら佐藤長期政権を支えた能力
政治のプロたちがそれぞれの視点から評価した最強の幹事長で圧倒的1位だったのが田中角栄氏だ。佐藤内閣で2回、のべ4年も幹事長を務めた。
「佐藤内閣の与野党対決の政治状況の中で、日韓基本条約や大学立法による大学紛争の解決など困難な法案をことごとく成立させ、泥をかぶりながら佐藤長期政権を支えた能力は頭抜けていた」(政治評論家・小林吉弥氏)
「特定の政策分野に詳しい族議員を育て、自民党政務調査会の各部会で政策づくりや法案審査を行なう政策決定プロセスをつくって政調を機能させるようにした。当選回数順にポストを配分する現在の自民党の組織運営のシステムは田中が幹事長時代に作ったもの」(岩井奉信・日本大学名誉教授)
2位は安倍内閣で歴代最長の5年にわたって幹事長を務めた二階俊博氏。
「面倒見が良くて泥をかぶれる」(ジャーナリスト・田原総一朗氏)
「剛腕と懐柔を併せ持つのが名幹事長。安倍政権は政高党低と言われたが、実は二階幹事長がブレーキ役や公明との連携などに動いていたからより安定した」(ジャーナリスト・鈴木哲夫氏)
3位となったのは野中広務氏だ。森内閣の幹事長として自公連立をスタートさせ、00年の総選挙では自民党の世代交代のため、衆院比例代表候補の73歳定年制を導入した。
「加藤の乱【※注】の鎮圧で見せた気迫と調整。正面から押さえ、同時にひとりひとりを裏から切り崩した」(元朝日新聞政治部記者・今野忍氏)
【※注/2000年11月、加藤紘一・元幹事長らが当時の森喜朗内閣の打倒を目指して野党提出の内閣不信任案への賛成を表明するなど倒閣運動を起こしたが、野中広務氏らが造反議員を切り崩し、不信任案は否決された】
4位の小沢一郎氏は海部内閣の幹事長。「剛腕」と呼ばれ、海部俊樹・首相の退陣表明後、次期総裁に名乗り出た宮沢喜一氏、渡辺美智雄氏、三塚博氏という3人の先輩を呼びつけ、「自ら面接するほどの力を見せた」(元文科官僚の寺脇研氏)
海部政権時代は小沢氏の権力があまりに強かったため、総理の座を脅かしたとされる。
そして5位の金丸信氏は中曽根内閣を幹事長として支えた実力者だ。
「金丸幹事長は自民党の田中支配を終わらせ、初の衆参同日選を指揮して大勝利を実現。当時の中曽根首相は党務を完全に金丸氏にお任せという対応で、名実ともに党内最大の実力者として腕を振るった」(ノンフィクション作家・塩田潮氏)
幹事長が選ばれる3つのパターン
こう見ると、過去の自民党人事では総理・総裁が幹事長を選ぶ場合に3つのパターンがある。
まず総裁選で支持してくれた派閥の領袖や幹部の起用で党内基盤を固める論功行賞型だ。森内閣の野中幹事長や現在の鈴木俊一・幹事長がそうだ。
次に挙党態勢を組むためにあえて総裁選で争ったライバルを幹事長に起用するパターン。
「安倍元首相は総裁に返り咲くと石破茂氏を幹事長に起用した。総理・総裁にはなったものの党内基盤が定まっていない時だったため、手元に置いて(石破氏が)党内勢力を増やそうとする動きを封じた」(元産経新聞政治部長・石橋文登氏)
だが、その人選は逆にライバルに力をつけさせるリスクも大きい。
そのため、党内基盤が弱い総理・総裁は「党内調整力」に長けた長老を起用した。菅内閣の二階幹事長や石破内閣の森山幹事長のパターンだ。
例外的だが、ワンマン総理が意向通りに動く者を抜擢したケースもある。小泉内閣の武部勤・幹事長がその典型だろう。
では、高市政権にはどんな幹事長が必要なのか。
政治評論家の田村重信氏は「今回の改造人事では、食料品の消費税減税という高市首相の政策を実現し、国民の関心が高い経済・物価対策を実現する能力がある人が最適任になる」と指摘するが、官僚OBの的場順三・元官房副長官は、「適材がいない」とこう語る。
「個々の総理大臣に相応しい幹事長は、総理自身に欠けている部分を補うことのできる人物。しかし、高市さんは欠けている部分が多いが、他人の言うことを聞かない。さらに誰かに任せずに何でも自分でやろうとする。そうなると支えようにも支えられない」
高市内閣では「最強の幹事長」の登場は難しいのか。総裁選の勝利に貢献した麻生派の鈴木幹事長の留任や"腹心のイエスマン"とされる萩生田光一・幹事長代行の昇格が取り沙汰されるなか、決断の時が迫っている。
(前編から読む)
※週刊ポスト2026年9月11日号
