【川口 マーン 惠美】「空港で爆薬搭載のドローンが発見された!」”ロシア犯行説”が飛び交うも二転三転する報道――ドイツに迫る「新たな脅威」

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空港で爆薬を積んだドローンを発見!

2026年8月4日の午後11時過ぎ、ライプツィヒ・ハレ空港(以下ライプツィヒ空港)で、爆薬を積んだドローンが発見された。見つかった場所が物騒で、ウクライナの国営貨物航空会社、アントノフ航空の大型貨物機であるAn-124複数が駐機していたすぐそば(An-124は世界最大の貨物機の一つ)。

幸いにも爆発には至らなかったのだが、積まれていたのは『セムテックス』という軍事用、建設(建物の爆破)用の高性能プラスチック爆弾。1958年にチェコスロバキア(現チェコ共和国)で開発された。

セムテックスの特徴は粘土のように自由に形を変えられることで、薄く伸ばして鞄に入れたり、ドローンに仕込んだり、あるいは、爆破したいものに直接貼り付けたりできるのだそうだ。50gもあれば航空機や建造物に重大な被害を与えられるが、ライプツィヒ空港で見つかったドローンはこれを800gも積み、午後7時28分空港に侵入し、An-124にぶつかっていたことが、のちに監視カメラで確認された。

ただ、セムテックスを爆発させるには、火をつけても、ハンマーで叩いてもダメで、起爆装置による強い衝撃と熱が必要だそうで、ライプツィヒ空港の場合、それがうまく働かず、爆発しなかったのだろうと言われている(詳細は調査中)。

いずれにせよ、ドローンが発見されたのは冒頭に述べたように午後11時過ぎで、それも空港バスの運転手が見つけたという。ただ、これについては、なぜか発表が二転三転するので、後述する。

なお、ドローンが見つかった後、空港が閉鎖されたため、着陸できなかった民間の貨物輸送機が再び上空に戻ったが、そのとき、高度400mあたりで何かにぶつかったという報告もあり、2つ目のドローンだったのではないかと推測されている(同機はその後、無事にハノーヴァー空港に着陸)。ただ、高度400mなら、地上近くにいたのとは別の種類のドローンのはずで、ひょっとすると、爆破の模様を撮影するために待機していたのではないかと疑われているが、その破片などは一切見つかっていない。要するに、全ては闇の中。

8月13日現在、調査結果についての警察発表はまだない。

ロシア以外に誰が狙うんだ!

ライプツィヒはドイツ東部の主要都市だが、日本ではそれほど知られていない。そこで、まずライプツィヒ空港について説明しておこう。

この空港は、冷戦時代はもちろん、今日も東欧、中東、アジアへの玄関口として開かれている(ウクライナ戦争が始まるまでは、ロシアとも複数の航空会社の定期便が飛んでいた)。ただ、旅客機の発着はそれほど多くなく、昼間は比較的のどかな田舎の空港という雰囲気だ。

しかし、貨物の取扱量ではフランクフルトに次いで2番目、ヨーロッパ全体でも第4位と聞いてビックリ。なぜなら、世界最大級の国際物流大手DHLの「世界最大、かつ最重要の主要ハブ」がライプツィヒなのだそうだ(前述のハノーヴァー空港に緊急着陸した貨物機もDHLのものだった)。

同空港の貨物エリアの方では、夜になると世界のあちこちから数千トンの貨物が運ばれてきて、それを夜中に一気に仕分け、再発送する。つまり、ライプツィヒ空港は、深夜に貨物機が数分刻みで離発着している「24時間眠らない空港」だという。

それだけではない。さらに驚くのは、NATOの超大型輸送機の共同利用プログラムSALISの本拠地であること。つまり、ウクライナに限らず、NATOの国々が戦車、ヘリコプターなどの重兵器を世界各地に展開するとき、ライプツィヒ空港が重要な役割を果たす。米軍が中東やアフリカに機材や兵士を送るときにも、しばしばこの空港が使われるという。

今回の事件の前日にも、フランスからウクライナ向けの弾薬が運ばれてきたというが、当然ながら、現在はここからピストン輸送で、重兵器、弾薬、装甲車などあらゆる物資がウクライナに飛んでいく。要するに、ライプツィヒ空港というのは単なる地方の民間空港の顔をした軍の重要拠点だった。

そのため、事件の後すぐ、(いつもの如く)何人かの政治家と多くの主要メディアが、「ここを狙う動機のあるのはロシアのみ」と決めつけた。駐独ウクライナ大使も、「ロシア以外に誰がいるというのか!」と断言した。

8月10日になると、ドローンから検出されたDNAが、一昨年、やはりライプツィヒ空港で駐機中だった貨物機に爆発物を仕込もうとして捕まったリトアニア人のDNA情報と一致したという報道があり、「やっぱり今回もロシアの情報機関に雇われた工作員の仕業だ」という声が高くなった(しかし、どちらの事件も背景にロシアがいたという証拠はない)。ロシアは当然のことながら、一切の関与を否定している。

ちなみに、15年も前から続いている本コラムのタイトルは『シュトゥットガルト通信』だが、実は私は7年前、37年も住んだシュトゥットガルトからライプツィヒに引っ越している。つまり、ライプツィヒ空港というのは、現在、私の最寄りの空港だ。

ほんとうはウクライナの犯行なのか?

さて、前置きが長くなったが、私の言いたいのはここからだ。まず、事件直後から数日の間に報道が猫の目のようにくるくると変わったので、そのいくつかを、以下にまとめた。

その1: 最初、「バスを車庫に戻す途中だった運転手が、地面スレスレのところでホバリングしているドローンを発見し、飛び降りてキックし、静止させた」と、あらゆるメディアが報道した。「このままでは飛行機に衝突し、爆発するかもしれない」と思った運転手が、とっさの勇気ある行動で惨事を防いだと言われていた。

しかし、バスの運転手が空港内、しかも軍用エリアで勝手にバスから降りるなど、常識では考えられない。もし、不審な物体を見つけたら、たとえ運転手の趣味がカンフーであったとしても、飛び降りてキック(?)などせず、保安係に連絡するのではないか。

案の定、その後の報道では、「運転手は地面に落ちていたドローンを足で踏んで固定しただけ」に変わり、8月10日には、「運転手は爆発物だとは知らずに、おもちゃだと思って蹴った」になり、その後、「ドローンは地上に転がっていた」に変わった。

それもそのはず、このドローンの積んでいたバッテリーは40分ほどしかもたない。午後7時半に飛んできたドローンが午後11時に地上近くをホバリングしていたはずはなかったのだ。なぜ、このような素人でもわかるようないい加減な情報を、主要メディアまでがまことしやかに流したのか?

その2: 当初、ドローンがぶつかったAn-124には、「前日にフランスから運ばれてきた弾薬が積まれており、もし、爆発していたら、凄まじい惨事となっていた」という報道があった。しかし、翌日には否定され、「フランスの弾薬はすでにポーランドに運ばれており、輸送機は空っぽだった」に変わった。メディアがサービス精神を発揮して、事件をスリリングにしようとしたのだろうか。それとも、本当は弾薬はまだ機内にあったのか?

その3: 「セムテックスは入手が極めて困難であり、背後にどこかの国の情報機関がいることは間違いない」という主要メディアや政府の主張に対して、独立系のメディアの解説者などは、「セムテックスは闇マーケットで難なく入手できる」と言い、見解は完全に食い違っていた。

その4: ドイツの主要メディアや政治家の多くは、いつも通り、最初からロシアが犯人と決めつけているが、独立系のメディアでは、ウクライナの偽旗作戦を疑う意見も出ていた。というのも、ウクライナが犯行に及び、それがロシアのせいにされていた事件というのは、これまでもたくさんあったからだ。

このドローン事件を政治利用する人々

中でも一番有名なのは、2022年に起きたロシアとドイツを結ぶ海底ガスパイプライン、ノルトストリームの爆破事件。当時、多くのメディアはロシア犯人説を唱えていたが、最近になっていろいろな証拠が出始め、ウクライナが関知していたことがほぼ確定している。つまり、ウクライナには前科があるため、今回も疑われているのだ。

なお、今回、ドローンから検出されたDNA情報に関しても、私としてはドイツ当局の発表も100%は信用していない。過去にドイツで起こったテロでは、犯人がなぜか身分証明書を落っことしていったなどという「紛れもない証拠」が出たりしたからだ。

現在、米国がウクライナへの支援を中止して以来、EUもウクライナの支援を渋り始めており、ウクライナは焦っている。支援を取り戻すため、ロシアの脅威を演出するというシナリオは、偽旗作戦の動機としてあり得ないことではないだろう。

さて、ドイツ政府はというと、アレクサンダー・ドブリント内務相は慎重で、「プロによるハイブリッド攻撃の一環」などとロシアの関与を仄めかしつつも、断言は避けている。ただ、ロシアとの緊張関係を何が何でも維持したいその他の好戦的な政治家たちにしてみれば、この事件は、ウクライナへの支援疲れに苦しむ国民に、再度、発破をかける良いチャンスだと思ったのではないだろうか。

さらに、もう一つ考えられるのが、彼らがこれをAfD(ドイツのための選択肢)の駆逐に利用しようとした可能性。9月に行われる旧東独地方の3州の州議会選挙を控え、AfDの攻勢と、自らの劣勢に常軌を逸してしまっているCDU(キリスト教民主同盟)や社民党としては、この事件がロシアの仕業であれば、“親露派AfD”の関与を主張することで、選挙から締め出せるかもしれないからだ。おそらく日本の読者は信じ難いと思うが、勝ちそうなAfD候補者の被選挙権の不当な剥奪は、すでに複数件、起こっている。

さらに穿った見方としては、政府がロシアからの脅威を理由に、「緊迫事態(Spannungsfall)」を宣言するのではないかという疑いさえある。そうなれば、政府はほぼ全ての分野でフリーハンドになり、国民の基本的人権を制限することもできれば、悪夢の州議会選挙を延期することもできる。こういう想像が不自然とは思えないほど、最近のドイツは全体主義の性格を強めている。

しかし、ドイツ国民はバカではない。だから、実際問題としては、ドイツ政府はこの事件でさらに窮地に追い込まれてしまった。

忽然と消えたニュース

一番の問題は、民間機が離発着していると思っていたライプツィヒ空港が、実は、軍事物資輸送の拠点でもあったということを、多くの国民が知らなかったことだ。しかも、ドローンが侵入して4時間も気づかなかったという事実が、この危険な空港の警備の甘さを完全に露呈してしまった。

その結果、国民の気持ちは、「もっとウクライナを応援しなければ」という方向にはいかず、その反対だった。「これでは本当にロシアに狙われても仕方がない」「政府はウクライナのために、我々にこんな危険を強いるのか?」と憤慨したわけだ。政府の第一の義務は、国民の安全を守ることだ。

その途端、主要メディアからロシアの脅威を煽るニュースは忽然と消えた。日本でいうところのNHKに当たる『公共第1テレビ』の8月10日午後8時のニュースでは、ドイツの空港の警備、特にドローン対策を強化するという内容がたった25秒流れたのみ(公共第2テレビの7時のニュースは何もなし)。

その代わりに両局が報じたのは、“人間が原因である気候変動”のせいで猛暑が続き、人が死に、川が干上がり、産業が行き詰まり…という、別ヴァージョンの恐怖ニュース。ちなみにドイツのメディアが怖いニュースを好んで流すのは、おそらくドイツ人が怖いニュースが好きだからだろう。

しかし、爆弾を積んだドローンによる脅威がドイツに迫っていないわけではない。最近、空港はもちろん、軍事基地、エネルギー施設、港湾、物流企業などの近くにドローンが頻繁に出没しているというのは本当のことなので、ロシアを完全に敵に回してしまっているドイツとしては、やはりロシア発のテロには厳重な警戒が必要だろう。8月4日に爆発を免れたことだって、たまたま運がよかっただけかもしれない。

今回、ライプツィヒ空港に停まっていたウクライナの貨物機の横腹には、“Be Brave Like Kherson(ヘルソンのように勇敢であれ)”とペイントされていた。ひょっとすると、そのうち、勇気を持たなければ飛行機に乗れない時代がやって来そうで、勇気のない私としては非常に憂鬱だ。

それにしても、人間はちっとも賢くなっていないと、つくづく思う。

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