トイレなどの住宅設備大手TOTOが、半導体銘柄として注目を集めている。2027年3月期第1四半期、半導体製造装置向けのセラミック事業は営業利益65億円を稼ぎ、全社営業利益81億円の約8割を占めた。だが、この事業は約30年間、赤字か収益がほぼゼロの状態にあった。なぜTOTOは事業を手放さず、AI時代の稼ぎ頭に育てられたのか。海外メディアが報じる「便器を焼く技術」の大逆転とは――。
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2024年2月15日、福岡県北九州市にある日本のトイレメーカー「TOTO」の博物館に展示された様々なトイレの様子 - 写真=AFP/時事通信フォト

■売上は住設の7分の1、利益は全社の8割

住宅設備大手のTOTO。利益の稼ぎ手はトイレなどの住設事業から、半導体関連の部材へと移った。

7月31日に発表された2027年3月期第1四半期決算説明資料からは、その入れ替わりが明確に見て取れる。主要事業である日本住設事業は、売上高1056億円に対して営業利益6億円、つまり利益率は0.6%。売上高305億円の新築住宅向けは、前年同期に続き6億円の赤字だった。銅や樹脂の高騰に中東情勢の影響も加わり、外部調達コストが膨らんだ。決算説明資料は中東情勢による全社営業利益への影響を約30億円と別掲している。

TOTOは資料で、コスト増を企業努力だけでは吸収しきれないと判断したとして、値上げの実施を明らかにした。2026年12月1日の受注分から、衛生陶器は平均13%、ウォシュレットは10%上がる。

こうした苦境と対照的なのが、新領域事業だ。半導体製造装置向けのセラミック部材を手がける事業で、海外メディアは「先端セラミックス部門」と呼ぶ。売上高160億円に対して営業利益65億円、利益率は実に40.6%に達した。

売上高で見れば日本住設事業の7分の1ほどだが、全社営業利益81億円の実に約8割を、このセラミック事業が稼いでいる。

出所=TOTO「2027年3月期第1四半期決算説明資料」

■AIチップ製造に欠かせない「静電チャック」

新領域と呼ばれながらも、同事業はAIブームよりはるかに前から準備されていた。始まりは40年前。うち30年は赤字か収益がほぼゼロの状態が続いたが、TOTOはそれでも事業を手放さなかった。

ここへきて開花した事業の強みは、どこにあるのか。

TOTOに高収益をもたらしているのは、半導体製造装置に組み込まれる静電チャック(e-chuck)というセラミックス部材だ。

半導体の材料であるケイ素を高純度に精製して、単結晶の塊(インゴット)に育て、さらに薄い円盤状に切り出せば、シリコンウエハーとなる。その表面に微細な回路を何層も刻んで切り分けたものが、AIサーバーにも利用されるチップだ。

米PC専門サイトのトムズ・ハードウェアは、静電チャックについて、プラズマエッチングやCVD(化学気相成長)、EUV(極端紫外線)露光など、ウエハーの精密な位置決めと汚染の少なさが求められる数多くの工程で欠かせない部材になった、と位置づける。なかでもTOTOが主戦場としているのが、ガスやプラズマでウエハーを削って回路を刻むエッチング工程だ。

これらの工程は、減圧した真空チャンバーの中で進む。この中でウエハーを台に載せて固定する際、吸盤の要領で吸い付ける真空吸着が使えない。吸盤の内外どちらも真空となり、圧力差が働かないためだ。

かといって機械的に押さえる方式では、力が一部に集中して均一な保持力が得られず、ウエハーに応力や歪みが生じる。残る選択肢が、静電気の力で裏面全体を吸着する方式だった。

■「便器を焼く技術」が半導体で生きた

替えが利かないぶん、求められる水準は高い。

ウエハーは静電チャックに密着したまま、プラズマから絶えず熱を受ける。チャック側の熱伝導率、つまり熱の伝わりやすさがわずかにばらつくだけでウエハーは変形し、歩留まり(良品の割合)が落ちる、とブルームバーグは指摘する。

TOTOの決算説明資料には、衛生陶器の成形・焼成技術を新領域事業に転用していると明記されている。トムズ・ハードウェアはさらに詳しく、割れにくく強靭で、かつ全面で特性がそろったセラミックスを焼き固める難しい壁を、TOTOは長年の便器製造で培った成形・焼成の技術を応用して乗り越えた、と伝えている。

なかでも需要を牽引するのが、NAND型フラッシュメモリー向け装置だと、台湾ハイテク市場調査会社のトレンドフォースは説明する。

装置により製造されるフラッシュメモリー製品は、スマートフォンやデータセンターのSSDに使われる、電源を切っても記憶が消えないメモリーである。AIの利用拡大に伴い、まさに需要が急上昇している。

こうした水準を満たせるメーカーは限られる。トムズ・ハードウェアによれば、TOTOは1980年代から静電チャックを手がけており、現代では半導体製造に欠かせない重要な部材となった。競争力を高めるための投資を同社は続けており、2020年には大分県に約118億円を投じてセラミック生産棟を建設。2020年4月から2024年4月にかけて、セラミック生産の人員を約2割増やしている。

もっとも、市場を独占しているわけではない。トムズ・ハードウェアは、半導体製造装置メーカー各社およびアプライドマテリアルズと太いパイプを持つ新光電気工業を競合に挙げる。

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※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Zoey106

■30年稼げなかった事業を変えた2つの転機

30年間、TOTOの新領域事業はほとんど利益を生まなかった。

1984年に発足したのち、静電チャックの量産開始は1988年であったと米テクノロジーニュースサイトのテック・タイムズは伝える。以後、決算は赤字かほぼ収益ゼロの年が続き、住設事業など他分野の利益で投資を賄い続けた。

転機は2つ。ブルームバーグによると、2020年の生産ライン一部自動化により収益性と市況悪化局面での耐性が改善し、利益の出る体質に変わった。

さらに、AI投資に沸くNANDメーカーの増産競争によって需要が伸びた。結果、セラミック事業の営業利益率は、2021年3月期ごろの9%弱から、2026年3月期には40%超へと跳ね上がる見通しとなった、とトレンドフォースは伝える。いずれも通期ベースの数字だ。

冒頭で触れた2027年3月期第1四半期の数字でも40.6%と、高水準を保っている。前期のセラミック事業の営業利益は289億円と、グループ営業利益538億円の5割超を占めた。

ところが、この収益構造の変化は株価に十分織り込まれていなかった。

■英ファンドは株価に55%超の上昇余地と試算

そうした中、今年1月21日にゴールドマン・サックス証券がTOTOの投資判断を「中立」から「買い」に引き上げた。NAND型半導体の製造に使われる静電チャック事業で大幅な利益成長が見込めるとの判断だ。翌22日の株価は一時11%高となり、2021年2月以来の日中上昇率を記録したと、ブルームバーグは伝えた。

これに続いて2月、英投資ファンドのパリサー・キャピタルが動いた。TOTO株の上位20位の株主として企業価値向上策を公表し、TOTOは伝統的な国内衛生陶器の雄から半導体向け先端セラミックスの有力企業へ「静かに進化した」のに、その価値が評価されていないと訴えた。

同ファンドは事業自体を高く評価しており、TOTOを「最も過小評価され見過ごされてきたAIメモリー受益銘柄」と呼ぶ。セラミック事業は競合に対して5年分の技術的優位を持ち、今後2年の売上成長率は30%超に達するとも見込む。

一方で、会社の姿勢には批判の矛先を向けた。割安に放置されてきたのは会社の開示が不十分だからだ、というのが主な主張だ。そのうえで取締役会に、半導体関連事業への投資拡大と、世に広く知られていないこの事業の広報の強化を求めた。

開示と資本配分を改めれば、株価にはなお55%超の上昇余地があると、パリサーは見込む。TOTO広報は一連のやり取りに関し、ブルームバーグへのコメントを控えた。

米テクノロジー情報サイトのテックスポットは2026年2月時点で株価が1年前を60%超上回ったと報じ、その後も5月と6月の決算・投資計画発表を受けて上昇が続いた。

東芝製のNAND型フラッシュメモリ(メモリ事業は現在キオクシアが継承)(写真=Raimond Spekking/CC-BY-SA-4.0/Wikimedia Commons)

■「3D NAND」の多層化がTOTOの追い風に

AI需要が続く限り、TOTOの技術への需要も続く。

メモリー技術をめぐり、平面方向の微細化が限界に近づいたことで、考案されたのが3D NANDだ。メモリセルを垂直に重ね、限られた領域に容量を確保する。

積層数はすでに200を超え、キオクシアは332層品の量産を立ち上げているほか、サムスン電子は400層品のラインを開発中だ。主要各社は2030年末までに1000層を目指す。

層が増えるほど、メモリセルを縦に貫く「チャネルホール」の穴は、幅に対して極端に深くなる。いまや深さは幅の50倍を超え、深さ10マイクロメートルに達する。穴の形状が狙いから原子レベルでずれるだけでチップの電気特性は損なわれ、歩留まりに響く。

この壁を越える手段が、氷点下をはるかに下回る温度で削る極低温エッチングだと、米半導体装置メーカーのラムリサーチは説明する。低温にすることで従来は使えなかった反応の組み合わせが選べるようになり、穴の深さと形状の制御が大きく改善するという。

極低温のウエハーを保持する上で、静電チャックが欠かせない。プラズマにさらされて劣化する消耗品であり、定期交換が必須となる。その供給元の一社がまさにTOTOであり、両社は1990年からチャンバー内部材の共同開発を続けてきたと、テック・タイムズは伝える。

3D NANDの多層化が進むほど装置は増え、消耗品である静電チャックの交換需要も積み上がる。層数の競争が続く限り、TOTOの需要は先細りしない構造にある。

■AI供給網を支える「半導体生まれではない企業」

AIを実際に動かす材料や装置は、意外な企業が手掛けていることも多い。

市販の製品「味の素」70gボトル(写真=武蔵清亮/CC-BY-SA-4.0/Wikimedia Commons)

味の素は1970年代、アミノ酸に関するノウハウを応用し、絶縁性をもつエポキシ樹脂の研究を始めた。うま味調味料の製造に由来する副産物から生まれた塩素化パラフィンには、樹脂を軟らかくする働きがあり、そこからエポキシ樹脂関連製品の開発が広がった。

1999年に製品化した絶縁フィルムABF(味の素ビルドアップフィルム)は、半導体を載せる基板で回路の層を隔てる。世界シェアは95%超。ABFを中心とするファンクショナルマテリアルズ(電子材料等)の事業利益は546億円で、全社の事業利益1811億円の約3割を占めた(2026年3月期)と、トレンドフォースは報じている。

もとは印刷向けの写真製版機器メーカーだったSCREENホールディングスも、精密な図版を化学的に刻むエッチング技術を転じて、ウエハー洗浄装置の最大手となった。

レーザーテックの出自はやや異なる。光学計測技術を、回路の原版であるフォトマスクの欠陥検査へと広げてきたメーカーだ。いまはEUV(極端紫外線)露光用マスクの検査装置を最大の強みとする。

畑違いの技術を転用した会社もあれば、地味な計測技術を一点突破で磨き続けた会社もある。AIの供給網は、そうした半導体生まれではない企業に支えられている。そしてTOTOは、その一角で最大級の賭けに出ようとしている。

■半導体関連への投資比率を11%から5割超へ

前期の設備投資に占める半導体関連の割合は、わずか11%。それが今後数年で、5割を超える――。ブルームバーグのインタビューで、TOTOの林(はやし)良祐(りょうすけ)最高技術責任者(CTO)は、そう見通しを示した。

背景にあるのは、需要側の変化だ。林氏が注目するのは、小さなチップを組み合わせて性能を高めるチップレットの普及である。「樹脂と金属ではもう足りない」と語る林氏は、チップレットの普及が高性能エンジニアリングセラミックスなどの新たな需要を生むと見る。

TOTOは2026年4月、2028年度までにセラミック事業へ約300億円を投じる成長投資計画を公表した。福岡県豊前市の工場では、2025年12月に着工した焼成棟が2027年1月に完成する。これにより静電チャックの生産能力は現状比で2割超高まると、テック・タイムズは伝えている。神奈川県の茅ヶ崎工場には研究開発棟を新設する。2026年12月着工、2028年4月竣工予定だ。

7月31日発表の決算説明資料には、さらなる増産体制の構築と大規模投資を計画する旨も示されている。

■300億円投資で問われる継続的な収益力

静電チャックについて、データセンター需要増に伴う先端半導体市況は「引き続き好調」であると、TOTOの決算説明資料は記している。エアロゾルデポジション(AD)法で成膜したセラミックス膜を使うAD部材も、AI関連の需要が堅調に推移し、生産性の向上もあって増収となった。

だが、第1四半期のセラミック事業は計画未達に終わった。資料が挙げる理由は「サプライチェーン影響による出荷期ズレ」だ。急激な需要増に供給網が追いつかず、納入が第2四半期以降にずれ込んだ。

同社は、「一時的影響であり2Qで挽回予定」とする。需要調整局面で売上が急減した2023年度でも、営業利益率30%を確保した実績がある。ただ、為替の影響を除くと売上は前年比3%減、営業利益は12%減で、実質的には減収減益だ。

林氏は、「売上は確実に伸びる」と語るが、利益率の安定性までは明言していない。

それでも同社は、生産増強と次世代品の開発投資を計画どおり進める。設備が稼働すれば減価償却費が利益を押し下げる一方、NANDメモリーの市況は好不況を繰り返す。増産体制が整った頃に市況が悪化すれば、稼働率の落ちた設備と償却負担が残ると、テック・タイムズは警告する。

TOTOの清田(きよた)徳明(のりあき)元社長は、「多少の浮き沈みはあっても、半導体は間違いなく指数関数的に伸び続ける」と語ったと、トムズ・ハードウェアは伝える。

30年の赤字に耐えた事業は今後、継続的な収益力を問われるフェーズへと変化しそうだ。

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青葉 やまと(あおば・やまと)
フリーライター・翻訳者
1982年生まれ。関西学院大学を卒業後、都内IT企業でエンジニアとして活動。6年間の業界経験ののち、2010年から文筆業に転身。技術知識を生かした技術翻訳ほか、IT・国際情勢などニュース記事の執筆を手がける。ウェブサイト『ニューズウィーク日本版』などで執筆中。
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(フリーライター・翻訳者 青葉 やまと)