病院での延命治療は、いざ重病になったり、緊急搬送されたりしてからでは受けるかどうか慌てて判断することになる。在宅患者を2000人以上看取ってきた医師の萬田緑平さんは「大学病院の外科に勤めていた経験から、自分だったら受けないと思う治療がいくつかある」という――。
撮影=プレジデントオンライン編集部
医師の萬田緑平氏、2026年6月、群馬県前橋市の萬田診療所にて - 撮影=プレジデントオンライン編集部

■「延命治療」とは具体的に何か

いつか自分が病気になって、回復が見込めない状態になったら、「延命治療はしないでほしい」と家族に伝えている人は多いのではないかと思います。その際、あなたが考えている“しないでほしい延命治療”とは具体的にどんな治療でしょうか。たとえば、口から飲んだり食べたりできなくなったとき、胃ろうや経鼻胃管(けいびいかん)にするのは嫌でも、点滴なら受けたいですか?

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※写真はイメージです - 写真=iStock.com/bee32

延命治療の目的は生命の維持ですから、言ってしまえば、すべての治療は延命治療です。薬を1錠飲むのも、病院に行くのも生命維持=延命のため。骨折を治すために病院に行くのも、場合によっては延命治療と言えるかもしれません。その中で患者さん本人が希望するものは必要な治療で、本人が拒否するものは余計な延命治療だと、僕は考えています。

ただ、回復が見込めない状態になったとき、本人が嫌だと言っても、家族が「やってほしい」と望んで治療が施されることがほとんどです。すでに意識がなかったり、認知症で判断ができない状態になっていれば、家族の意向が優先されるのは言うまでもないでしょう。

■30万人以上が受けている治療

腎臓の働きが悪くなり、血液中の老廃物が排泄できなくなった人に施される人工透析も、延命治療です。人工透析は、人工的に血液をろ過して、血液中に溜まった老廃物や余分な水分を取り除き、浄化された血液を体内に戻します。腎臓がダメになったら生きてはいけないので生きるためには必要な治療であり、週に3回、4時間ほどかけて行います。全国で30万人以上の慢性患者がこの治療を受けています(2024年の統計)。

この治療をやらないと意識障害を起こしたり、肺に水が溜まって呼吸困難になり、そう遠くない時期に生命の危機に瀕することを医者に説明されると、ギリギリまで拒絶していた人も最終的には受け入れるケースが多い。少しでも生き続けたい人や、患者さんを死なせたくない家族にとってはこれも大切な医療です。

■医師の自分が病気になったら

在宅での看取りをしている僕の診療所に来る患者さんは、病院での治療を中止して、自宅で最期を迎えることを選んだがん患者さんとその家族です。なので、僕がすることは、「がんが大きくなって死ぬ」のではなく、人は「誰もが老いて弱って死ぬ」ということを前向きに伝え、家族の内面もケアしながら、患者さんの心の状態を上げること。そして、歩ける人にはできるだけ歩いてもらうこと。それから、医療麻薬を適切に使って痛みを軽減させることぐらいです。本人が望めば点滴もするけれど、本人が望まないことはやりません。

長年、多くの患者さんと向き合いながら、僕自身、自分が病気になったらどうするか? ということもよく考えます。まず、がんだったら、抗がん剤はやらないし、手術もしないと思います。

■心筋梗塞なら病院で治療を受ける

では、がん以外の病気だったらどうするでしょう。僕は具合が悪くなっても体の様子から何が起きているかが、だいたい自分でわかるので、めったなことでは病院に行かないはず。ただ、急に胸が痛くなって「心筋梗塞かな⁉」と思ったときは病院に行くでしょう。心筋梗塞など冠動脈の疾患であれば、現代ではあまりつらい処置なしに、早く見つかれば血液の流れを回復させられるからです。ただし、治療がうまく行かなかった時は、集中治療室なんかに入れないでくださいね。

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※写真はイメージです - 写真=iStock.com/stevanovicigor

心臓というのはずっと動いているぶん、ものすごいエネルギーを必要とするので、心臓を動かす心筋には冠動脈という血管が張り巡らされています。その冠動脈が詰まって血流がちょっとでも途絶えると、その部分の心筋が動かなくなり、たとえば1分間に5リットル血液を送り出していたのが3リットルとか4リットルしか送り出せなくなって、急激に苦しくなります。もう1つは、心筋梗塞とは別の症状ですが、冠動脈のうち、髪の毛ぐらい細い血管が狭くなったり動かなくなると、一時的に血液が流れなくなって「痛〜い!」となります。

僕が医者になった三十数年前は、若い人でも心筋梗塞になると助からずに亡くなる方が大勢いました。でも今は、「痛〜い!」と言っているうちに病院へ行き、緊急カテーテル検査をして血管の閉塞部分を見つけ、そこを広げる治療をすると血流が蘇り、以前なら亡くなっていたような方々の多くが助かっています。それほど心臓系の医療は進歩しています。

ほかに僕が病院に行くとしたら……。たとえば、黄疸(おうだん)が出たらがんのせいかもしれないけれど、胆石(たんせき)の可能性もあって、胆石かどうかは検査しないとわからない。胆石症だったら手術をすれば助かるだろうから、とりあえず検査だけはしとこうかなと思うかもしれません。あとは、虫垂炎(ちゅうすいえん)。いわゆる盲腸の炎症である虫垂炎も病院に行かないと診断はつかないので迷うところです。

医師の僕でも、どこまで回復の可能性を求めて病院に行くか、判断は難しいですね。

■もし余命1カ月になったら?

そう考えると、治療して治る病気なら、そのときの考え方しだいで僕も治療を受けるかもしれません。それに、今は元気だから「あれもイヤ、これもイヤ」と言えますが、実際に死を目前にしたら考えも変わるかもしれません。また、余命1カ月なのか、半年なのか、その治療をすることでどれくらい延命効果があるのかによっても、受けたい治療は変わってきます。

そこで、『死ぬまで生きる 穏やかな死に医療はいらない』(河出新書)にも書いたことですが、「元気な今だから思う、余命1カ月と言われたら受けたくない治療」をいくつか挙げてみようと思います。間違えてほしくないのは、このひとつひとつは、少しでも生き続けたいという人たちにとってはどれも大切な医療です。

僕の場合、治療を受けるか否かを判断する大きなポイントは「意識」です。意識がある限りは家族としゃべっていたいと思うし、治療を受けるかどうかの判断も自分でできます。決して正解ではありませんし、僕としても答えの出ないものもあります。そのあたりもできるだけ率直に話したつもりなので、参考にしていただければうれしいです。

■代表的な延命治療を受けるか

・腎ろう

背中から腎臓に直接チューブを入れて尿を排出すること。がんの勢いが強くて尿管が圧迫され、尿管ステントが入れられないときに行うことが多く、チューブの先に尿を集める蓄尿バッグをつなげ、常にこれを携帯しなければならない。風呂にも入りにくく、仰向けに寝るのがつらい人もいる。

これは余命が半年延びて延命できたとしても、やりたくありません。いや、絶対にやりたくありません。しないでください。

・人工透析

治療内容は前述の通り。緊急の透析は動脈と静脈に太いカテーテルを入れて行うのでかなりの苦痛を伴う。

若ければやろうと思ったかもしれませんが、60歳を過ぎた今はやりません。

写真=iStock.com/Picsfive
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Picsfive

・胃ろう

おなかから胃に穴を開けて栄養を入れるチューブを造設すること。造設は簡単で、入れる時はつらいがその後の苦痛は少ない。

意識がなかったら、回復の可能性があってもやらないように家族に伝えておきます。意識があっても、やりません。

■腸閉塞の治療はかなり苦しい

・イレウス管

萬田緑平『死ぬまで生きる』(河出新書)

腸閉塞になったとき、鼻から腸まで入れる太くて硬くて長いチューブ。小腸の奥のほうまで入れると2メートルくらいになる。

鼻にお箸を突っ込まれると思うだけでも恐ろしいのに、それより太くて長いものを死ぬまで入れるかもしれないとなると……。いくら腸閉塞で苦しんでいてもこれだけは勘弁してほしい。そもそも本来はしなくてよい処置。終末期に余分な点滴を控えると、腸液の分泌が少ないので腸閉塞にはなりづらいし、なったとしてもそこまでひどくならない。在宅で点滴をやめた患者さんのイレウス管を何回抜いたかわかりません。

・人工肛門(ストーマ)

手術で腸をおなかの外に出して人工的に作る便の排泄口。がんによる腸閉塞の場合、これによって延命が期待できるが、作っても、また別の部位が閉塞すれば役に立たないこともある。自分の意思とは関係なく排泄されるので、排泄口周辺の皮膚に便を受ける袋を装着しておかなければならない。しかし、がんが進行していたら、人工肛門にしても便が出ない患者は結構いる。

がん性腹膜炎の場合、腸閉塞→イレウス管→人工肛門は、多くの患者が通る終末期コースです。だから余命1カ月での人工肛門の手術は受けないと思います。

写真=iStock.com/Sheila Alonso
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Sheila Alonso

と、いくつか挙げてみましたが、最近は僕も60歳を超え、やがて必ず来るだろう死に向かう覚悟がだいぶできてきた気がします。余命1カ月ぐらいだなと思ったら、実際どう判断するのでしょう。自分がいったいどんな行動に出るのか? と考えると、むしろそのときが楽しみでもあります。

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萬田 緑平(まんだ・りょくへい)
医師
「緩和ケア 萬田診療所」院長。1964年生まれ。群馬大学医学部卒業後、群馬大学医学部附属病院第一外科に勤務。手術、抗がん剤治療、胃ろう造設などを行う中で、医療のあり方に疑問を持つ。2008年から緩和ケア診療所に勤務し、在宅緩和ケア医として2000人以上の看取りに関わる。著書に『穏やかな死に医療はいらない』(河出書房新社)、『家で死のう! 緩和ケア医による「死に方」の教科書』(三五館シンシャ)など。
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(医師 萬田 緑平 取材・構成=浜野雪江)