「とても50歳には見えませんよ!」と言われて喜ぶ人はどれほどいるか? 「ホメ言葉」が人間関係をギクシャクさせる皮肉な理由
「50歳に見えなーい」「女の子みたーい」「公務員っぽくない」、あるいは「美人過ぎる何々(役職、職種などが入る)」といった発言は、一見ホメ言葉と捉えられがちだ。これらはそれぞれ、若々しさを保つ努力をしている様子、小さな男の子が「女の子のように」かわいらしいこと、杓子定規ではなく、柔軟な考え方をする公務員、美を売りにする必要がない職業にしては美人である、といった意味合いだ。しかしこれらは、果たして現代の社会通念・ポリコレに従った場合、本当に褒め言葉として成立しているのだろうか。【中川淳一郎・ネットニュース編集者】
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高齢者を「若い」と褒めるのは…
相手の容姿や属性や性格が、社会のイメージする固定概念と“いい意味で”異なることを素晴らしさと捉え、これらの感想を述べるのだが、言われる当人からすれば、ひょっとしたら愉快ではないかもしれない。「私の見た目が年相応じゃないってことですか?」「友達から女子っぽいと言われて息子は傷ついている」「職場では空気が読めない人間扱いされている」「私は政治活動で評価されたいのに容姿のことばかり言われる」――なんてことを内面に抱えていることもあるだろう。
高齢者に対してはとかく「85歳に見えませんね」や「70代だと思っていました」などと、実年齢よりも若いと思う旨を伝えがちだ。だが、案外高齢者は年を取っていることを誇りに思っていたりする。知人女性は、「私は94歳だけど、毎朝新聞3紙を読んでいるから社会情勢には詳しいわよ」と言う。「私は95歳だ」と言う男性がいたが、彼の息子からその数分後「オヤジは95歳だと言いましたが、実際は91歳です」と耳打ちされた。「本当は91歳だと聞きましたよ!」と言ったら舌を出して「バレたか!」。
というわけで、社会の雰囲気として「高齢者を若い人扱いするとホメている」というものがあるが、必ずしもそうではない。「いつもお元気そうで何よりです」ぐらいが丁度良いのかもしれない。
元々日本では、特に女性に対して「若ければ若いほどいい」という価値観があった。25歳を過ぎて未婚の女性は「売れ残りのクリスマスケーキ」と呼ばれたり、「オールドミス」という言葉もあった。さすがに昨今はこんなことはポリコレ的に許されないが、顔の見えない匿名のネットでは30歳以上の女性を「BBA(ババア)」と呼んだりもする。だが、フランスでは「女性とワインは古い(熟成する)ほどいい」という言葉があるように、年齢を重ねた女性の魅力を評価している。

「顔が小さい」は、ドイツでは…
現在48歳のマクロン大統領の妻は、24歳年上のブリジットさん。日本でも菊地凛子(45)と染谷将太(33)夫妻のような「姉さん女房」カップルもいるが、芸能人の年の差婚(離婚したカップル含む)でいえば、高橋ジョージ&三船美佳(24歳差)、加藤茶&綾菜(45歳差)、市村正親&篠原涼子(25歳差)、千葉真一&一般女性(28歳差)、石田純一&東尾理子(22歳差)のように、男性が年上であることが多い。こうなると「若い奥さんで羨ましいな」といった話になってくる。
そのような社会ではあるものの、異文化で日本のホメ言葉を使う時は注意が必要だ。ドイツ事情に詳しいコラムニストのサンドラ・ヘフェリンさんは日本におけるホメ言葉「顔が小さい」は、ドイツでは「脳味噌が足りない」的なイメージがあると著書に記した。日本ではスタイルの良さを表す言葉だが、アメリカ人男性に「やせてますね」と言うとムッとされる。skinnyという単語は「ガリガリの弱虫」という意味があるからだ。
かくもホメ言葉は難しいものだが、日本のホメ言葉をさらに複雑化させているのが、「謙遜ないしは自虐的なことを相手に言い、それを否定する形でのお褒めの言葉をもらう」という阿吽の呼吸である。以下のような展開になる。
「最近太っているんですよ」→「全然やせてるじゃないですかー!」
「最近物忘れが激しくて困ってるんですよ」→「たくさんの情報を普段から処理しているから、全然普通の人より色々なこと覚えてますよ!」
「最近シワが増えてしまいましてね」→「えー、53歳でそれってお肌ツルツルじゃないですか! 笑うことが多いからそう思うだけじゃないですか!」
まさに様式美とも言える展開だが、とにかく相手に対して社会通念に従った優しいポリコレ的切り返しをするのが大人としてのマナーとされている。ただ、はっきりと事実を言ってしまっても良いのでは。もちろん、ポジティブな文脈で言う必要はあるが。「少し体重があった方が健康でいられると聞きましたよ」「スマホに音声を吹き込んでメモ作るといいですよ」「シワのない人なんていないので、それは自然現象ですよ」といった感じだ。
我々は他人をホメなくてはいけない強迫観念に苛まされているのではなかろうか。以前、会社の先輩から聞いたのだが、赤ちゃんを初めて見せられた時かわいくなかったのだという。そこで言ったのが「小さ〜い」だった。理由は「なんかホメているように聞こえるのよ」とのこと。無理矢理ホメ言葉風のことを言うより、「おぉ! おめでとうございます!」ぐらいでいいと思う。
ネットニュース編集者・中川淳一郎
デイリー新潮編集部
