「抗議します」「反対します」…草の根の市民発信装うbot、政策や選挙の対立局面で「世論」を水増し
[デジタル禍]増殖するbot<3>
◆コロナ禍の2020年5月
<全く賛成できない><不要不急の法改正>
コロナ禍が影を落とし始めた2020年5月、ツイッター(現X)上では、内閣の判断で検察幹部の定年を延長できるとした検察庁法改正案に反対の声が渦巻いていた。
<#検察庁法改正案に抗議します>と、ハッシュタグ付きで一斉投稿する運動も巻き起こった。
当時の安倍内閣が、「首相官邸と近い」と指摘されていた東京高検検事長の定年延長を、従来の法解釈を変更して閣議決定したのは改正案提出前の同年1月。改正案は後付けで整合性をとるかのように受け取られ、検察OBからも一斉に反対の声が上がった。拡大した世論の反発を受け、政府・与党はこの国会での改正案の成立を見送った。
その過程では、国会審議で野党が一斉投稿の運動を持ち出し、「600万を超える投稿があり、反対の声が広がっている」などと訴える一幕もあった。
この運動を巡っては、当時、SNSへの投稿などを自動で行う「bot(ボット)」が使われた可能性も指摘されていた。botを使えば、▽指定の日時やタイミングで投稿する▽特定のキーワードを含む投稿を検知して転載する――ことができ、昼夜を問わず投稿・リポスト(転載)し続けることも可能だ。
SNSによる世論操作を研究する斎藤孝道・明治大教授は、読売新聞の依頼で、一斉投稿に参加した約46万アカウントを抽出し分析した。過去事例に基づきbotアカウントの特徴や挙動を学習させた独自のAI(人工知能)ツールを使用した。
その結果、4割に相当する約18・6万アカウントが「botとみられる」と判定された。ユーザー名に乱数を含み、プロフィル欄に何も記載がないなど、大量作成されたbotに見られる特徴が確認されたという。斎藤教授は「これほどbotが介入していたとすれば異例だ。法案自体に反対される要素が強かったが、世論に与えた影響は小さくないだろう」と話す。
◆「いたちごっこ」
市民の草の根的な発信を装ったbotでの水増し行為は、水面下で横行しつつある。
斎藤教授によるXの分析では、東京電力福島第一原発の処理水の安全性を巡る投稿(23年6〜8月)や、選択的夫婦別姓に関する賛否の投稿(24年1〜5月)でも、botとみられるアカウントがいずれも4割近くに上った。効果は限定的だったとみられるが、「様々な政治的発信に広がりつつあり、政策に影響を及ぼす可能性も否定できない」と斎藤教授は指摘する。
国内外の勢力が世論や社会の分断を図る「影響工作」でもbotの悪用が問題となる中、SNS運営事業者も対策を強化している。Xは「botから安全で自由である状態を確保する」として、botと判定されたアカウントの削除を進めている。
だが、大量投稿によりbotと検知されないよう、多数のbotアカウントを用いて、それぞれが少数の投稿・リポストを行う事例も確認されており、「対策はいたちごっこの状態になっている」(斎藤教授)。
◆ゲームの話題が一転
SNSの影響力が増している選挙も例外ではない。
衆院選の投開票前日の2月7日、X上では野党を支持するあるアカウントが異様な動きを見せていた。ある野党候補を「日本のために必要な政治家だ」などと称賛したり、他党や対立候補らを「大うそつき」などと攻撃したりする投稿をリポストし続け、この日だけで6000回近くに上った。
このアカウントが突如変貌(へんぼう)したのは、衆院解散の見通しが報じられた直後の1月中旬。それまでゲーム関連の話題を中心に年間数十件程度の投稿を行っていたのが、野党を支持したり、他党を批判したりするリポストをするように。選挙期間中のリポスト数は3万4000回超に上り、最大で1分間に23回に達したときもあった。
このアカウントについて、選挙時などのSNS動向を研究する笹川平和財団の大沢淳・上席フェローは「botが使われた可能性が非常に高い」と指摘。「主張が対立する選挙時は特に、SNS上の発信が水増しされている可能性があり、注意が必要だ」と警鐘を鳴らす。
botがはびこるSNS空間にどう向き合っていくかが、問われている。
