(※写真はイメージです/PIXTA)

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親にとって、子どもは何歳になっても子ども。親として心配になる気持ちは自然なものです。しかし、成人した子どもの生活に親が手を出し続ける続けることが、必ずしも本人のためになるとは限りません。子どもへの仕送りや頻繁な訪問が続けば、自分たちの老後資金を圧迫してしまうこともあります。「心配だから」という親心が暴走した67歳主婦のケースとともに、FPの小川洋平氏が解説します。

40歳の息子に「私がやってあげないと」

「いくつになっても自分の子どもは心配です。母親としておかしいことじゃないですよね?」

地方都市で夫と暮らす真壁美智子さん(66歳・仮名)には、40歳になる一人息子の雄太さん(仮名)がいます。雄太さんは大学卒業後、地元企業に就職。その後一度結婚して家を出ましたが離婚して実家に戻ってきたのでした。

結婚期間中はパートだった妻が家事を担当し、実家にいる間は食事を作るのも洗濯をするのも美智子さん。裕太さんが家事をすることはほとんどありませんでした。

そんな雄太さんに転機が訪れたのは、都内への転勤でした。地方の支店から本店への転勤の“栄転”です。

「雄太、おめでとう! でも……大丈夫なの?」

美智子さんは心配がありました。それは息子の仕事ではなく「生活」です。なにせ40歳にして初めての本格的な一人暮らし。不慣れな環境で自分で生活できるのか――。

息子が引っ越しをしてから、地元の野菜やレトルト食品、日用品などを段ボールいっぱいに詰めて東京へ送るように。息子から「助かるよ」とLINEが届けば、それだけでうれしくなりました。

ところが、東京での生活に慣れ、雄太さんに新しい友人関係ができてくると、少しずつ連絡が減っていきます。荷物を送っても、お礼のLINEすら来ないこともありました。

「もしかして何かあったんじゃないかしら」

ある時、LINEの未読が続いて心配になった美智子さんは、ついに新幹線に乗って息子の部屋へ。「万が一の時のため」と預かっていたスペアキーが役にたちました。

しかし、帰宅したら突然自室にいる母親に、雄太さんは大いに困惑します。

「いちいち来なくていいよ……」
「連絡しなかったからって勝手に部屋に入らないでくれ」

そんな言葉を受けても、美智子さんの心配は収まりません。むしろ「私が直接行かないと、様子がわからない」と、息子のもとへ通う頻度は増えていきました。

ところがそのころ、夫婦の家計には別の問題が起き始めていました。

息子を心配するほど減っていく「老後資金」

美智子さん夫婦の年金収入は月約24万円。以前は雄太さんが実家に毎月5万円の生活費を入れていたため、それほど家計に不安を感じていませんでした。しかし、雄太さんが東京へ転勤するとその5万円がなくなり、家計も大きくマイナスに転じ始めたのでした。

夫婦の生活費は月30万円ほど。単純に考えても、年金だけでは毎月約6万円の赤字です。そこへ息子に会いに行くための交通費や仕送りが加わりました。

美智子さんの住む地域から東京まで、新幹線を利用すると往復で約3万円、それでも美智子さんは月に1回、多いときには2回訪れるようになっていました。さらに地元の野菜や食料品、日用品を購入して宅配便で送る費用も、夫婦の家計から出ていきます。

「また東京へ行くのか? お前、もういい加減にしたらどうだ」

夫からそう言われ、注意されても聞く耳持たずです。

そんな生活を約2年間続けた結果、変化は預金通帳にはっきり表れます。

【2年間の貯金取り崩しの内訳】
・新幹線代:往復 約3万円×18回=約54万円
・食料や日用品の仕送り(商品+送料)=約22万円
・年金で不足する自分たちの生活費の補填:約6万円×24ヵ月=約144万円
・その他、突発的な出費:約40万円

=おおよそ260万円

かつて1,500万円あった預貯金は、1,200万円台前半まで減っていました。そのほかに、夫婦それぞれの葬儀費用などを想定して契約した生命保険が合計400万円ほどありますが、自由に使える預貯金は想像以上のペースで減っていたのです。

「こんなに減っていたの……?」

あらためて支出を計算した美智子さんにも、ようやく不安が芽生えました。

それでも、長年息子の身の回りのことをしてきた美智子さんにとって、「何もしない」という選択は簡単ではありません。いつしか息子の世話をすること自体が、自分の役割のようになっていたのです。

東京へ行く、行かないをめぐって夫婦喧嘩も増えていきました。 息子を心配するあまり、今度は自分たち夫婦の老後が揺らぎ始めていたのです。

子どもの心配の前に、自分たちの老後を「見える化」する

総務省統計局の「家計調査報告〔家計収支編〕2025年平均結果」によると、65歳以上の夫婦のみの無職世帯(※年金などによって家計を営んでいる世帯含む)では、1ヵ月の実収入は25万4,395円、税金や社会保険料などを差し引いた可処分所得は22万1,544円でした。これに対し、消費支出は月26万3,979円です。

つまり平均的な世帯であっても、可処分所得だけでは消費支出を賄い切れていないことがわかります。

美智子さん夫婦の年金月24万円は、この統計と比べても極端に少ないわけではありません。問題は、夫婦自身の生活費だけでも月30万円ほど必要なのに、そこへ息子への仕送りや東京までの交通費を上乗せし続けていたことです。

離れて暮らす子どもに食べ物を送ったり、ときどき会いに行ったりすること自体が悪いわけではありません。しかし、雄太さんはすでに40歳です。仕事を持ち、自分の収入で生活しています。 本人が経済的に困っているわけでもないのに、親が自分たちの老後資金を取り崩してまで支援を続ける必要はないでしょう。

しかも、息子の反応をみると、頻繁に親が訪ねてくることが迷惑になっている可能性のほうが高そうです。息子には大して感謝されず、資産だけが減っていく――それでは本末転倒です。

美智子さんは、残高を見て「こんなに資産が減っていたのか」とようやく危機感を覚えました。ここで「なんとかなる」と流せば、老後の家計は危険な方向へと傾いていくだけです。

そこで重要になるのが「家計の見える化」です。

まず年金などの収入と、食費、住居費、光熱費、保険料、娯楽費などの支出を書き出し、毎月いくら不足しているのかを確認します。さらに現在の預貯金を加え、「この生活を続けた場合、70歳、80歳、90歳で資産はいくら残っているのか」をシミュレーションしてみます。

そうすれば、息子の生活を心配している場合ではなく、まず自分たちの生活を立て直す必要があることに気づくこともできるでしょう。 

老後は現役時代のように給与が毎月入ってくるとは限らず、限られた収入と、それまで築いた資産を組み合わせて生活していくことになります。だからこそ、子どもへの支援についても「してあげたいか」だけではなく、「自分たちの生活を守ったうえで、いくらまでならできるのか」という視点が必要なのです。

自分たち自身の人生とお金に目を向ける

親にとって、子どもが何歳になっても心配なのは当然かもしれません。しかし、子どもの人生と親の人生は別のものです。40歳になった息子には、自分の生活を自分でつくる責任があります。そして美智子さん夫婦にも、自分たちの老後を自分たちで守っていく必要があります。

子どものためと思って続けていた仕送りや頻繁な訪問が、相手から求められていないのであれば、一度立ち止まってみてもいいでしょう。そのお金を夫婦の生活や旅行、これから必要になる医療・介護費などのために残しておくことも、大切なお金の使い方です。

子どもの自立を信じて少し距離を置き、自分たち自身の人生とお金に目を向けること。それもまた、親子がお互いに自立し、長く良好な関係を続けていくために必要なことではないでしょうか。

小川 洋平
FP相談ねっと