大手不動産会社まで短期転売に参入――中古マンションで広がる「住まない買い手」、登記簿で見えた異変

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築浅で立地も良い中古マンションを法人が買い取り、わずか数カ月で再び売却する。登記簿をさかのぼると、こうした取引には大手不動産会社や異業種企業の姿もあった。中古市場で進む短期転売の実態を追った。

【画像】千代田区Bマンションの12年間の所有者の変遷

『マンション高騰の真実-都市部の「非居住化」が街を壊す』より一部抜粋・再構成してお届けする。

中古マンションでも旺盛な短期転売

中古市場でも、そこに住みたいと家を探している実需の個人が主役とは言いがたい現実が見えてきました。

自著『マンション高騰の真実』では、2025年築の新築マンションとそのすぐ近くに約10年前に建てられたマンションの全住戸の登記簿情報を調査しました。対象に選んだのは、千代田区と大阪都心(西区)で類似した良好な住環境を持ち、子育て層に人気の小学校区にある大手デベロッパーが手がけた駅近のブランドマンションです。

千代田区Bマンション(2014年竣工)と大阪市西区Dマンション(2018年竣工)について、新築時から2025年12月までの所有者の変遷を左側から時系列的にまとめたのが、「千代田区Bマンションの12年間の所有者の変遷」です。これを見ると、左側にいくにつれて、明らかに白色(自己居住者)がグレー(非居住の個人)や黒(法人)に置き換わっていることが一目瞭然です。

つまり、いずれも中古としての売買でも、物件の多くが住みたい人の手に渡っていなかったのです。

千代田区Bマンションでは、約12年間で30戸の売買がありました。ところが、そのうち購入者本人が住むために取得したとみられる住戸は11戸にとどまります。言い換えれば、売買のあった住戸の約3分の2は、住まない買い手(個人・法人)が買っていたということになります。

次に、中古で取得した法人の実態を確認すると、約36%は自社ウェブサイトが見当たらず、ネットで調べても情報が出てこない法人でした。自著でも述べたように、新築時のAマンションで見られた「顔の見えない買い手」は、中古市場にも現れていました。

この千代田区Bマンションで特筆すべきは、ここ5年間で短期転売が顕著に増えている点です。売買があった住戸の4割で法人による短期転売が行われていました。

さらに驚いたのは、誰もが知るような大手の不動産会社(マンションデベロッパーや仲介・販売会社)までもが、この中古マンションの短期転売に関与しているという事実です。しかも同一の大手不動産会社(このマンションの分譲会社ではない)が、同じマンション内で複数の住戸を買い取り、数か月で転売していました。

住宅政策の観点からみると、不動産会社等が中古住宅を買い取ってリノベーションを施したうえで再販する事業(買取再販事業という)は、築年数が古く、そのままでは売却しにくい物件を流通に乗せるという点では有益だと考えられています。

しかし、千代田区のBマンションのように、立地が良く、かつ築12年程度の物件であれば、買取再販業者を介さずとも売買が十分に成立するはずです。にもかかわらずこうした短期転売を目的とした事業者が間に入りこんでくることで、住宅価格をさらに押し上げている可能性があります。

こうした需要の高い物件での買取再販事業という名の短期転売は、率直に言えば、もはや宅地建物取引業というよりも、金融商品取引業として見なすべきではないかと思うのは筆者だけではないはずです。

もう一つ、見過ごせない発見がありました。愛知県に拠点を置くロボット製造会社がこのマンション内で4戸もの住戸を順次、中古で買取し、短期で転売していた点です(図表2-1の住戸番号B05・B07・B21・B26)。不動産業以外の法人までもが、資産保有ではなくキャピタルゲイン(値上がり益)狙いで中古マンションを取得・転売していたのです。

なお、このロボット製造会社が転売した買い手のなかには、台湾にある機械工業の法人が含まれており、驚くことに、この台湾の会社はすぐ近隣の新築の千代田区Aマンションでも1戸購入していました。

相続が発生しても、市場に流通しない

この千代田区Bマンションは、新築時の価格帯が7480万円から1億8190万円でしたが、12年後の今は約2.3倍※1もの価格水準まで上昇しています。中古マンションとしての相場価格を見ると、72.08㎡の住戸(7階)で坪単価899万円とされており、すぐ近隣の2025年築新築Aマンションの坪単価907万円※1とほぼ変わらない水準にまで達しています。

この1棟だけで都心の中古市場全体の状況を断定することはできませんが、中古マンションの価格もかなり上昇しており、自著『マンション高騰の真実』で明らかにしたとおり、短期転売率と住宅価格上昇率には統計的に正の相関があることをふまえると、中古マンションの市場でも「住む人」ではなく転売・資産保有・資産退避といった目的の「住まない買い手」へと主役が変わり、短期転売が繰り返されることで価格が上昇している可能性が高いと言えます。

売買だけでなく、相続が発生した住戸を見てみると、千代田区Bマンションでは、約12年間で相続が8戸発生していました。ところが、相続後の所有権移転の状況を見ると、売却されたのは1戸もなく、相続人の住所がこのマンションとなっているのは3戸だけで、残る5戸は他の場所になっていました。

ここで重要なのは、「相続が増えれば中古流通も増えるはずだ」という見方が、都心や利便性の高いエリアのマンションでは成り立たない可能性があることです。戸建ての空き家問題では、相続後に市場へ出ることもなく、空き家として滞留する現象がよく知られています。マンションでも、相続が発生した後も空室のまま長期間置いておく、あるいは賃貸にまわすケースが多く、中古市場に出てくる住戸数は思ったほど増えない可能性があります。

また、このマンションでは、台湾に住所を置く所有者の住戸でも相続が発生していました。また、所有権が移転した相続人の住所も台湾でした。今後、外国居住者による所有が増えれば、「所有は続くが空室状態が続く」「相続発生後に連絡がとれなくなる」といった住戸が増えることも考えられます。これは管理組合の運営や連絡体制、災害時対応に影響しかねません。

この現象は東京だけではありませんでした。

大阪市西区Dマンションでは、約8年間に8戸の中古売買がありましたが、そのすべてが非居住の個人または法人への売却でした。もともと自己居住用として購入された住戸も含め、中古として売り出された物件のうち、自らが住むことを目的とした買い手に渡ったものは見事に一戸もなかったのです。また、このマンションも台湾に住所を置く非居住の個人への売却が見られました。

一方で、大阪市西区Dマンションでは、千代田区Bマンションほど法人の短期転売が前面に出ているわけではありませんでした。それでも、新築時4290万円~6140万円だった住戸が、中古相場では約1.5倍※1、坪単価330万円※2まで上昇しています。

ここでも、中古市場は「住む人」の購入や住み替えのための市場から、「住まない買い手」が価格形成に大きな影響を及ぼす市場へと変わっている可能性が高いのです。

※1出典:「住まいサーフィン」ウェブサイト(2025年12月時点)
※2出典:「マンションレビュー」ウェブサイト(2025年12月時点)

墨田区・大田区・板橋区の中古マンションでは…

「それは都心の一等地だけの話ではないか」。

そう考える読者は多いでしょう。そこで、都心6区以外の区でも追加調査を行いました。対象は、国土交通省の調査で短期転売率が継続的に高い墨田区・大田区・板橋区の中古マンションです。いずれも駅から徒歩10分以内で子育て層にも人気の小学校区内に位置する、大手のマンションデベロッパーが手がけた中層のブランドマンションです。新築当初は、購入者の大半が自己居住目的の個人であり、竣工から10年前後が経過した物件です。

登記簿調査の結果、結論から言うと、いずれにおいても非居住の個人・法人による所有化がじわりと進んでいました。

本記事では、板橋区Gマンションを見てみましょう。「板橋区Gマンションの14年間の所有者の変遷」を見ると、このマンションでも大田区Fマンションでは、売買実績のあった住戸のうち、4割弱(11戸中4戸)が非居住の個人の所有になっており、法人への売買はありませんでした。
 

板橋区Gマンションでは、売買実績のあった住戸のうち、6割が非居住の個人・法人の所有になっていました。

新築時に自己居住者が所有していた29住戸を見ると、売却後にも自らが居住する人が所有している住戸は約4割(12戸)で、残りの約6割は、非居住の個人や法人の所有へと変わっていました。また、法人による買取再販があったのは4戸、そのうち3戸は約1年以下の短期転売で、いずれも2019年以降でした。

なお、板橋区Gマンションでは約1.6倍※3にまで上昇しています。千代田区ほどの上昇幅ではないものの、都心ではないエリアでも、中古マンションが「住みたい人」ではなく「住まない買い手」に渡り続けながら、価格も上昇するという事態が起きつつあることを示しています。

ただし、非居住所有の進行状況や短期転売の動きは、立地やマンションのタイプによって異なるため、今後の住宅政策を検討する上でも、さまざまなエリアでの実態調査を継続していく必要があります。

※3出典:「イエシル」ウェブサイト(2026年1月時点)より作成

金融庁が地方銀行に対して異例の警告

筆者だけでなく、自治体や国の住宅政策を担う方々も、新築から年月が経つ中で一定割合の住戸が中古として売り出され、大半は住みたい世帯に売買されていく――それがあたり前の中古マンション市場の姿だと考えられていたかと思います。

もちろん一部の住戸では非居住の個人や法人に渡ることもあり、需要が多いエリアでは価格が上がるものの、立地や利便性、建物の状態に応じた適正な価格が形成されていくという認識だったと思います。

しかし、自著『マンション高騰の真実』で見てきた実態は、その感覚を大きく超えるものでした。近年のマンションへの投資熱の高まりを背景にした力学が大きく作用しているものと考えられます。

実際、日本銀行の統計によると、2025年6月時点の不動産業向け融資残高は113兆8000億円と過去最高を更新しています。2026年2月、金融庁が不動産融資の拡大に懸念を示し、地方銀行に対して異例の警告を発したほどです。このように、銀行から不動産業者への融資も拡大し続けています。

海外の多くの大都市でも、住宅税制の見直しや空室税の導入など、「住む人」が主役となる住宅市場の回復に向けた政策が相次いで導入されています。

日本でも本格的に議論を始めるべき時期にきているのではないでしょうか。

文/野澤千絵

『マンション高騰の真実-都市部の「非居住化」が街を壊す』(中央公論新社)

野澤千絵

2026年8月7日

1056円(税込)

216ページ

ISBN: 978-4121508706

★マンションを買っているのは誰だ?
徹底調査で実態を解明。どうりで家が買えないはずだ!
都心、駅近に住みたい人、必読です。

誰がどんな目的で、好立地の高額マンションを買っているのか。
著者は登記簿等を徹底解析し、国内外の富裕層や法人が、新築のみならず中古まで買い漁っている実態を明らかにした。
多くは転売・資産保有等の目的で抱え込まれ、住まないうえに売却時も住みたい人には売られない。
どうりで買えないはずだ。

非居住化問題は、この先、マンション管理や都市政策に多大な影響を及ぼしかねない。
住宅を住みたい人の手に取り戻せ。