この記事をまとめると

■トラックの2024年問題の裏では速度リミッターも問題になっていた

■リミッターの影響で高速道路では追い越し車線を塞いでしまうことも多い

■速度が遅いことに対してドライバー自身が後ろめたさを感じている場合も少なくない

トラックドライバーが語る速度リミッターのジレンマ

 時速90kmしか速度が出せなくなるリミッター(速度抑制装置)の装着が大型トラックに義務付けされてから、もう何年になるだろうか。物流業界は2024年問題で大いに騒がれたが、それよりもはるか前に義務付けされたリミッターの存在がトラックドライバーの暮らしを大きく変えたことには、意外と気づかれていない。この記事を執筆している筆者も、かつては大型トラックのハンドルを握っていた。実際にリミッター装着前と装着後の大型トラックに乗っていたが、これほどまでに環境が変わるのかと痛感させられたほどだ。この部分については、実際に体験してみなければわからないことだろう。

 そんな大型トラックのリミッターが一般社会に与える大きな影響は、高速道路において大型トラックが追い越しをするときに現れる。ほとんど変わらない速度差で追い越しをするため、結構な時間車線をふさいでしまうのだ。そんな場面に出くわし、イライラした経験をおもちの方も少なくないはずだ。「速度が出せない大型トラックは、おとなしく走行車線を走っておけ」。一般のドライバーがそう思うのも、道理である。

 しかし、トラック側にもいろいろな事情が存在する。なにも嫌がらせをするために、車線をふさいでいるわけではないのだ。ここでは、筆者や周囲のドライバーの経験から、その事情について解説したいと思う。

 まずは、車両自体の問題。法律では大型トラックのリミッターは時速90キロで設定されているが、実際は91キロや92キロ程度出すことができる。メーカーによって多少の誤差が生じているため、最高速度で運行していれば追い越しをかける必要が生じるのだ。

 また、大型トラックがすべて90キロで走っているわけではなく、最高速度が80キロに規定されている運送会社もある。時速10キロ程度の誤差であっても、全長12メートルもある大型トラック同士が追い越す際には、それなりの時間がかかってしまう。そのため、一般車は車線をふさがれていると感じてしまうのだ。

高速道路を走るトラックドライバーの本音

 では、なぜ追い越しをする必要があるのか。そこには時間指定に間に合わせるためだとか単純に少しでも早く目的地に到着したいなどという仕事上の理由や、法律で定められている休憩時間や労働時間の事情などさまざまだ。それだけなら仕方ないところもあるのだが、意外と知られていないのがトラックドライバー同士の気遣いである。それが少なくなったと嘆くドライバーも、数知れず存在している。

「追い越しをかけるときに、抜かされる側のトラックがアクセルを抜いてライトカット(ヘッドライトを消して、前に入っていいよと合図をする行為)してくれたり、そういうことが以前は当たり前のようにありました。でも、最近はそんなドライバーに出会うことはほとんどありません。素人というか、サラリーマンドライバーが増えた感は否めないですね。クルーズコントロールで走っている人が多いから、仕方ないところもあるのですが。追い越すときに時間がかかってしまうことは大型トラックのドライバーもわかっているので、その時間を少しでも減らそうとギリギリで車線変更をしている大型トラックも多く見られます」と語る。

 続けて、「でも、それをすると事情を知らない一般車のドライバーから見ると、荒くて危険な行為に映るかもしれません。でも、それは1秒でも追い越し時間を短くしようとする気持ちの表れでもあるのですよ。それにウインカーを出して車線変更をしようとすると、急に加速してきて妨害する一般車が多いので、その対策にもなっています。大型トラックは一度速度が落ちるとすぐに回復できませんし、上り坂なら速度がどんどん落ちてしまいますから。すべての弊害は、やっぱりリミッターですね。同業者の事故がきっかけになっているので政治家のせいにはできませんが、それによる事故も増えたと思いますよ」と、トラックドライバーの実情を述べた。

 最後に、「いまの大型トラックだと、事故を防ぐためにはブレーキとハンドル操作しかない。加速することも、危険回避におけるひとつの手段ですから。それを奪われたことで危険を感じることも多々あります。それに、追い越しでもギリギリまで待つとなると、前車との車間距離も当然短くなりますからね。危険で迷惑だと感じられているとは思いますが、心ない運転をする一般車がそうさせている部分もあるということを、少しでも理解してもらえたらありがたいです」と締めた。

 長年トラックに乗り続けているドライバーでさえも、近年はストレスを感じることばかりだという。そのストレスがイライラへと変わり、事故へとつながってしまうことも大いに考えられる。そのような危険を防ぐためにも、一般車のドライバーにも物流を支えてくれる大型トラックに敬意を表していただけたら幸いだ。