(※写真はイメージです/PIXTA)

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安泰と思われていた老後が、子どもによりもたらされた「予期せぬトラブル」によって、予定外の事態となってしまうケースは少なくありません。資産2,000万円・年金月28万円で穏やかな老後を送るはずだった60代夫婦の事例をもとに、子どもの自立をサポートしながら自身の老後資金を守る方法を、CFPの山粼裕佳子氏が解説します。

資産2,000万円・年金月28万円…60代夫婦が思い描いていた「安泰な老後」

カズオさん(仮名・67歳)は、2年前、43年間勤めあげた会社を定年退職しました。以降は年金生活となり、妻のユキコさん(仮名・67歳)と郊外の戸建てでのんびりと暮らしています。

二人の年金額は合わせて月28万円。住宅ローンも完済しているため、年金の範囲内で日常の生活費を回しています。資産は、預貯金が1,000万円、株・投資信託が1,000万円の計2,000万円です。

家の修繕、車の買い替えなど、まとまったお金が必要なときにだけ、貯蓄を取り崩す予定を立てています。このままいけば、平均寿命を超えるまでお金に困ることはないという見通しをもっていました。

ところが、あることがきっかけで状況が一変してしまいます。

「そろそろ帰らなくていいのか?」お盆に帰省した35歳息子の〈仰天告白〉

カズオさん夫婦には、結婚して隣県に住む息子、ダイキさん(仮名・35歳)がいます。

昨年のお盆のこと。ダイキさんが、妻と子どもをおいて一人で帰省してきたのです。

いつも家族3人で顔を見せに来るのに、「一人か、珍しいな。何かあったのか?」とは思いましたが、深く詮索することもないかと考え、とくに問いただすようなことはしませんでした。

ところが、帰省から1週間が過ぎても、ダイキさんは一向に自分の家に戻る気配を見せないのです。いい加減、しびれを切らしたカズオさんは、スマートフォンをいじるダイキさんにこう尋ねました。

「おい、そろそろ帰らなくていいのか? 会社はいつからだ?」

すると、小さくため息をつきながらカズオさんに顔を向けたダイキさん。神妙な面持ちでこう答えたのです。

「実は……帰る家がない。会社も辞めた。離婚したんだ」

カズオさんにしてみれば「寝耳に水」の仰天告白でした。

驚きながらもダイキさんに説明を促すと、「実は、知人に紹介された投資話に引っかかってしまった。当初は予定どおりの配当が入ってきたためすっかり信じ込み、銀行のカードローンや複数の消費者金融を限度額まで使って追加投資をした。それでも足りず、親しい仲でもあった会社の同僚や友人からも借金を重ね、最終的に1,000万円もの借金をつくってしまった」とのこと。

そして、「同僚への返済が滞ったことで社内に知れ渡り、会社に居づらくなり自主退職し、あきれ果てた妻からは三行半を突きつけられた」とのことだったのです。

老後資金計画が「台無し」に…息子の借金1,000万円を肩代わり

文字通り無一文になったダイキさん。妻から追い出される形で、実家に転がり込んできたのです。

話を聞いたカズオさんとユキコさんは、開いた口が塞がりませんでしたが、かわいい一人息子を路頭に迷わすわけにもいきません。

早急に対応しなければならないのが、借金の返済です。しかし、ダイキさんには、今、借金を返済できる見通しがありません。

そこで、カズオさん夫婦は仕方なく自分たちの老後資金から1,000万円を借金返済に充てることにしたのです。

借金の返済ですぐに生活に困るということではありませんが、急激に老後資金が減ってしまったことに対する精神的ダメージは否めません。それ以降、お金の心配が頭から離れなくなってしまったのです。

老後資金計画を根底から見直さなければならないと思いました。

【CFPの助言】共倒れを防ぐ「老後資金の再設計」と親の線引き

予期せぬトラブルによって、老後資金計画が破綻しかけるという事例は少なくありません。そのような場合、生活自体を見直して老後資金計画の再設計をすることが必要です。

緊急時に対応できる現金の確保

借金を肩代わりしたことで、2,000万円あった資産のうち預貯金1,000万円が消失してしまいました。そのため、残りの資産は「株・投資信託1,000万円」のみとなってしまいました。

懸念点のひとつに、現金が不足していることで、急な出費に対応が難しくなっていることが挙げられます。

この先、年齢的なことを考えると、突発的に医療費がかかることや、冷蔵庫、エアコン、洗濯機などの必需品が急に故障してしまうこともあるでしょう。投資商品は価格変動リスクがあり、かつ現金化するまでに多少のタイムラグがあるので、急な出費には対応しづらいという側面があります。

緊急予備資金として、一定額を投資商品の一部から「現金化」しておくことが得策といえるでしょう。

収支の再点検

今一度、支出に無駄がないかを点検して、28万円の年金収入の範囲内で生活することを徹底することも大切です。普段の生活で老後資金を取り崩さないよう生活基盤の再構築を試みる必要があります。

また、67歳という年齢を考えれば、働いて収入を増やすことも検討してみてもいいかもしれません。

内閣府の高齢者の『就業状況調査』によると、65歳〜69歳の男性では約63%、女性では約45%が働いているという結果が出ています。長生きリスクに備え「働けるうちは働きたい」という就労意欲の高い高齢者は増加しているようです。

自分の「心と身体」に相談しながら、年金以外に少しでも収入を得ることができれば将来への見通しも明るくなります。

子の経済的自立の支援

ダイキさんは、資金援助により借金は清算できたものの、根本的な解決には自身の自立が不可欠です。

無一文で実家に居座る状態を長期化させないように再就職までの期限を決めること、再就職後は少額でも実家に生活費を入れることなど、早期の自立を促すルールづくりが重要です。

同時に、また同じ問題を繰り返してしまうことのないよう正しい金融リテラシーを身につけてもらいましょう。

親が「してやれること」と「できないこと」の線引きは大切です。

親の生活基盤は死守する

親は子どもが困っているなら「助けたい」と考えるのは自然なことです。しかし、老後資金を大きく取り崩してまで借金を肩代わりする判断は、共倒れを招くおそれがあります。

また、親が子の借金を肩代わりするケースでは、「贈与税」の対象となる可能性があります。ただし、本人に返済意思があり「一時的に親から借りたお金」であることが証明できれば贈与にはあたりません。贈与とみなされないためには、「金銭消費貸付契約書」の作成や、実際の返済実績など客観的証拠が必要です。

カズオさん夫婦には今後、自宅の修繕費や介護費用、医療費が増える可能性があります。また物価上昇への備えも必要です。年齢を考えれば、一度減った老後資金を働いて元に戻すことは容易ではありません。

親世代は、「自分たちの老後を守ること」も重要な責任であることを忘れてはいけません。親の生活基盤を失ってしまっては、本当の意味で子どもを守ることにはならないからです。

山粼 裕佳子
FP事務所MIRAI
1級ファイナンシャル・プランニング技能士
CFP®