他人にケチャップをかける行為は「暴行罪」や「傷害罪」に該当する可能性がある(小日向 みう / PIXTA)※写真はイメージ

写真拡大

東京都江戸川区のスーパーマーケットでケチャップなど24点(約8000円)を万引きした後、葛飾区内の路上でそのケチャップを通行人の70代女性の顔などにかけたとして、15歳~17歳の少年4人が逮捕された事件が、8月24日に報道されました。

事件が起こったのは今年6月で、ケチャップをかけられた女性は数日間、目の痛みを訴えたとのことです。

同じ日に「ケチャップやマヨネーズをかけられた」との警察への通報が相次ぎ、10人程度の被害が確認されています。

SNSでは「24点を万引きするのも窃盗で犯罪だし、すれ違った70代のおばあちゃんを狙ってるのも悪質」「無差別暴行であり、通り魔、もはやテロと同じこと」「大人と同じ刑事罰を与えるべき。甘やかすと善良な一般市民が被害を受ける」などの声が上がっています。

今回のケースで、少年らはどのような法的責任を問われる可能性があるのでしょうか。刑事・民事の両面から解説します。(弁護士・阿部由羅)

ケチャップで目の痛みが生じたなら「傷害罪」の可能性も

本件において少年らは、「スーパーマーケットでの万引き」と「通行人にケチャップをかける」という2種類の行為をしています。それぞれ、どのような犯罪が成立するのでしょうか。

まず、スーパーマーケットでの万引きは「窃盗罪」に当たります。

窃盗罪とは、相手の意思に反して財物(=経済的に価値がある物)の占有を奪う行為について成立する犯罪です(刑法235条)。お金を払わずに店舗から商品を持ち去る万引きは、窃盗罪に当たる行為の典型例です。

法定刑は「10年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金」とされています。

また、路上において通行人に突然ケチャップをかける行為は「暴行罪」または「傷害罪」に当たります。

暴行罪は、他人に対して暴行(=不法な有形力の行使)をしたものの、被害者を傷害するに至らなかったときに成立する犯罪です(刑法208条)。法定刑は「2年以下の拘禁刑もしくは30万円以下の罰金または拘留もしくは科料」とされています。

傷害罪は、人の身体を傷害する行為について成立する犯罪です(刑法204条)。法定刑は「15年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金」であり、暴行罪よりもかなり重くなっています。

「傷害」とは、「人の生理的機能を害すること」をいいます。けがをさせた場合のほか、被害者がめまいや精神的不調を来した場合などにも、それが加害者の行為によって引き起こされた場合は傷害罪が成立する可能性があります。

冒頭で述べたように、本件では、ケチャップをかけられた女性は目の痛みを訴えたとのことです。目の痛みがケチャップをかけられたことによるものであれば、少年らは傷害罪の責任を問われる可能性もあると思われます。

なお、本件では、同じ少年らが10人程度の被害者に対してケチャップをかけたと見られています。この場合、被害者ごとに暴行罪または傷害罪が成立することになります。

複数の暴行罪・傷害罪は「併合罪」として処断され、一罪の場合よりもさらに重い刑罰が科されることもあり得ます。

少年らに刑事罰は科されるか?

少年ら4人はいずれも14歳以上であるため、法律上は刑事責任を問うことができます。

ただし、20歳未満の少年による比較的軽微な犯罪については、刑事罰を科すのではなく、家庭裁判所の審判を通じて保護処分を行うのが一般的となっています。

本件は殺人や強盗のような凶悪犯罪とは異なるため、少年審判によって審理される可能性が高いと考えられます。

少年審判にかけられた場合は、保護観察や少年院送致の要否が検討されることになるでしょう。

一般に、被害者が多数に及ぶことや愉快犯的な動機は、これらの保護処分の必要性を高める方向に働くといえます。

もっとも、本件において実際にどのような処分が適切かは、少年らの反省の程度や再犯のおそれなど、さまざまな事情を踏まえて判断されることになるでしょう。

被害者に対する損害賠償はどうなる?

少年らはスーパーマーケットから、合計約8000円相当の商品を盗んでいます。

通行人らにケチャップをかけるために使われたことから、盗まれた商品は返還されていないと考えられます。そのため、少年らは、少なくとも商品の価額相当額について、店舗に対する損害賠償責任を負うと考えられます。

さらに被害店舗においては、万引きへの対応に人手を割かなければならないなど、盗まれた商品以外の部分でも損害が発生している可能性があります。この場合、少年らは被害店舗に生じた損害を幅広く賠償しなければなりません。

そして、ケチャップをかけられた被害者にも、衣服が汚れてクリーニングをしなければならない、目にケチャップをかけて眼科で治療を受けた、などの損害が生じていると考えられます。これらの損害についても、少年らは損害賠償責任を負います。

特に被害者が目などにけがを負った場合は、数十万円以上の高額の損害賠償責任を負うことも十分考えられます。

なお、本件の少年らは15歳~17歳の未成年者ですが、民事上の責任能力のボーダーラインと考えられる10~12歳は超えています。

そのため、少年らは、被害店舗や被害者に対して自ら損害賠償責任を負う可能性が高いでしょう。

また、加害少年4人が共同してこれらの行為を行ったと認められる場合、全員が共同不法行為者として、被害店舗や被害者に対する損害賠償責任を負います。

この場合、少年らは被害店舗や被害者に対して連帯して損害賠償責任を負うことになります。

「連帯して」とは、被害店舗や被害者が、共同不法行為者のうち1人に対して、損害の全額を請求できるという意味です。

たとえば、4人に合計100万円の損害賠償義務がある場合、被害者は4人のうち誰に対しても100万円全額を請求することができます。被害者の判断で、請求額を自由に振り分けることも可能です。

ただし、少年らの間では、果たした役割などに応じて内部的な責任割合が決まります。自分の責任割合を超えて損害賠償を支払った場合は、超過額を他の少年らに対して支払うよう請求できます。これを「求償」といいます。

保護者が支払わなければならない?

未成年者である少年らは、被害店舗や被害者に対して損害賠償を支払えるだけの十分な資力を有していないかもしれません。

その場合、保護者も損害賠償責任を負うのかどうかがポイントになります。

この点、保護者に監督義務違反の過失が認められる場合には、保護者も被害店舗や被害者に対して損害賠償責任を負います(民法709条)。

監督義務違反の過失が認められるのは、保護者が少年らの行動を予見でき、かつそれを阻止できた場合です。

たとえば、少年らが以前から万引きや通行人への暴行を繰り返していたといった事情があれば、保護者の監督義務違反の過失が認められる可能性があります。

これに対し、少年らが突発的に万引きや通行人への暴行をしたに過ぎない場合は、保護者の監督義務違反の過失を認定するのは難しいでしょう。

もっとも実際には、保護者が損害賠償責任を負うか否かにかかわらず、保護者が任意に損害賠償を肩代わりする例が多く見られます。

■阿部由羅(あべ ゆら)

ゆら総合法律事務所代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。企業法務・ベンチャー支援・不動産・金融法務・相続などを得意とする。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆にも注力している。