定年後に幸せになれる人と苦しくなる人の違いはどこにあるのか? 作家・佐藤優さんは、やることを増やすのではなく「人間関係や行動範囲をあえて絞る」ことだと説きます。60代からを後悔なく生きるための「人生の優先順位」の見つけ方を解説。(画像:PIXTA)

写真拡大

定年後に「新しい趣味を始めよう」「友人を増やそう」と意気込む人ほど、実は途中で行き詰まってしまうことがあります。一方で、定年後に「幸せになれる人」は、まったく逆のアプローチをとると作家・佐藤優さんは語ります。

著書『定年後の日本人は世界一の楽園を生きる』(飛鳥新書)で佐藤さんが説くのは、やることを増やすのではなく、自分にとって大切なことを見極め、人間関係や行動範囲をあえて「絞る」生き方。残された人生を後悔なく過ごし、人生の優先順位を正しく決めるための極意とは。

【お金の計算機】65歳時の目標資産をシミュレーションしてみる

定年後に最優先すべきことは何か

まず定年になったら、自分の「したいこと」「やるべきこと」をそれぞれ五つずつ、リストアップしてみる。そこで重複しているものが、いまのあなたにとって最も優先順位の高い項目だ。

私の場合、「したいこと」の第一は神学論文を書くこと。それから、若い世代の教育に携わること。あとは買ったまま積んである軍用機などのプラモデルを数十個つくること。それから中学生のころ夢中になっていたアマチュア無線の免許を更新して、もう一度、やってみたい。さらに加えれば、もっと猫と遊ぶ、などなどである。

一方の「やるべきこと」……まず私は、抱えているいくつかの著作を完成させなければならない。それから大学や高校での教育活動。そして自分の健康管理。さらに、自分に何かあったときのために、家族の経済的な基盤を整えなければならない。

すると、「したいこと」「やるべきこと」の両方に共通するものとして「教育」というキーワードが浮かび上がる。私が優先順位の一位として取り組むべきは、若い人の教育ということになる。

定年後の人たちも、残りの人生で何にどのくらいの時間をかけるのか、じっくり考えるべきだ。それによって、一人一人の人生の価値が決まると言っても過言ではない。

自分の行動範囲や人間関係を限定する

本書を執筆している2025年前後に定年後の人生をスタートさせた人たちは、バブル時代を経験している。日本社会がエネルギーに満ちあふれていた時代を知っている。その時代だからこそ得られた豊富な体験や知識があるのだ。

ともすると、最近の若い人たちは内向きで活力がないなどと言われるのに対し、遊びも含めて、外へ外へと飛び出していった人が多い。

旅行でもグルメでも、この贅沢(ぜいたく)な体験が、現在の社会における衣食住のレベルを底上げしていると思う。たとえば、格安で知られるサイゼリヤのメニューがあれほど種類豊富で美味であるのは、バブル時代にグルメ志向を体験した人たちが、サービスを供給する側にも消費者側にもいるからだと、私は考えている。

目利(めき)きをする力や文化力があり、様々な物事の経験値が高いのが、現在、定年を迎えた人たち。その潜在能力を発揮すれば、やっとデフレから抜け出して賃金が上がりつつある日本社会を救うことができるはずだ。

そんな定年後の再スタートは、遠洋航海から港に帰ってきたときと同じである。そこで錨(いかり)を下ろしたら、自分が培ってきた経験値や人生観で、己を固定するのだ。

そうして、自分の行動範囲や人間関係を限定したうえで、残りの人生を有意義なものに変えていく。なんと素晴らしい時間だろう--。

生きる意味を知っている定年後の人たち

『自分をみつめる禅問答』(南直哉 著・角川ソフィア文庫)によると、カリスマ禅僧は「生きる意味は、あらかじめ存在しない、生きるなかから作られる」とする。すると、その条件下、定年後の人たちこそ「生きる意味」を知っているはずだ。

ただ、それぞれの人間が生きた時代によって、それに相応(ふさ)わしい生き方というものがある。現在、還暦を迎えた人たちは、これまでの同世代以上に、守りに徹する必要があるかもしれない。

具体的に言うならば、支出をできる限り少なくして、マイナスを減らしていく。60歳以降は収入が減り、貯えを取り崩していかざるを得ない。手元資金が増えないとしても、それが減るスピードを遅くすることはできる。

マイナスをなくすことが不可能だとすれば、その度合いを少なくするということに力点を置く。つまり「マイナスのミニマム化」。少なくとも、そう考えると、ずいぶん気持ちが楽になるはずだ。

それは動物で言えば、極力動かないことをモットーとするナマケモノの生存戦略に近い。ナマケモノはなるべく動かずに基礎代謝を減らし、エネルギー消費を極力抑えている。こうした逆転の発想で、これまでずっと生き延びてきたのだ。

「生きる意味」を知っている定年後の人たちは、精神的には豊かな老後を辿(たど)れるはずだ。そのため、あとは金銭的に守りの姿勢に入り、アルマジロのように守りに徹する……大丈夫、月に1000円程度で数千作もの映像を観られる時代、おカネに縛られる必要はない。この書籍の執筆者:佐藤優(さとう まさる)プロフィール
1960年、東京都生まれ、同志社大学神学部卒、同志社大学大学院神学研究科修了(神学修士)。1985年に外務省入省。英国の陸軍語学学校でロシア語を学び、その後、モスクワの日本国大使館、東京の外務省国際情報局に勤務。2002年5月に鈴木宗男事件に連座し、東京地検特捜部に逮捕、起訴され、無罪主張をし、争うも2009年6月に執行猶予付き有罪確定。2013年6月に執行猶予期間を満了し、刑の言い渡しが効力を失った。『国家の罠』『自壊する帝国』『交渉術』などの作品がある。(文:佐藤 優)