《捕獲グマ「ドラム缶で溺死」問題》「数え切れないほどのクレーム」殺到の裏側 「1週間で4回民家にクマ侵入」「銃が撃てない」町が抱えていた切実な事情
「熊を殺しやがって、ふざけんな、コノヤロー」──岩手県雫石町(しずくいしちょう)の農林課では、鳴り止まないこんな抗議の電話に職員たちが疲弊していた。
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事の発端は7月21日、SNS上に投稿された一件のポストだった。雫石町の住宅街に仕掛けられた"ドラム缶罠"に熊が捕獲され、「溺死」という方法で殺処分されていたという情報が一気に拡散されたのだ。大手紙社会部記者が語る。
「この処分方法が大きな議論を呼び、町役場にはクレームの電話が殺到しました。事態は町にとどまらず、岩手県庁までも巻き込む大きな騒動へと発展したのです」
なぜ町は「溺死」を選ばざるを得なかったのか。その事情や、ドラム缶を使った具体的な駆除方法を取材した。(前後編の前編)
「1週間で4回侵入」日常を脅かす熊の恐怖
「7月初めから、民家に侵入する熊の目撃情報が相次いでいました。なかには1週間で4回も侵入されたお宅もあり、キャットフードや漬物、冷蔵庫の中のものまで食い荒らされる被害が出ていたのです」(雫石町農林課の担当者)
雫石町農林課の担当者は、切実な被害状況をそう明かす。入り口を厚さ1センチ以上の木の板で塞いでも、あっさりと破壊されて再び被害に遭う。住民の命と生活を守るため、町は出没が予想される酪農家や住宅地、茂みなど数か所に罠を設置した。
今回捕獲されたのは、まさにこの「複数回民家に侵入した熊」だった。町内すべての罠がドラム缶というわけではなく、場所によって通常の「檻罠」も使い分けているという。ではなぜ、住宅地や酪農家周辺でドラム缶の罠が選ばれたのか。その背景には、現場を縛る厳格なルールと物理的な制約があった。
「この地区は酪農家さんが多く、熊は自分より大きい牛は襲わず、牛の餌を狙ってやってきます。そのため牛舎の近くに罠を仕掛けるのですが、通常の檻罠で捕獲した場合、なかの熊を猟銃で殺処分するには『近くに民家などがない安全な場所』という緊急銃猟の条件を満たす必要があります。つまり、住宅地や酪農家の敷地内では発砲自体ができないのです」(町農林課担当者)
仮に安全が確保できたとしても、発砲音で牛が非常に強いストレスを受けてしまう。さらに、檻ごと別の安全な場所へ運ぼうにも、移動中に興奮した熊が檻の隙間から攻撃してくる危険性があり、職員や猟友会メンバーの安全が保障されない。
そのため、安全が確保できる森などの茂みでは檻罠を使用し、銃が使えない住宅地などでは地元鉄工所に特注した「ドラム缶罠」を使用せざるを得なかったという。ドラム缶罠は、片方の入口が鉄格子になっており、熊が入ると扉が閉まる仕組みだ。
「鉄格子の間隔は1.5センチほどで、大人の熊が1頭入るサイズです。これまで破壊されたことはありませんが、この1.5センチの隙間から麻酔銃や猟銃を発砲することは到底不可能です」(同前)
その結果、溺死による処分をせざるを得なかったのだ。そのことがSNSで拡散されると、町には「数え切れないほどのクレームが殺到」(関係者)したという。
後編では、匿名を条件に取材に応じた地元猟友会関係者の証言をお伝えする。
(後編につづく)
