「背中を見て覚えろ」ではなかった――1年密着で先入観を覆された花火師の世界、“本当に好き”で働く若者たちに感じたゾス会社との共通点
●元YouTuberに元看護師も入社
フジテレビのドキュメンタリー番組『ザ・ノンフィクション』(毎週日曜14:00〜 ※関東ローカル)で、16日に放送された「花火師になりたくて〜僕と私が打ち上げる夢〜前編」。茨城県つくば市の老舗・山崎煙火製造所(※「崎」は正しくは「立つ崎」)を舞台に、異業種から花火師の世界へ飛び込んだ若者たちの1年を追った作品で、23日には後編が放送される。
花火は夏のもの。職人の世界は寡黙で、「背中を見て覚えろ」という厳しい世界――そんなイメージを持って取材を始めたという鳥居稔太ディレクター(テレビマンユニオン)。約1年にわたり花火師たちの日常に入り込む中で、その先入観を次々と覆されていったという。

後輩を指導する飯野さん(右) (C)フジテレビ
○門前払いの末に出会った、若手が集まる花火会社
この季節、毎週のように全国各地で花火大会が開催される中で、「今、どういう人が花火師になりたいのだろう」と興味を持ち、昨年6月頃から関東近郊の花火会社へ次々と電話をかけて取材を試みた鳥居D。しかし、夏の花火大会シーズンを前に最も忙しい時期だけに門前払いが続き、なかなか取材先が見つからなかった。
そんな中で取り合ってくれたのが、明治36年創業の老舗・山崎煙火製造所。「手紙を書いたら、“じゃあ一回来てみてください”と応じてくださいました」という。
実際に訪れて、まず驚いたのは若手の多さだった。40代以上しか在籍していない花火会社も多い中で、ここまで若手がいる会社は珍しいという。競技大会で数々の賞を取る実績から、「せっかく花火師になるなら名門で腕を磨きたい」と目指してくる若者もいるそうだ。
“職人の世界”特有の風土があると思いきや、異色の経歴を持つ新人も温かく受け入れられ、職場にはどこか家族的な空気があった。「皆さん職人なので、そんなに撮られたくないのかなと思っていたのですが、作業中にも気さくにしゃべりかけてくれたりするんです。会社のオリジナルTシャツを作ったり、みんなで一緒にやっている感じがあります」と、その雰囲気を説明する。
指導方法も「背中を見て覚えろ」ではなく丁寧に行われており、今回取材した新人たちの中で、辞めた人は1人もいないという。
もちろん、優しいだけの世界ではない。火薬を扱う以上、危険な行為にはきちんと注意が飛ぶ。撮影でも通常は入れない場所までカメラを入れさせてもらったが、安全には細心の注意を払い、色の配合など企業秘密に当たる部分にはカメラを向けないなど、厳格なルールの中で取材を進めていった。

サプライズ花火でプロポーズ (C)フジテレビ
○25発の花火でプロポーズ、密着中に訪れた人生の転機
取材が始まったのは2025年7月。そこから約1年間、若手職人たちの変化を見続けてきた。当初の映像と現在を比べると、「どんどん頼もしくなってるように見えますね」といい、顔つきや立ち居振る舞いの成長からも、1年間の積み重ねを感じた。
中でも当初、鳥居Dが心配していたのが、和歌山からやってきたれおんさん。「最初は肌も白くてスラッとしてて、“これからやっていけるかな”と思ったのですが、今はすっかり日に焼けてなじんでいます」と、その変化に驚く。
「一人でコツコツ仕事をするタイプ」という元看護師で社内唯一の女性花火師・飯野さんは、男性ばかりの職場で積極的になれず悩みながらも、丁寧なマニュアル作りや後輩への指導を重ねて、周囲から頼られる存在に成長した。
1年という密着期間では、仕事の姿だけでなく、人生が動く瞬間に居合わせることも。今回、その象徴となったのが、元YouTuberのよしきさんだ。先輩たちの力も借りて25発のサプライズ花火を打ち上げ、恋人にプロポーズするという一世一代の大勝負に出る。
取材を始めた時には想像もしなかった展開に、鳥居Dは「花火師の方にしかできないことですよね」と、この職業だからこそ生まれた人生の一場面に立ち会えたことを喜んだ。
山崎煙火製造所には若者たちが志願してくるが、業界全体では人手不足が続いているのだそう。鳥居Dは「プロ野球選手のように仕事の内容が広く認知されていないことも大きいと思うので、今回の番組を通して、花火師を目指したくなる若い人が増えたらいいなと思います」と期待を込めた。
●「タイパ」「コスパ」とは真逆…それでも花火に夢中

(左から)作業するよしきさん、飯野さん (C)フジテレビ
取材をして大きく変わった認識の一つが、花火師の“1年”だった。花火大会は夏だけではなく、8月頃から12月まで毎週のように続く。冬の間に花火玉を作り溜めておき、シーズンになると週末の大会へ向け、1週間かけて玉を筒へ入れていく。その作業を延々と繰り返していた。
しかも雨や湿度、乾燥具合によって仕上がりが大きく左右されるため、単純な作業でもない。鳥居Dは取材の合間、花火玉を筒へ入れる作業や梱包を体験したが、「見ているよりやっぱり難しいです」といい、そのうえ作業場は「冬はめちゃくちゃ寒くて、夏はめちゃくちゃ暑い」。この過酷さを知るほど、現場にいる人たちの“花火愛”の強さも見えてきた。
「その作業は当たり前のことで、仕事が終わった後も自主的に技術を磨いたり、飲み会でもいつも花火の話をしているんです」
デジタル化や効率化が進み、「タイパ」「コスパ」という言葉が飛び交う中で、手間のかかる世界へ飛び込む若者たちを、「本当に好きでやりたいことをやっているんだなと思いました」と受け止めた鳥居D。その姿には、「今どきじゃない会社で夢みる僕と私の新入社員物語」(2026年3月22日・29日放送)で取材した「ゾス!」の叫びが飛び交うベンチャー企業の新人たちと、どこか共通するものを感じたそうだ。
○「テレビもそうでしょ?」 花火師と番組制作に感じた共通点
何カ月も時間を費やして作った花火も、打ち上がればほんの一瞬で消えていく。その仕事を見つめるうち、鳥居Dは自身のテレビ制作との共通点を感じるようになった。
その感覚を決定づけたのが、ベテラン職人・佐々木さんとの会話。「口癖のように“花火という商品を作ってる”とおっしゃるのですが、その中で“テレビもそうでしょ?”と言われたんです」。
佐々木さんが意識しているのは、花火職人や熱心なマニアだけが喜ぶものではなく、年に1回ほど花火大会に足を運ぶ大多数の観客を楽しませること。「だから、選曲もお客さんが喜ぶならベタなものでもいい」と割り切っているそうだ。
その考え方が腑に落ちて、「一瞬で終わる花火は、1回の放送で終わるテレビと、どこか似てるなとも思いました」という鳥居D。
一発の大玉も、冬の「星(火薬の粒)作り」から長い時間をかけて準備し、本番では一瞬で消える。ドキュメンタリーも、膨大な時間をかけて取材・撮影し、編集を重ねながら、一度の放送へ向けて完成させる。その過程を知ったからこそ、花火師の仕事に共感する部分も増えていった。
○花火師へのリスペクト…映像で“本物の色”に近づけるために
花火を題材にする以上、その映像にはこだわりをもって番組を制作した。普段の密着取材の撮影は鳥居D自身がハンディカメラで行ったが、花火大会の場面では専門のカメラマンが入り、観客、花火、職人たちと複数の場所に分かれて撮影したという。
さらに、「引きのきれいな花火映像のほとんどは、山崎煙火製造所さん専属のカメラマンの方から協力いただいて、映像を使用させてもらいました」とのこと。職人たちは花火の色に強いこだわりを持つが、肉眼で見た光とテレビ画面に映る光を完全に一致させることはできないことから、少しでも近づけられるように組み込んだ。そこには、花火師たちへのリスペクトが込められている。
約1年の取材で知られざる舞台裏を見届けた鳥居D。その目を通して職人たちの思いを知ったことで、花火を見上げた時、以前とは違うものが見えるようになったそうだ。

(C)フジテレビ
フジテレビのドキュメンタリー番組『ザ・ノンフィクション』(毎週日曜14:00〜 ※関東ローカル)で、16日に放送された「花火師になりたくて〜僕と私が打ち上げる夢〜前編」。茨城県つくば市の老舗・山崎煙火製造所(※「崎」は正しくは「立つ崎」)を舞台に、異業種から花火師の世界へ飛び込んだ若者たちの1年を追った作品で、23日には後編が放送される。

○門前払いの末に出会った、若手が集まる花火会社
この季節、毎週のように全国各地で花火大会が開催される中で、「今、どういう人が花火師になりたいのだろう」と興味を持ち、昨年6月頃から関東近郊の花火会社へ次々と電話をかけて取材を試みた鳥居D。しかし、夏の花火大会シーズンを前に最も忙しい時期だけに門前払いが続き、なかなか取材先が見つからなかった。
そんな中で取り合ってくれたのが、明治36年創業の老舗・山崎煙火製造所。「手紙を書いたら、“じゃあ一回来てみてください”と応じてくださいました」という。
実際に訪れて、まず驚いたのは若手の多さだった。40代以上しか在籍していない花火会社も多い中で、ここまで若手がいる会社は珍しいという。競技大会で数々の賞を取る実績から、「せっかく花火師になるなら名門で腕を磨きたい」と目指してくる若者もいるそうだ。
“職人の世界”特有の風土があると思いきや、異色の経歴を持つ新人も温かく受け入れられ、職場にはどこか家族的な空気があった。「皆さん職人なので、そんなに撮られたくないのかなと思っていたのですが、作業中にも気さくにしゃべりかけてくれたりするんです。会社のオリジナルTシャツを作ったり、みんなで一緒にやっている感じがあります」と、その雰囲気を説明する。
指導方法も「背中を見て覚えろ」ではなく丁寧に行われており、今回取材した新人たちの中で、辞めた人は1人もいないという。
もちろん、優しいだけの世界ではない。火薬を扱う以上、危険な行為にはきちんと注意が飛ぶ。撮影でも通常は入れない場所までカメラを入れさせてもらったが、安全には細心の注意を払い、色の配合など企業秘密に当たる部分にはカメラを向けないなど、厳格なルールの中で取材を進めていった。

○25発の花火でプロポーズ、密着中に訪れた人生の転機
取材が始まったのは2025年7月。そこから約1年間、若手職人たちの変化を見続けてきた。当初の映像と現在を比べると、「どんどん頼もしくなってるように見えますね」といい、顔つきや立ち居振る舞いの成長からも、1年間の積み重ねを感じた。
中でも当初、鳥居Dが心配していたのが、和歌山からやってきたれおんさん。「最初は肌も白くてスラッとしてて、“これからやっていけるかな”と思ったのですが、今はすっかり日に焼けてなじんでいます」と、その変化に驚く。
「一人でコツコツ仕事をするタイプ」という元看護師で社内唯一の女性花火師・飯野さんは、男性ばかりの職場で積極的になれず悩みながらも、丁寧なマニュアル作りや後輩への指導を重ねて、周囲から頼られる存在に成長した。
1年という密着期間では、仕事の姿だけでなく、人生が動く瞬間に居合わせることも。今回、その象徴となったのが、元YouTuberのよしきさんだ。先輩たちの力も借りて25発のサプライズ花火を打ち上げ、恋人にプロポーズするという一世一代の大勝負に出る。
取材を始めた時には想像もしなかった展開に、鳥居Dは「花火師の方にしかできないことですよね」と、この職業だからこそ生まれた人生の一場面に立ち会えたことを喜んだ。
山崎煙火製造所には若者たちが志願してくるが、業界全体では人手不足が続いているのだそう。鳥居Dは「プロ野球選手のように仕事の内容が広く認知されていないことも大きいと思うので、今回の番組を通して、花火師を目指したくなる若い人が増えたらいいなと思います」と期待を込めた。
●「タイパ」「コスパ」とは真逆…それでも花火に夢中

取材をして大きく変わった認識の一つが、花火師の“1年”だった。花火大会は夏だけではなく、8月頃から12月まで毎週のように続く。冬の間に花火玉を作り溜めておき、シーズンになると週末の大会へ向け、1週間かけて玉を筒へ入れていく。その作業を延々と繰り返していた。
しかも雨や湿度、乾燥具合によって仕上がりが大きく左右されるため、単純な作業でもない。鳥居Dは取材の合間、花火玉を筒へ入れる作業や梱包を体験したが、「見ているよりやっぱり難しいです」といい、そのうえ作業場は「冬はめちゃくちゃ寒くて、夏はめちゃくちゃ暑い」。この過酷さを知るほど、現場にいる人たちの“花火愛”の強さも見えてきた。
「その作業は当たり前のことで、仕事が終わった後も自主的に技術を磨いたり、飲み会でもいつも花火の話をしているんです」
デジタル化や効率化が進み、「タイパ」「コスパ」という言葉が飛び交う中で、手間のかかる世界へ飛び込む若者たちを、「本当に好きでやりたいことをやっているんだなと思いました」と受け止めた鳥居D。その姿には、「今どきじゃない会社で夢みる僕と私の新入社員物語」(2026年3月22日・29日放送)で取材した「ゾス!」の叫びが飛び交うベンチャー企業の新人たちと、どこか共通するものを感じたそうだ。
○「テレビもそうでしょ?」 花火師と番組制作に感じた共通点
何カ月も時間を費やして作った花火も、打ち上がればほんの一瞬で消えていく。その仕事を見つめるうち、鳥居Dは自身のテレビ制作との共通点を感じるようになった。
その感覚を決定づけたのが、ベテラン職人・佐々木さんとの会話。「口癖のように“花火という商品を作ってる”とおっしゃるのですが、その中で“テレビもそうでしょ?”と言われたんです」。
佐々木さんが意識しているのは、花火職人や熱心なマニアだけが喜ぶものではなく、年に1回ほど花火大会に足を運ぶ大多数の観客を楽しませること。「だから、選曲もお客さんが喜ぶならベタなものでもいい」と割り切っているそうだ。
その考え方が腑に落ちて、「一瞬で終わる花火は、1回の放送で終わるテレビと、どこか似てるなとも思いました」という鳥居D。
一発の大玉も、冬の「星(火薬の粒)作り」から長い時間をかけて準備し、本番では一瞬で消える。ドキュメンタリーも、膨大な時間をかけて取材・撮影し、編集を重ねながら、一度の放送へ向けて完成させる。その過程を知ったからこそ、花火師の仕事に共感する部分も増えていった。
○花火師へのリスペクト…映像で“本物の色”に近づけるために
花火を題材にする以上、その映像にはこだわりをもって番組を制作した。普段の密着取材の撮影は鳥居D自身がハンディカメラで行ったが、花火大会の場面では専門のカメラマンが入り、観客、花火、職人たちと複数の場所に分かれて撮影したという。
さらに、「引きのきれいな花火映像のほとんどは、山崎煙火製造所さん専属のカメラマンの方から協力いただいて、映像を使用させてもらいました」とのこと。職人たちは花火の色に強いこだわりを持つが、肉眼で見た光とテレビ画面に映る光を完全に一致させることはできないことから、少しでも近づけられるように組み込んだ。そこには、花火師たちへのリスペクトが込められている。
約1年の取材で知られざる舞台裏を見届けた鳥居D。その目を通して職人たちの思いを知ったことで、花火を見上げた時、以前とは違うものが見えるようになったそうだ。

