金沢市南塚町にあるカフェ「野菜古民家」。

自家栽培の野菜を使ったランチを楽しむことができる一見ふつうのカフェですが、実は、摂食障害の過去をもつオーナーが「生きづらい人の居場所に」と3年前に始めました。今、当事者にとって「救いの場」にもなっています。

「野菜古民家」は、築130年の古民家を改装したカフェで、どこか懐かしい、あたたかみのある空間が広がります。

ランチは、旬の野菜をたっぷり使った身体にやさしいごはん。

この日のメニューは、自家製の豆腐ドレッシングをあわせたサラダと、夏野菜のフリットです。

雑草や虫と格闘しながら…無農薬栽培にこだわるオーナーの思い

「素材の味を楽しんでほしい」とオーナーの山口いづみさんが腕をふるいます。

山口いづみさん「野菜の濃い味を味わっていただきたくて。お客様が『おいしかった』と帰ってくれるように祈りながらやっております」

客「おいしいです。隣の畑で育てている野菜。全部味付けもおいしい、優しい味で」

山口さんのこだわりは、レストランの隣にある畑で育てた無農薬の野菜をできるだけ使うこと。

山口さん「このネギが一回採ってもまた生えてきたネギ。すごい」

畑では、ネギにキュウリ、サトイモなど60種類ほどの野菜を育てています。

ところどころに、雑草や虫が葉っぱを食べた野菜も。

山口さん「農薬、化学肥料はやらずに、米ぬかの肥料で、殺虫剤と除草剤を使わないということでちょっとこの感じ・・・」「なるべく自然のまま、ありのまま、野菜たちも。という感じ」

「ありのままでいい」

そう気づいたのは、かつて、自分自身を肯定できず苦しんだ過去があったからでした。

「自分には価値がない…」過食症と過食嘔吐症に苦しんだ過去

山口さんは中学生のとき、強い衝動で食べ過ぎてしまう「過食症」を発症。

20代のころには、食べては吐くことが止まらない「過食嘔吐症」に。

山口さん「何が起こっているのかわからない。おかしいことをしているのはわかる。頭では。食べて吐くとか、食べるのが止まらないとか」「でもそれはどうにもできないことなんですよ。そこが一番の辛さ」

「自分に価値がないから…」摂食障害は“誰でもかかりうる病気”

国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所によると、摂食障害は、年令、性別、社会的、文化的背景を問わず誰でもかかりうる病気です。

いくつかの要因が重なって発症するとされていて、

▽自己評価が低い・完璧主義といった心理的な要因

▽体型の価値観やいじめといった社会・文化的な要因

▽遺伝や脳機能といった生物学的要因などが考えられています。

山口さん「自分に価値がない、自分を好きじゃないからそうなってたんだって、それがわかったから楽になった。わかるまでの間、ほんとうに360度真っ暗という感じだった」「あんなにしんどい思いをもう他の人にしてもらいたくないってくらいしんどかったから・・」

その思いから2008年に摂食障害の人を支援するNPO法人「あかりプロジェクト」を立ち上げた山口さん。

「生きづらい人の居場所に」と3年前、前のオーナーから「野菜古民家」を引き継ぎ、カフェを始めました。

「食べ物で自分を傷つけてはいけない」畑が気づかせてくれたこととは

ホールを担当する海老江絢香さんも、過食症と向き合い続ける一人です。

海老江絢香さん「仕事のとき以外はたくさん食べて、また次食べるために自発的に吐き出して、また食べてという行動を止められなくて」

野菜の栽培も担当する海老江さんは、畑で自然と向き合ううちに、大きな気づきがあったといいます。

海老江さん「私けっこう食べ物をストレス発散の道具にしてしまったところがあった。でも、もとからつくるようになったら考え方が変わってきたりしません?」

山口さん「大事にするよね、自分でつくった野菜。愛おしくなるっていうか」

海老江さん「食べ物で自分の体を傷つけるまねするのってよくないなって」

山口さん「空虚を食べ物で埋めるっていうか」

海老江さん「でも本当はそれじゃなかった」

山口さん「そう、本当に欲しいのは食べ物じゃないんよね」

海老江さん「こういうところでつくったりしてると、そういうことに使っちゃいけないなって思うきっかけになったかな」

800平方メートルある畑での無農薬栽培は、プロの農家ではない山口さん、海老江さんの2人では、一筋縄ではいきません。

いつしか畑には、いろいろな人たちが手伝いにくるようになりました。

畑は「悩みが小さくなる場所」当事者たちの”救いの場”に

およそ20年前に過食症を発症した表若葉さん。摂食障害の当事者の会で山口さんと出会い、時々ボランティアで畑を訪れているといいます。

表さん「今度、仕事休みの日に草むしりくるんで」

海老江さん「ありがとう!今なんの仕事してるの?」

表さん「ホテルのフロントです」

山口さん「最近始まったんよね」

海老江さん「そのうち慣れますよ」

表若葉さん「日常で仕事したり落ち込むと自分の悩みしかみえなくなる。畑で土触ると小さい虫うごめいていたり、自分の悩み小さいなとか。みなさんとおしゃべりして癒しになって逆に元気になって帰りますね」「救いの場の一つとして大事に大事にしている場所になりますね」

おいしいごはんがあって、みんなと話して。

「食」を通して自分と向き合う機会、そして、自分を大切にするヒントがここにはあります。