父が遺した資産だから…「空き家アパート」を相続した51歳独身女性の葛藤。「自己資金1,400万円で賃貸経営」か「売却」か、下した決断【CFPが解説】
「親から相続した不動産をどうするか」の答えを出せないまま、何年も悩み続けている方は少なくありません。父親から空き家のアパートを継いだ51歳の会社員・ユウコさん(仮名)も、1,400万円の自己資金を投じて改修すべきか決断できずにいました。しかし、自身の資産状況を整理していくと、本当に向き合うべき「根本的な問い」が見えてきました。事例をもとに、不動産相続において“本当に必要な決断”を導き出す方法をCFPの下田幸彦氏が解説します。
父が遺した空き家のアパート…51歳独身女性の「4年間決断できなかった」悩み
会社員のユウコさん(仮名・51歳)は一人っ子で、未婚。4年前に父親を亡くし、実家のある地元に1棟4室のアパートを相続しました。
父と最後まで一緒に住んでいたその建物は、父の死後から空き家のまま残っています。
ユウコさん自身はすでに別の場所に持ち家を構えており、ローンもありません。会社員として安定した収入があり、NISAやiDeCoでの運用も自分なりに続けてきました。金融資産も相応に積み上がっています。
ただ、相続したアパートのことだけは、ずっと決断できずにいました。
「改修して賃貸に出すか、売却して運用に回すか、どちらかで悩んでいます」
悩みを抱えつつも、ユウコさんはすでに工務店に見積もりを依頼していました。改修費用は1,400万円。4室すべてが満室になったとして、費用の回収には8年かかる計算でした。
自己資金1,400万円で「8年後に黒字」…アパート経営の現実に直面
ユウコさんは、融資を受けずに、自己資金から1,400万円を捻出する予定でした。
つまり、手元の現金が一気に1,400万円減ります。そして、満室稼働でも費用の回収には8年かかり、空室が出れば十数年に延びる計算でした。
ユウコさんは60歳または65歳での退職を視野に入れており、「お金次第でどちらにするか決める」と考えていました。改修工事を今すぐ始めたとしても、退職を迎えるころにようやく収支がプラスに転じるかどうか、という計算です。
「アパート経営は自分の仕事と並行してやるには、大変な割に収益はだいぶ先」と、ユウコさん自身も感じていました。
それでもなかなか「やめる」と言い切れなかったのは、父が遺した資産だからという思いがあったからかもしれません。
「そもそも、お金を増やす必要があるのか?」二択の前に見落としていた問い
考えを進めるなかで、ユウコさんはひとつの疑問を抱きました。
「自分が生涯にわたって、いくらのお金が必要なのか」
「アパート経営」か「資産運用」かの二択で悩んでいたはずが、実はもっと手前の問いが解決されていなかったのです。
ユウコさんは一人っ子で未婚、両親もすでに他界しています。誰かに資産を残す必要はありません。ただ、自分一人でこれからの人生を生きていくには何があるかわからない。持ち家に住んでいても、いつかは高齢者施設への入所が必要になるかもしれない。
「お金は多いに越したことはないと思って増やすことを考えているけれど、果たしてどうなんだろうか」
それがユウコさんの本音でした。
【CFPが解説】「動かしにくい資産」を抱え続けるリスク
現状を整理すると、答えはシンプルでした。
ユウコさんの資産状況は、持ち家あり・ローンなし・金融資産あり・会社員として安定収入・NISAとiDeCoで運用中・退職金も約1,800万円の見込み。さらにアパートを売却すれば土地代として約1,000万円が加わります。
この場合、自己資金1,400万円を投じてアパートを改修し、十数年かけて回収を目指すよりも、その資金を流動性の高い金融資産として運用するほうが、老後の選択肢が広がります。
特に、高齢者施設への入所など、まとまった資金が必要になる場面では、不動産は「すぐに換金できない」という弱点があります。一方、投資信託や債券であれば、必要なときに必要な分だけ取り崩せる流動性があります。
アパート経営は「投資」というより「事業」です。仕事を続けながら、空室管理や建物のメンテナンスなどの管理をこなすのは、相当な負担となるでしょう。入居者対応については管理会社を利用することで手間を省くことはできますが、それでも管理費用が収益を圧迫することは避けられません。
さらに、将来は施設入所の可能性もあるなかで、不動産という「動かしにくい資産」を抱え続けることが、本当にユウコさんの老後の安心につながるのか。そこが重要なポイントになります。
自分の“現在地”を知って出した答え
ユウコさんは悩み抜いた末に、こう言いました。
「アパートの修繕契約、やめようと思います。迷っていましたが、売却することを決めました」
現状を数字で把握したユウコさん。「本当に必要なのは、ライフプランのシミュレーションではないか」と、自分自身で考えを整理し、父のアパートを手放すと決断しました。
相続した不動産を巡る悩みは、表面上は「改修か売却か」という二択に見えます。しかし多くの場合、その奥には「自分はこれからいくら必要なのか」「何のためにお金を増やすのか」という、もっと根本的な問いが眠っています。
その問いに答えないまま、「不動産のほうが安定している」「運用のほうが効率がいい」という議論をしても、本当の意味での答えは出ません。
大きな決断をする前に、まず自分の「現在地」と「必要な資金」を把握すること。それが、お金の不安を解消するための、最初の一歩です。
下田 幸彦
青い森FP事務所
代表/CFP®
