「北海道ハイテクAC」の看板を背負い、働きながら競技を続ける島田雪菜【写真:編集部】

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「THE ANSWER 陸上PLUS|STORY」 Athlete Night Games in FUKUI・9.98スタジアム

 名門は、時代とともに形を変えた。その中で何を感じてきたのか――。陸上女子100メートルの島田雪菜(北海道ハイテクAC)が14日に行われた予備予選3組で12秒00(追い風2.6メートル)の5着だった。所属する北海道ハイテクACは、過去には女子100メートル日本記録保持者の福島千里氏、女子100メートル障害の元日本記録保持者・寺田明日香氏らを輩出。世界で戦うトップ選手の育成を目指した時代から、クラブは新しい形にシフトした。在籍10年目の島田は、変化の中で新たな価値を見出し、「北海道ハイテクAC」の看板を背負って走り続けている。(取材・文=THE ANSWER編集部・上田 悠太)

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 地元の風を感じながら走った。福井県出身の島田にとって、今大会は故郷で走れる舞台。予備予選3組。前半こそ思い通りだったが、後半で伸びを欠いた。「最初の50メートルは理想の形で入れたかなと思うのですけど、後半に欲が出てしまって……」と悔やんだ。12秒00で15日の予選には進めなかったが、地元の声援が心地よかった。

 所属する北海道ハイテクACは、日本女子の陸上界を牽引してきた名門クラブとして、一時代を築いた。中村宏之氏の指導のもと、福島氏は100メートル、200メートルで日本記録を樹立(200メートルは現日本歴代2位)。女子100メートル障害で18歳から日本選手権3連覇し、日本勢で初めて12秒台の記録を出した寺田氏も同クラブの出身だ。

 当時、福島氏、寺田氏らはクラブの運営母体である滋慶学園グループの北海道ハイテクノロジー専門学校の職員として競技に取り組み、実業団に近い環境でトレーニングを積んだ。5レーンの130メートル直線走路など、日本屈指の屋内練習施設を完備。まさに雪国のハンディがない充実した環境から、世界と戦うトップアスリートを育成してきた。

 福井・敦賀高を卒業した2017年春から島田は、北海道ハイテクACの一員となった。高校時代はU18日本選手権(当時日本ユース陸上)の200メートル、400メートル優勝などの実績を残した。世界で戦うことを目指し、名門に飛び込んだ。北海道ハイテクノロジー専門学校で3年間、学びながら競技に打ち込んだ。

 ただ、この頃からクラブを取り巻く環境も少しずつ変わり始めた。少子化などの影響もあり、選手は北海道ハイテクノロジー専門学校の職員としてではなく、別の企業などで働きながら競技を続ける形へと移っていった。島田も20年4月に北央電設へ入社した。

 そして黄金期を築いた名伯楽・中村宏之氏は20年秋に勇退。思いを引き継いだ07年世界選手権女子400メートルリレー代表の北風沙織氏は21年3月に退任した。クラブは世界で戦う選手の育成を目指した従来の形から、ジュニア年代の指導を軸とし「アカデミー」に力を注ぐ方針に転換した。

働きながら競技ができる…目指す「社会人アスリートの星」

 島田は今、北央電設の総務部で経理や社員の健康管理に関する業務を担当する。勤務時間は「ちょっと時短」と、午前9時から午後4時まで。「ほぼ高校生のような感覚で、(退勤後)すぐに練習に行ってという感じですね」と笑う。基本は1人で練習し、週末は北風氏が指導をしている北翔大に足を運び、大学生と一緒に汗を流す。

 現在、北海道ハイテクACに所属する選手は3人。島田のほか、女子走り高跳びで2016年日本選手権を制した京谷萌子、男子110メートル障害の高橋佑輔が在籍する。京谷は道内で保健体育の教員として、高橋は公務員として仕事を続けながら、競技に励む。

 加入した当時とは環境も変わった中で、島田は自分なりの競技人生の価値を見つけた。「社会人アスリート」として、働きながら走ることにポジティブな意味を見出す。

「新しいハイテクへと環境が変化していく中で思ったのは、陸上一本だけではなく、働きながら陸上をするということ。両立するからこそ、考えを絞り出せる部分もあるなって思うんです。何より家族や応援してくれる人もいる。自分が選んだ道でやり切った姿を見せたいですし、自分なりの成果を出したいという思いでやっています」

 もちろん、島田が求める成果は、競技場に刻まれる数字だけではない。競技者として、高校時代に出した自己ベスト11秒69の更新は目指しつつ、その先には社会人として競技を続けてきたからこその目標もある。

「代表からは『社会人アスリートの星になれ』とよく言われます。働きながら、競技ができるという姿を見せていきたいです」

 かけっこ教室を開いたり、中学校で社会人アスリートとしての働き方や経験を伝えたりする機会もある。世界を目指すようなトップアスリートだけに、競技を続ける道があるわけではない。仕事をしながら練習時間を捻出し、それぞれの目標を持って、大好きな陸上と向き合う。

 かつて世界を目指して名門に飛び込んだ島田は今、働きながら走るという新たな価値を体現している。その歩みもまた、形を変えた「北海道ハイテクAC」の歴史を次の時代へつないでいる。

(THE ANSWER編集部・上田 悠太 / Yuta Ueda)