純資産12兆円! NISAで大人気の「オルカン」生みの親が明かす、ほったらかしで億り人になる極意

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いまや、NISAの「つみたて投資枠」の代名詞的存在といえる『eMAXIS Slim全世界株式(オール・カントリー)』、通称“オルカン”。その生みの親として知られるのが代田秀雄氏だ。同氏は投資信託の大ヒット商品を作り出しただけではない。金融商品の概念を大きく変えてきた。

個人投資家には馴染みが薄かった「インデックス投資」を普及させるべく、個人投資家向け商品に“ブランド”という考え方を持ち込み、見事ブランディングに成功。その結果、競合他社の類似商品が続々と登場する中で、一貫してシェアを拡大してきた。

また、近著『オルカン思考: 世界経済を味方につける「長期投資」の教科書』では、オルカンへの投資を通じて「世界経済の持続的な成長」を個人の人生に取り込むことの意義を強調。これまで順調に上昇してきた株式市場は、足元では“高値波乱”が顕著となっている。いま、改めて長期投資について考えることの意味は小さくないだろう。

資産25兆円! 最強2大ファンド

『eMAXIS Slim (イーマクシス スリム)』シリーズの看板ファンドである、『オルカン』と『eMAXIS Slim米国株式(S&P500)』(以下「S&P500」)。純資産総額を見ると、オルカンは12兆7000億円、S&P500は12兆3000億円(’26年6月末時点)で国内投資信託の1位と2位を占めている。

国内の個人投資家が買える投資信託(公募投信)は’26年5月末時点で約5900本。純資産総額の合計は約365兆円なので、わずか2本のファンドが5900本の合計純資産の8%近くを占めていることになる。

オルカンもS&P500も、代表的な海外株式インデックスファンドだ。金融商品としては“マネ”がしやすく、実際、競合他社から同様のファンドが多数販売されている。にもかかわらず、この2本が飛び抜けたポジションを築いているのは何故か? そこには金融商品としては類例がない、「ブランド戦略」があった。

代田氏が三菱UFJアセットマネジメントに移籍したのは’08年。当時、個人向けに売れている投資信託の9割がアクティブ型で、“売れ筋”は毎月分配型だった。その状況にすぐ、疑問を感じたという。

「それまで担当していた年金運用などの機関投資家の世界では、ポートフォリオの“コア(中核)”部分はコストの安いインデックスファンドで固め、一部の資金でコストが割高のアクティブファンドでリスクを取りにいく、という手法が主流でした。プロがやっていることを、なぜ個人投資家がやっていないのか、という違和感です」(代田秀雄氏/以下同)

マーケットの値動きに連動させるインデックス投資は機関投資家には当たり前となっていたが、当時の個人投資家には馴染みが薄かった。「守りの資産(運用)」をコア、「攻めの資産(運用)」を“サテライト”とする「コア・サテライト戦略」は、中長期的なリスク・リターンの効率を追求する手法であり、プロ、個人を問わず、今も昔もその有効性は変わらない。

「機関投資家の常識が個人に浸透していけば、インデックスファンドはもっと普及する余地があると考えました」――代田氏の発想が結実し、’09年10月、eMAXISシリーズがスタートすることになる。

対面を捨てた手数料ゼロ戦略

ただ、当時はインデックスファンドに関する情報はマネー誌でも触れられることがなく、マスメディアからの発信はほぼ皆無。証券会社や銀行といった販売側も、依然として手数料の高いアクティブ型のセールスをメインとしていた。

「個人投資家にインデックスファンドを身近な存在に感じてもらうためには、単に良い商品を作るだけでは不十分。販売戦略を練り、“ブランド”として確立する必要がありました」

そこでまず、信託報酬を競合他社よりも安く、分配金を出さない無分配にし、ごく少数のファンドしか導入していなかった販売手数料ゼロの「ノーロードファンド」にすることにした。

特にノーロードは大きな決断だった。手数料がほとんど入ってこないため、対面販売をする証券や銀行の店頭ではほぼ扱ってくれないからだ。しかし、それは織り込み済み。ネット上での非対面販売を主要な販売チャネルにすると決めていた。

「対面販売では、営業マンが勧めてくる“プッシュ型”の販売スタイルが主流。一方、ネット証券は、ユーザーが自分で自由に商品を選択できる“セルフ型”の販売モデルを打ち出していました。個人が自分の意思で投資先を選べる環境が整ったのです。そうした中、『eMAXIS』シリーズという1つのブランドで複数の資産クラスを提供し、個人投資家の選択の幅を広げるという意図がありました」

画期的な施策はまだあった。「ブロガーミーティング」の開催である。個人ブログで投資信託の情報をメインに発信している“ブロガー”に集まってもらい、意見交換会を実施。当時、運用会社が個人投資家やブロガーとつながるのは非常に珍しく、「投資家との信頼関係を築く基盤になったと思います」と述懐する。実は、これが後々、「オルカン」を生む布石にもなった。

米国が先導する形で個人投資家にもインデックス投資が普及。eMAXISシリーズも順調に純資産を積み上げていったが、競合他社も続々とインデックスファンド・シリーズを立ち上げ、eMAXISよりも低コストなものも登場した。熾烈なコスト競争が始まったのである。

新規にインデックス投資を始めるユーザーにとって、投資対象が同じなら割高な手数料を支払う理由は無い。徐々に劣勢に立たされていった代田氏は大胆な手を打つ。’17年2月、コスト競争を勝ち抜くために『eMAXIS Slim』という新しいシリーズを立ち上げたのだ。

コスト削減のため、目論見書や運用報告書などの交付書面はすべてデジタル化し、ネット上で閲覧してもらう。これで、紙の印刷代や郵送料を全カット。

だが、“Slimシリーズ”の最大の特徴は、「業界最低水準の運用コストを将来にわたって目指し続ける」というメッセージを掲げたことだ。これは、同じインデックスファンドで、“Slimシリーズ”よりも信託報酬が安いものが出てきたら、それよりも安くなるように信託報酬を引き下げる、ということを意味する。

私たちは、インデックス投資での長期投資を推奨しています。20年、30年、それ以上持ち続けてもらいたい。となると、今、コストが最安であるだけでなく、10年後、20年後も最安であり続けなくてはなりません。それを明確なメッセージとして打ち出したのです」

販売会社にとってみれば、将来受け取る手数料が下がる可能性を受け入れることになる。販売会社にもインデックス投資の価値観を共有してもらわなければならない。販売会社の力が大きい投信業界にあって、極めて異例のことだった。

大ヒット『オルカン』誕生の秘話

“Slimシリーズ”では、新たに「3地域均等型」というファンドが登場した。日本と先進国、新興国の既存のインデックスファンドを組み合わせたもので、グローバル分散投資のスタンダードにしたいという意図で発売した。

だが、’18年のブロガーミーティングで、ある参加者から「グローバル株式の指数に連動するファンドが欲しい」という意見が出たという。同様の意見は、その前からも散見されており、新たなインデックスファンドの開発に乗り出す。その結果、生まれたのが『eMAXIS Slim全世界株式』――『オルカン』である。

つまり、オルカンは個人投資家のニーズが反映されたもので、そのニーズをすくい上げることができたのは、長年築いてきた個人投資家との基盤、信頼関係があってのことだった。

信頼関係のおかげで、ブロガーをはじめとする個人投資家がSNSなどを通じてオルカンを積極的に推奨。中立的な立場からの〝推し〟は、NISAで投資を始めた層にも響き、オルカンは金融商品では稀な確固たるブランドを確立することになる。

代田氏は、近著で「オルカン思考」という新たな概念を提案している。一見、『オルカン』にあやかったかのように見えるが、さにあらず。「世界の成長に参加しながら、暮らしの豊かさは日本で受け取る」――これがオルカン思考の基本的な枠組みだという。

資産形成を「単なるお金の損得」として捉えるのではなく、資本主義社会や世界経済に対する「健全な関わり」として捉え直す重要性を強調しているのだ。

「インデックスファンドへの投資がゴールなのではなく、ゴールはあくまで豊かな人生を送ること。オルカン思考は、“世界経済の持続的な成長”と“自分の人生という限られた時間軸”をどう結びつけるかという、大きな人生戦略の枠組みなのです」

オルカンに投資することで、国内だけでは得にくい経済成長の成果を資産として蓄積していく。実際の投資は、自動積立などを活用して賢く「仕組み化」し、日々の値動きに一喜一憂せずに淡々と継続する。

とかく老後不安が喧伝されがちな昨今だが、これらの“仕組み”を構築することでお金の不安から解放され、自分自身の人生の主導権を取り戻すことができる、という思考の枠組みである。

だが、言うは易く行うは難し。投資を始めることよりも、投資を続けることのほうがはるかに難しいからだ。長期投資こそ大事だと理解していても、株価の変動に心がかき乱されるときは必ずやってくる。

▼代田秀雄(しろた・ひでお) シロタ・ウェルス・アンド・ウェルビーイング・アドバイザーズ代表。三菱UFJアセットマネジメント前常務取締役。1985年に三菱信託銀行(現・三菱UFJ信託銀行)に入社後、支店での個人資産相談や法人融資業務などを経て、年金資金や投資信託の運用に約30年にわたり携わる。2008年に三菱UFJアセットマネジメントへ移籍し、『eMAXIS』、『eMAXIS Slim』シリーズを立ち上げた“オルカン”の生みの親。’25年4月に退任後、自身の会社を設立。中央大学法学部兼任講師(国際金融論)も務める。’26年4月には、自身初となる一般向け書籍『オルカン思考:世界経済を味方につける「長期投資」の教科書』(Gakken)を上梓。

取材・文:松岡賢治

マネーライター、ファイナンシャルプランナー。証券会社のマーケットアナリストを経て、1996年に独立。ビジネス誌や経済誌を中心に金融、資産運用の記事を執筆。著書に『ロボアドバイザー投資1年目の教科書』『豊富な図解でよくわかる! キャッシュレス決済で絶対得する本 』。■X(旧Twitter)→@1847mattsuu