〈麻布十番まつりで76人体調不良〉なぜ夏の屋外で「冷やしラーメン」は少ないのか?  “冷たい一杯”に潜む意外にシビアな問題

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東京・港区で8月22、23日に開かれた「麻布十番納涼まつり」で、飲食した来場者から体調不良を訴える声が相次いでいる。港区は8月28日、みなと保健所に76人から体調不良の連絡が寄せられていると発表した。保健所は出店者への立ち入り調査を行い、原因の特定を進めている。

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「冷たいから安心」ではない

体調を崩した人の多くが「冷やしカニラーメン」を食べていたと報じられている。ただ、8月30日時点で港区は、原因となった食品や細菌、ウイルスなどを特定したとは発表していない。

いまの段階では、あくまで食中毒が疑われる事案として調査が続いている。それでも今回の一件は、ひとつの疑問を浮かび上がらせた。

なぜ、真夏の屋外イベントでは「冷やしラーメン」をあまり見かけないのか。

大規模なラーメンイベントを見ても、冷やしメニューは意外なほど少ない。「東京ラーメンフェスタ2025」では、10月23日から11月3日まで3幕に分けて全国のラーメンが並んだが、公式サイトに掲載された出店メニューを見る限り、「冷やしラーメン」を前面に出した一杯は確認できない。

大阪・万博記念公園で開かれる「ラーメンEXPO」も冬場の開催だ。

もちろん、単純に季節の問題は大きい。肌寒くなる時期に、客が求めるのは湯気の立つ一杯だろう。ただ、それだけではない。冷やし麺には、温かいラーメンとは違った難しさがある。

厚生労働省は、食中毒菌について「20~50℃の温度帯でよく増えます」と注意を呼びかけている。調理済みの食品についても、「速やかに10℃以下まで冷やすか、65℃以上で保管」することを求めている。温かい料理なら、しっかり火を通し、そのまま高い温度を保って提供することができる。

ところが冷やしラーメンでは、そうはいかない。茹でた麺、火を入れたスープ、加熱した具材。それらを今度は「食べやすい冷たさ」まで下げる必要がある。

しかも、ただ冷ませばいいわけではない。ゆっくり冷めていく間に、食品が菌の増えやすい温度帯に長くとどまれば、そのぶんリスクは高まる。

厚労省の「大量調理施設を対象とする衛生管理マニュアル」では、加熱した食品を冷却する際、「30分以内に中心温度を20℃付近」、または「60分以内に中心温度を10℃付近」まで下げるよう工夫することが示されている。

店の厨房なら大型冷蔵庫や急速冷却機を使うこともできる。だが、炎天下のイベント会場で何百杯も注文が飛び交うなか、大量のスープや具材を一気に冷やし、その温度を保ったまま提供し続けるのは簡単ではない。

冷やしラーメンのように、加熱した食材を冷却して提供する料理では、加熱だけでなく、その後の「急速な冷却」と「低温での保持」まで含めた温度管理が重要になる。

東京都は「臨時出店」で麺の“水さらし”を認めていない

さらに東京都が示すイベント出店時のルールを見ると、冷やし麺の扱いにくさがよりはっきりする。

東京都の「行事における臨時出店の手引き」では、うどん、そば、ラーメンなどの麺類について、麺は当日に茹で、当日調製した汁をかけることとしたうえで、「水さらしは行わないこと」と明記している。

ただし、臨時営業には複数の形態があり、今回の出店がこの「臨時出店」の基準に該当していたかや、実際の調理工程については、港区から明らかにされていない。

冷やしラーメンや冷やし中華では、茹でた麺を冷水で締める工程は珍しくない。むしろ、食感を整えるうえではおなじみの作業だ。しかし、屋外の仮設店舗となれば話は変わる。

通常の飲食店と同じような給排水設備や洗浄環境を整えられるとは限らない。限られたスペースで大量の水を使い、衛生的な状態を保ちながら麺を冷やすこと自体が難しくなる。

同じ手引きでは、具材についても、事前に許可施設など清潔な場所で仕込むことや、生卵を使用しないことを求めている。

盛り付けについても、「箸、トング等を使用し、素手で行わないこと」とされている。ここで厄介なのが、冷たい料理には“最後の加熱”がないことだ。温かい料理なら、提供直前にもう一度火を入れるという選択肢もある。

しかし、冷やし麺ではそれができない。冷却したあとに手指や器具から菌が付着すれば、そのまま客の口に入る可能性がある。だからこそ、冷やしたあとの扱いがより重要になる。

東京都の保健所も、「10℃から60℃」を食中毒菌が増殖しやすい「危険温度帯」とし、残った食品は「きれいな容器に入れ、10℃以下で保存」するよう注意を呼びかけている。

もちろん、「冷たい料理だから危険」という話ではない。十分に加熱し、素早く冷やし、低温で保存する。さらに手洗いや器具の洗浄、消毒を徹底する。そうした基本を守れば、冷たい料理を安全に提供することはできる。

ただし、真夏の屋外となると条件は一気に厳しくなる。気温は30℃を超え、テントの中はさらに暑くなることもある。そこへ客が押し寄せ、注文が重なり、スタッフは短時間で何百食もさばく。冷蔵庫の開け閉めも増え、盛り付けの回数も増える。

麻布十番納涼まつり」で実際に何が起きたのかは、保健所による原因究明を待つ必要があるが、全国各地で夏祭りや音楽フェス、グルメイベントが開かれるいま、真夏の屋外で「冷たい一杯」を安全に出すことが、見た目以上に難しい仕事であることは確かだ。

涼しげな一杯の裏側で、どれだけ冷やし、どれだけ温度を保ち、どれだけ清潔に扱えるのか。

夏の屋台メシでは、その“見えない管理”こそが命綱になる。

文/集英社オンライン編集部